労働人口の減少という大きな課題に直面する日本において、外国人材の活躍は、もはや経済成長に不可欠な要素となっています。しかし、企業が外国人を雇用する際には、在留資格の確認や期限管理といった、日本人雇用にはない複雑な労務管理が求められます。今回は、この「外国人雇用」という専門領域の課題をテクノロジーで解決し、さらに企業のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を幅広く支援するユニークな企業、「DXHUB株式会社」の決算公告を深く読み解きます。在留外国人向け通信サービスから、BtoBのDX支援、そしてSaaS開発へ。事業を変革させながら成長を目指す企業の、現在地と未来への展望に迫ります。
今回は、「最新のデジタル技術と人・企業を繋ぐHUBとなりより良い未来を作る」をミッションに掲げるDXHUB株式会社の決算を読み解き、その事業内容と経営戦略をみていきます。

決算ハイライト(第10期)
資産合計: 698百万円 (約7.0億円)
負債合計: 490百万円 (約4.9億円)
純資産合計: 207百万円 (約2.1億円)
当期純利益: 8百万円 (約0.1億円)
自己資本比率: 約29.7%
利益剰余金: 1百万円 (約0.0億円)
まず注目すべきは、同社が黒字経営を達成している点です。当期純利益は約8百万円と modest ですが、着実に利益を確保し、事業の持続可能性を示しています。自己資本比率は約29.7%と、成長過程にあるIT企業として標準的な水準を維持しています。2020年に現在の社名に変更し、事業内容を大きくDX支援へと舵を切った同社が、安定した経営基盤を築きつつあることがうかがえます。
企業概要
社名: DXHUB株式会社
設立: 2015年10月7日
事業内容: 在留外国人向け通信サービス「JP SMART SIM」、企業のDX化を支援するビジネスソリューション事業(各種クラウドサービス導入支援)、外国人雇用労務管理システム「ビザマネ」の開発・提供、デジタル人材紹介など。
【事業構造の徹底解剖】
同社の事業は、祖業である在留外国人向けサービスで培ったノウハウを、BtoB向けのソリューションへと昇華させている点に大きな特徴があります。
✔在留外国人向け通信サービス(祖業であり、強みの源泉)
同社の原点となるのが、在留外国人向けSIMカード「JP SMART SIM」やモバイルWiFi「SMART WiFi」の提供です。日本の通信契約の難しさ(言語の壁、支払方法の制約など)という、外国人が直面する具体的な「不」を解消するサービスとして成長。「外国人が選ぶSIMカード人気No.1」に選ばれるなど、ニッチ市場で確固たる地位を築いています。この事業で得た多言語対応のノウハウや、在留外国人コミュニティとの繋がりが、後の事業展開の大きな資産となります。
✔ビジネスソリューション事業(企業のDX化を支援)
在留外国人向けサービスで培ったデジタル技術と顧客サポートの経験を活かし、日本企業のDX化を支援する事業です。名刺管理サービス「Sansan」の導入支援では代理店No.1の実績を誇るなど、約50種類のクラウドサービスの中から、顧客の課題に最適なツールを提案・導入・運用までをサポート。企業の生産性向上に貢献しています。
✔SaaS事業「ビザマネ」(社会課題を解決する新機軸)
同社の将来性を象徴するのが、自社開発した外国人雇用労務管理システム「ビザマネ」です。これは、外国人雇用における最大のリスクである「偽造在留カードの確認」や「在留期限の管理漏れによる不法就労」を防ぐためのSaaS(Software as a Service)です。在留カードのICチップを読み取って真贋を判定し、有効期限が近づくと自動でアラートを出すなど、専門知識がない担当者でも簡単かつ確実な労務管理を可能にします。吉野家や鳥貴族といった大手企業も導入しており、まさに社会課題を解決するプロダクトとして急成長しています。
✔DX・デジタル人材事業
企業のDX支援にとどまらず、DXを推進できる「人材」そのものを紹介するサービスも手掛けています。これにより、ツール(モノ)と人材(ヒト)の両面から、顧客のDX化を包括的に支援する体制を構築しています。
【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
日本国内の労働力不足は深刻化の一途をたどっており、外国人材への期待はますます高まっています。それに伴い、外国人を雇用する企業の数も増加しており、「ビザマネ」がターゲットとする市場は今後も拡大が見込まれます。また、あらゆる業界でDX化は待ったなしの経営課題であり、同社のビジネスソリューション事業にも強い追い風が吹いています。
✔内部環境
最大の強みは、ニッチ市場である「在留外国人向けサービス」でトッププレイヤーとしての地位を確立し、そこで得た知見を、より市場規模の大きい「BtoBのDX支援・SaaS事業」へと横展開している点です。特に「ビザマネ」は、自社が外国人向けサービスで直面した課題をプロダクト化したものであり、深い顧客理解に基づいた説得力のあるソリューションとなっています。2020年の社名変更は、このBtoB事業へ本格的にシフトするという、経営陣の明確な意思表示の表れです。
✔安全性分析
自己資本比率約29.7%は、健全な財務状態を示しています。黒字を確保し、利益剰余金もプラスに転じていることから、事業が安定軌道に乗っていることが分かります。流動資産(約5.1億円)が流動負債(約4.1億円)を上回っており、短期的な支払い能力にも問題はありません。SaaS事業のような、初期開発に投資が必要なビジネスを手掛けながらも、安定した財務を維持している点は高く評価できます。
【SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・在留外国人向け通信サービスでNo.1の実績と、そこで培った独自のノウハウ・顧客基盤
・「ビザマネ」という、外国人雇用という社会課題を解決するユニークで成長性の高いSaaSプロダクト
・「Sansan」代理店No.1など、DXソリューション分野での高い営業力と実績
・通信、DX支援、SaaS、人材と、相互にシナジーのある多角的な事業ポートフォリオ
弱み (Weaknesses)
・比較的に新しい市場であり、ブランド認知度のさらなる向上が課題
・SaaS事業は開発競争が激しく、継続的な技術投資が不可欠
・事業の多角化が進む一方、経営リソースの分散が懸念される
機会 (Opportunities)
・国内の労働力不足を背景とした、外国人労働者数の継続的な増加
・企業のコンプライアンス意識向上に伴う、適正な労務管理システムの需要増
・国が推進する中小企業のDX化支援策
・デジタル人材の流動化と、専門人材紹介市場の拡大
脅威 (Threats)
・出入国管理法の変更など、外国人材に関する政策の変更リスク
・SaaS市場における、大手IT企業や新興スタートアップとの競争激化
・景気後退による、企業のIT投資や人材採用の抑制
・偽造在留カードの技術がさらに巧妙化し、ICチップの偽造などが発生するリスク
【今後の戦略として想像すること】
同社は今後、特に成長分野であるSaaS事業「ビザマネ」に注力していくことが予想されます。
✔短期的戦略
まずは、「ビザマネ」の導入社数拡大が最優先事項です。飲食業や人材派遣業といった外国人雇用が多い業界へのマーケティングを強化し、導入事例を増やすことで、プロダクトの信頼性と認知度を飛躍的に高めます。同時に、顧客からのフィードバックを元に、機能の改善・追加を迅速に行い、顧客満足度を高めていくでしょう。
✔中長期的戦略
「ビザマネ」を外国人労務管理のデファクトスタンダードへと成長させ、安定したストック型収益の柱とすることが目標となります。蓄積された外国人材のデータを活用し、新たな事業展開(例:外国人材向けの金融サービスや生活支援サービスとの連携)も視野に入ってくるかもしれません。また、ビジネスソリューション事業で得た知見を活かし、他の業界特化型のSaaSを開発・提供していく可能性も秘めています。
まとめ
DXHUB株式会社の第10期決算は、約8百万円の純利益を確保し、事業の多角化と転換を進めながらも、安定した経営基盤を築いていることを示しました。同社のユニークさは、在留外国人というニッチな市場で得た深い知見を、外国人雇用労務管理SaaS「ビザマネ」という、より大きな社会課題を解決するプロダクトへと昇華させた点にあります。労働人口減少という日本の構造的な課題を追い風に、同社はまさに成長軌道に乗ろうとしています。「最新のデジタル技術と人・企業を繋ぐHUB」として、今後どのような未来を創っていくのか、その挑戦から目が離せません。
企業情報
企業名: DXHUB株式会社
所在地: 京都府京都市下京区中堂寺粟田町93番地 KRP6号館2F
代表者: 代表取締役 澤田 賢二
設立: 2015年10月7日
資本金: 100,000千円
事業内容: 在留外国人向け通信サービス「JP SMART SIM」、ビジネスソリューション事業(クラウドサービス導入支援)、IoT/M2M通信サービス、外国人雇用労務管理SaaS「ビザマネ」、DX推進支援、デジタル人材紹介など。