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#2089 決算分析 : 名古屋四日市国際港湾株式会社 第8期決算 当期純利益 132百万円

日本のモノづくり産業を支える中部地方。その国際競争力の源泉は、自動車や航空機をはじめとする製品を世界へと送り出し、また世界から原材料や部品を受け入れる、強力な海の玄関口にあります。その心臓部である名古屋港と四日市港のコンテナターミナルを一元的に運営するという、国家的な使命を担う企業が、名古屋四日市国際港湾株式会社です。港湾管理組合(行政)と民間金融機関が共同で設立した、他に類を見ない「官民一体」の港湾運営会社。今回は、この日本の国際物流の要衝を司る、巨大インフラ企業の決算を読み解きます。

今回は、日本のモノづくり産業の大動脈である伊勢湾のコンテナターミナルを一元運営するという、極めて公共性の高い事業を担う名古屋四日市国際港湾株式会社の決算を読み解き、そのビジネスモデルや戦略をみていきます。

名古屋四日市国際港湾決算

【決算ハイライト(8期)】
資産合計: 8,588百万円 (約85.9億円)
負債合計: 8,167百万円 (約81.7億円)
純資産合計: 421百万円 (約4.2億円)

当期純利益: 132百万円 (約1.3億円)

自己資本比率: 約4.9%
利益剰余金: 389百万円 (約3.9億円)

まず注目すべきは、総資産が約86億円にのぼる巨大な事業規模と、それとは対照的な自己資本比率約4.9%という低い数値です。通常であれば危険水域ですが、これは同社の事業特性を反映したものです。資産の多くは港湾管理者から借り受けた施設であり、負債の大半が長期的なリース債務などであると推察されます。その中で、約1.3億円という安定した当期純利益を確保している点は、官民一体のインフラ事業者としての、堅実で安定した運営能力を示しています。

企業概要
社名: 名古屋四日市国際港湾株式会社
設立: 2017年5月17日
株主: 名古屋港管理組合四日市港管理組合、株式会社三菱UFJ銀行、株式会社百五銀行、株式会社三十三銀行
事業内容: 名古屋港および四日市港におけるコンテナターミナルの運営、整備計画の策定、関連施設の管理・貸付

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【事業構造の徹底解剖】
同社の事業は、港湾法改正によって可能となった「港湾運営会社制度」に基づき、これまで別々に運営されてきた名古屋港と四日市港のコンテナターミナルを、一体的かつ効率的に運営することにあります。

✔伊勢湾コンテナターミナルの一元運営
名古屋港(飛島ふ頭、鍋田ふ頭)と四日市港(霞ヶ浦地区)に広がる7つのコンテナターミナル(計16バース)を、同社が一元的に管理・運営しています。これにより、両港間での一体的な集荷活動や、効率的な岸壁・荷役機械の運用が可能となり、国際コンテナ戦略港湾としての伊勢湾全体の競争力を高めるという、国家的なミッションを担っています。

✔官民連携による事業モデル
同社の株主は、名古屋港と四日市港の港湾管理者(行政)と、地域の主要な民間金融機関で構成されています。この官民連携(PPP: Public-Private Partnership)により、行政が持つ港湾インフラという資産と、民間が持つ経営ノウハウや資金力を融合させ、より効率的で質の高い港湾運営を目指しています。

✔中部圏モノづくり産業の生命線
同社が運営する伊勢湾は、日本屈指の取扱貨物量を誇り、背後圏に広がる自動車産業や航空機産業をはじめとする、中部地方の「モノづくり産業」の生命線です。原材料や部品を輸入し、高付加価値化された製品を輸出する。この国際サプライチェーンの最重要結節点として、日本の経済安全保障においても極めて重要な役割を果たしています。

 

【財務状況等から見る経営戦略】
特徴的な財務内容の背景にある経営戦略を分析します。

✔外部環境
世界経済の動向、特に主要な貿易相手国である中国や米国の景気は、同社が取り扱うコンテナ貨物量に直接的な影響を与えます。また、国際的なサプライチェーンの混乱や、円滑な物流を阻害する地政学リスクは、常に注視すべき課題です。国内では、他の国際港(京浜港阪神港)との間で、国際基幹航路の誘致競争が常に繰り広げられています。

✔内部環境
名古屋港と四日市港のコンテナターミナル運営を独占的に担っていることが、最大の内部環境的強みです。これにより、安定した事業基盤が確保されています。ビジネスモデルは、巨大なインフラを運営する典型的なアセットヘビー型ですが、その資産(岸壁など)の多くは港湾管理者からの借受であるため、貸借対照表上は固定負債が大きくなる構造になっています。経営の焦点は、いかに効率的なターミナル運営でコストを削減し、荷役サービスの質を高めて、より多くの船会社や荷主を惹きつけられるかにあります。

✔安全性分析
自己資本比率4.9%という数値は、一般的な事業会社とは全く異なる評価軸で見る必要があります。これは、多額のインフラ資産を自己所有せず、長期のリース等で運営する事業モデルの特性を反映したものです。株主に港湾管理者やメガバンクが名を連ねていること自体が、同社の信用力と安定性の証左です。設立以来、着実に利益剰余金を積み上げ、安定した黒字経営を続けていることからも、事業運営が極めて健全であることがわかります。

 

SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・伊勢湾のコンテナターミナル運営を独占的に担う、安定した事業基盤
・港湾管理者と民間金融機関による、強力な官民連携体制
・日本最大のモノづくり産業集積地を背後圏に持つ、地理的優位性
・両港の一体運営による、効率化と国際競争力

弱み (Weaknesses)
・世界経済や国際情勢といった、自社でコントロール不能な外部要因に業績が大きく左右される
・低い自己資本比率という、財務諸表上の見た目の脆弱性

機会 (Opportunities)
カーボンニュートラルポート(CNP)の形成など、環境配慮型の次世代港湾への進化
・自動化・DX化による、コンテナターミナルのさらなる生産性向上
・アジア域内での経済成長に伴う、新たな航路の開設・誘致

脅威 (Threats)
・世界的な景気後退による、コンテナ貨物量の減少
・大規模な自然災害(南海トラフ地震など)による、港湾機能の停止リスク
・他のアジア主要港との、国際ハブポートとしての地位を巡る競争激化

 

【今後の戦略として想像すること】
この事業環境を踏まえ、同社が持続的に成長するための戦略を考察します。

✔短期的戦略
中期経営計画に基づき、既存ターミナルの能力を最大限に引き出すための効率化をさらに推し進めることが最優先です。AIを活用した最適なヤードプランニングや、ゲート処理の迅速化など、DXによる生産性向上の取り組みを加速させるでしょう。また、荷主や船会社への営業活動を強化し、伊勢湾の利用メリットを訴求していくことも重要です。

✔中長期的戦略
「ESG経営」と「SDGs達成」を掲げている通り、環境に配慮した持続可能な港湾運営が大きなテーマとなります。荷役機械の電動化や、水素エネルギーの活用などを通じた、カーボンニュートラルポートの実現に向けた取り組みを本格化させていくことが予想されます。また、国や港湾管理者と連携し、より大型のコンテナ船に対応できる大水深岸壁の整備など、将来を見据えたインフラ投資計画を策定・推進していく中心的な役割を担います。

 

【まとめ】
名古屋四日市国際港湾株式会社は、単なる港湾運営会社ではありません。それは、日本のモノづくり産業の国際競争力を物流面から支え、中部地方の経済を牽引する、国家的にも極めて重要な社会インフラ企業です。決算書に示された一見特殊な財務内容は、その公共性の高い官民連携事業というユニークな成り立ちを反映したものであり、その内実には安定した収益を生み出す強固な事業基盤が存在します。これからも、伊勢湾という日本の海の玄関口で、世界と日本経済を繋ぐ大動脈として、その重責を果たし続けることが期待されます。

 

【企業情報】
企業名: 名古屋四日市国際港湾株式会社
所在地: 名古屋市港区港町1番11号
代表者: 吉田 毅
設立: 2017年5月17日
資本金: 3,200万円
事業内容: 名古屋港および四日市港のコンテナターミナルの運営、整備計画の策定、関連施設の管理・貸付など。港湾法に基づく港湾運営会社として、両港のコンテナターミナルを一元的に管理運営する。
株主: 名古屋港管理組合四日市港管理組合、株式会社三菱UFJ銀行、株式会社百五銀行、株式会社三十三銀行

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