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#2070 決算分析 : extra mile株式会社 第5期決算 当期純利益 13百万円

NFTやブロックチェーンといった技術を基盤とする「Web3」の世界は、次世代のインターネットとして、ゲームやエンターテインメントのあり方を根底から変えようとしています。extra mile株式会社は、まさにこのフロンティアに果敢に挑む、コンテンツプロデュースの精鋭集団です。設立からわずか数年で、人気アニメのスマホゲーム開発から、最先端のブロックチェーンゲーム開発へと事業をシフト。そして2023年、テレビ朝日ミュージックの100%子会社となり、スタートアップの俊敏性と大手メディアグループの資本力・コンテンツ力を併せ持つ、ユニークな存在へと進化を遂げました。今回は、この新時代のエンタメ創造企業の決算を読み解きます。

今回は、テレビ朝日グループの一員として、Web3(ブロックチェーン)ゲームという最先端領域で挑戦を続けるextra mile株式会社の決算を読み解き、そのビジネスモデルや戦略をみていきます。

extra mile決算

【決算ハイライト(5期)】
資産合計: 1,132百万円 (約11.3億円)
負債合計: 1,071百万円 (約10.7億円)
純資産合計: 61百万円 (約0.6億円)

当期純利益: 13百万円 (約0.1億円)

自己資本比率: 約5.4%
利益剰余金: 51百万円 (約0.5億円)

まず注目すべきは、自己資本比率が約5.4%と低い水準にある点です。これは一見すると財務的なリスクが高いように見えますが、同社が急成長を目指す若いスタートアップであり、かつテレビ朝日グループという巨大な後ろ盾を得たことを考慮すると、見方が変わります。事業開発のための先行投資を、親会社からの支援を含む負債で賄っている健全な成長過程と捉えることができます。その中で、当期純利益を確保している点は、事業が堅実に進捗していることを示唆しています。

企業概要
社名: extra mile株式会社
設立: 2020年7月
株主: 株式会社テレビ朝日ミュージック(100%)
事業内容: スマートフォン、PC向けゲームプロデュース、ブロックチェーンサービスプロデュース

https://extramile.jp/

 

【事業構造の徹底解剖】
同社の事業は、「誰も見たことのない新時代のコンテンツ」の創造をミッションに掲げ、特にWeb3・ブロックチェーン領域に注力しています。

ブロックチェーンゲーム事業(未来への挑戦)
現在の事業の中核であり、同社の未来を担う分野です。NFTを活用した競馬ゲーム「NEOBRED」や、人気漫画「花の慶次」のIPを活用したローグライクゲームなど、ブロックチェーン技術をエンターテインメントに昇華させるプロジェクトを推進しています。これは、従来のゲームとは異なり、プレイヤーがゲーム内アイテムを資産として所有できるなど、新しい体験価値を提供するものです。

✔バリデーターサービス事業(Web3インフラへの貢献)
ゲーム開発だけでなく、ブロックチェーンネットワークそのものを支える技術的な事業も手掛けています。様々なブロックチェーンの取引を検証・承認する「バリデーター」のノードを運用することで、ネットワークの安定性とセキュリティに貢献。これにより、技術的な知見を深めると同時に、安定した収益源を確保しています。

テレビ朝日グループとしてのシナジー
2023年11月にテレビ朝日ミュージックの100%子会社となったことは、同社の事業展開において最大の強みです。テレビ朝日グループが保有する膨大なアニメ、ドラマ、音楽といった知的財産(IP)を、今後のブロックチェーンゲーム開発に活用できる可能性が広がりました。また、グループが持つ強力なメディアでのプロモーション力も、ゲームのヒットを後押しする大きな武器となります。

 

【財務状況等から見る経営戦略】
特徴的な財務内容の背景にある経営戦略を分析します。

✔外部環境
Web3やブロックチェーンゲームの市場は、まだ黎明期にあり、先行者利益が非常に大きい一方で、市場の変動や法規制の動向など、不確実性も高い領域です。世界中のスタートアップや大手ゲーム会社がこの新市場に参入し、激しい開発競争を繰り広げています。このような環境では、大胆な先行投資と、それを支える財務的な体力、そして強力なコンテンツ(IP)が成功の鍵となります。

✔内部環境
同社は、人気アニメ「炎炎ノ消防隊」のスマホゲーム開発実績が示すように、従来のゲームプロデュース能力を基盤に持ちながら、Web3という新領域へピボット(事業転換)した、挑戦的な企業文化を持っています。テレビ朝日グループに加わったことで、スタートアップが直面しがちな資金調達の課題を克服し、長期的な視点での大規模な開発に集中できる体制が整いました。

✔安全性分析
自己資本比率5.4%という数値は、単体のスタートアップとして見れば非常にリスキーです。しかし、100%親会社であるテレビ朝日ミュージックテレビ朝日グループ)の存在が、実質的な信用保証となっています。貸借対照表上の負債の多くは、親会社からの開発資金の貸付など、グループ内金融であると推察されます。したがって、財務的な安全性は高く、むしろ親会社の期待を背負い、大胆な投資を行っている健全な状態と評価できます。黒字を確保している点も、堅実なプロジェクト管理能力を示しています。

 

SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
テレビ朝日グループとしての、豊富なIP、資金力、メディア露出といった絶大なバックアップ
ブロックチェーンゲームやバリデーター運営に関する、最先端の技術的知見
・従来のスマホゲーム開発で培った、コンテンツプロデュース能力
・スタートアップとしての、意思決定の速さと挑戦する企業文化

弱み (Weaknesses)
・単体での財務基盤がまだ弱く、親会社への依存度が高い
・Web3ゲーム市場自体がまだ小さく、収益の柱となるには時間が必要

機会 (Opportunities)
・世界的なWeb3・NFTゲーム市場の拡大
テレビ朝日グループの豊富なIPを活用した、他にはないユニークなゲーム開発
・グループのWeb3戦略における、中核的な開発拠点となる可能性

脅威 (Threats)
・Web3や暗号資産に関する、世界各国の法規制の動向
・他の大手ゲーム会社による、Web3市場への本格参入による競争激化
・開発したゲームがヒットしないリスク

 

【今後の戦略として想像すること】
この事業環境を踏まえ、同社が持続的に成長するための戦略を考察します。

✔短期的戦略
現在開発中の「NEOBRED」や「花の慶次」といったブロックチェーンゲームを成功させ、ヒット作を創出することが最優先課題です。テレビ朝日グループの宣伝力を最大限に活用し、初期のユーザーベースを確立。ゲーム内で経済圏をうまく循環させ、「Play to Earn(遊んで稼ぐ)」モデルの成功事例を築くことを目指すでしょう。

✔中長期的戦略
将来的には、テレビ朝日グループの「Web3事業開発本部」としての中核を担っていくことが期待されます。ゲームに留まらず、テレビ番組や音楽ライブと連動したNFTの発行、メタバース空間でのイベント開催など、グループ全体のコンテンツをWeb3技術で拡張し、新たなマネタイズ手法を確立していく役割です。これにより、単なるゲーム開発会社から、メディアコングロマリットの未来を創るイノベーション・ラボへと進化していく可能性があります。

 

【まとめ】
extra mile株式会社は、Web3という未知の荒野を切り拓く、挑戦的なコンテンツスタジオです。その決算書は、スタートアップらしいリスクテイクと、テレビ朝日グループという巨大な資本の後ろ盾を得たことによる特異な安定性が同居する、非常に興味深い姿を示しています。日本の大手メディアが、次世代インターネットの世界でいかにして新たなエンターテインメントを創造していくのか。その答えの一端が、この会社の未来にかかっているのかもしれません。

 

【企業情報】
企業名: extra mile株式会社
所在地: 東京都港区六本木5丁目2番1号 ほうらいやビル 7F
代表者: 玉手 栄
設立: 2020年7月
資本金: 990万円
事業内容: スマートフォン、PC向けゲームプロデュース、ブロックチェーンサービスプロデュース。特に「花の慶次」IPなどを活用したブロックチェーン(Web3)ゲームの開発や、ブロックチェーンのインフラを支えるバリデーターサービスの運営に注力。
株主: 株式会社テレビ朝日ミュージック(100%)

https://extramile.jp/

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