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#1840 決算分析 : 広伸プラント工業株式会社 第34期決算 当期純利益 150百万円

製紙工場、バイオマス発電所、ごみ処理施設、食品工場。私たちの現代生活や産業活動は、これら巨大なプラント施設によって支えられています。その施設の内部には、製品や蒸気、水、燃料などを安全かつ効率的に運ぶためのパイプラインが、まるで人体の血管のように縦横無尽に張り巡らされています。今回は、そうした産業の“血管”ともいえるプラント配管工事を専門に手掛け、日本のモノづくりを根幹から支える技術者集団、広伸プラント工業株式会社の決算を読み解きます。札幌に拠点を置きながら、その高度な溶接技術を武器に全国のプラント建設に携わる同社。防災設備大手・日本ドライケミカルのグループ企業として見せる、堅実な経営と磐石な財務の安定性に迫ります。

広伸プラント工業決算

決算ハイライト(第34期)
当期純利益: 150百万円 (約1.5億円)

資産合計: 1,497百万円 (約15.0億円)
負債合計: 324百万円 (約3.2億円)
純資産合計: 1,173百万円 (約11.7億円)

自己資本比率: 約78.4%
利益剰余金: 1,163百万円 (約11.6億円)

 

まず注目すべきは、自己資本比率が約78.4%という極めて高い水準にあることです。これは総資産の大部分を返済不要の自己資本で賄っていることを意味し、非常に安定した財務基盤を確立している証左です。総資産約15億円に対し、純資産が約11.7億円と厚く、有利子負債の少ない極めて健全な経営を行っていることが推察されます。当期純利益も1.5億円を確保しており、利益剰余金を着実に積み上げている優良企業の姿がうかがえます。

 

企業概要
社名: 広伸プラント工業株式会社
設立: 1991年7月3日(創業は1973年)
株主: 日本ドライケミカル株式会社 (100%子会社)
事業内容: 各種プラント配管工事、鋼構造物制作取付工事、機器据付工事

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【事業構造の徹底解剖】
同社の事業は、各種プラントにおける配管工事を主軸としながら、それに付随する鋼構造物の製作・設置、各種機械器具の据付までをワンストップで手掛ける、社会インフラに不可欠な専門工事会社としての役割を担っています。

✔プラント配管工事
同社の技術力と実績が最も発揮される中核事業です。事業内容は多岐にわたり、石油精製、製紙、食品・飲料工場といった様々な生産設備から、近年需要が急増しているバイオマス発電所などの再生可能エネルギー施設、そして私たちの生活に欠かせないごみ焼却場や上下水道施設といった公共インフラまで、あらゆるプラントの配管設計・製作・施工を一手に引き受けています。特に、高温・高圧の蒸気や危険物、純度の高い薬液などを扱う配管には、電気事業法やガス事業法で定められた認証を取得した、極めて高度な溶接技術が求められます。同社はこれらの認証を持つ、数少ない技術者集団です。

✔鋼構造物製作・取付工事
プラント内で複雑に交差する配管を支持するための架台や、作業員が安全に移動するためのデッキ、階段といった鋼構造物を、自社の工場で図面通りに製作し、現場で据え付ける工事です。配管工事と鋼構造物工事を一体で受注・管理することで、設計の整合性を保ち、現場でのスムーズな施工と高い品質管理を実現しています。

✔機器据付工事
プラント内に設置されるポンプ、タンク、熱交換器、ボイラーといった各種大型機械器具を、μm(マイクロメートル)単位の精度で設計図通りに据え付ける工事です。機器の据付から、それに繋がる配管の接続までを一貫して対応できる体制が、顧客からの信頼を得る大きな強みとなっています。

 

【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
国内に目を向けると、高度経済成長期に建設されたプラントや社会インフラの老朽化が進行しており、これらの設備を更新・改修する需要は今後も安定して見込まれます。また、脱炭素社会への移行という世界的な潮流の中で、バイオマス発電所地熱発電所といった再生可能エネルギー関連のプラント建設が全国で活発化しており、同社が持つ高度な配管技術への需要は高まっています。一方で、建設業界全体が直面する人手不足、特に熟練した溶接工などの技能労働者の高齢化と後継者不足は、事業を継続していく上での大きな課題です。

✔内部環境
札幌市内に3つの自社工場(平岡、有明、輪厚)を構え、天井走行クレーンや140台以上のTIG溶接機、各種大型加工機械など、充実した設備を保有している点が、同社の競争力の源泉です。これにより、配管や鋼構造物の多くを天候に左右されない工場内で精密に製作でき(プレファブ化)、現場での工期短縮と高品質な施工を実現しています。また、JFEエンジニアリング日立造船住友重機械工業といった日本の産業を代表する大手プラントエンジニアリング会社を主要取引先に持ち、長年の実績を通じて強固な信頼関係を築いていることが、安定した受注活動に繋がっています。2021年以降、防災設備の大手上場企業である日本ドライケミカルの100%子会社となったことで、経営基盤と社会的信用力がさらに強化されたと考えられます。

✔安全性分析
自己資本比率78.4%という極めて高い数値は、財務安全性が盤石であることを示しています。有利子負債が少なく、自己資金が潤沢であるため、景気の変動や特定のプロジェクトの成否に経営が大きく左右されることのない、非常に強い抵抗力を持った経営体質です。約11.6億円にのぼる利益剰余金は、これまでの健全経営の証であり、将来の設備更新や高度な技術を持つ人材の育成、そして新たな事業機会への投資を支える強力な基盤となっています。

 

SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
自己資本比率78.4%という、業界でもトップクラスの極めて健全で安定した財務基盤。
電気事業法等の認証を持つ高度な溶接技術と、それを支える多数の有資格者を擁する高い専門技術力。
・北海道から全国まで、石油化学、製紙、発電、公共インフラなど、多様なプラントを手掛けてきた約50年にわたる豊富な工事実績と信頼。
・大手エンジニアリング会社との強固な取引関係と、防災大手・日本ドライケミカルのグループ企業であることによる絶大な信用力。

弱み (Weaknesses)
・事業の性質上、公共事業の動向や企業の設備投資計画に業績が大きく左右される。
・建設業界に共通する課題であるが、熟練技能労働者の高齢化と、若手人材の確保・育成が長期的な課題。

機会 (Opportunities)
・全国で進む、老朽化した工場・社会インフラ設備の更新・メンテナンス需要の継続的な増大。
カーボンニュートラル達成に向けた、バイオマス発電・地熱発電・水素関連施設など、再生可能エネルギー関連のプラント建設市場の拡大。
・地元北海道における、次世代半導体工場(ラピダスなど)の建設に伴う、過去に例のない規模のプラント工事の発生。
・親会社である日本ドライケミカルが手掛ける大規模施設の防災設備(スプリンクラー等の消火配管)との連携による、安定的な受注機会の拡大。

脅威 (Threats)
・鉄鋼などの建設資材価格の世界的な高騰や、原油高に伴うエネルギーコストの上昇による、工事利益の圧迫。
・国内のプラント工事市場における、同業他社との受注競争の激化。
・日本全体で深刻化する人手不足による、労務コストの上昇と、それに伴う工期の長期化リスク。
地震や豪雨など、大規模な自然災害による工事の中断やサプライチェーンの混乱リスク。

 

【今後の戦略として想像すること】
強固な事業基盤と財務基盤を持つ同社は、既存事業の深化と新たな機会の獲得を両輪で進めていくと考えられます。

✔短期的戦略
既存の強みである高い技術力を活かし、安定した受注を確保することが基本戦略となります。特に、今後数年間にわたって本格化することが確実な、地元・北海道でのラピダス関連工場の建設プロジェクトにおいて、クリーンルームのユーティリティ供給設備や排ガス処理設備などの特殊な配管工事を受注できるかどうかが、短期的な業績を大きく左右する重要な試金石となるでしょう。また、将来を見据え、若手技能労働者の採用と、熟練工からの技術継承を目的とした社内教育プログラムの強化が急務です。

✔中長期的戦略
親会社である日本ドライケミカルとのシナジーを最大限に追求することが、新たな成長の鍵となります。日本ドライケミカルが受注する大規模な工場や倉庫、データセンターなどの防災設備工事において、心臓部である消火配管の製作・施工を担うことで、グループ内での安定した仕事量を確保できます。また、自社のプラント配管技術は、将来の水素ステーションや蓄電施設といった次世代エネルギーインフラの建設にも応用可能です。こうした新分野への挑戦が、未来の事業の柱となりうるでしょう。

まとめ
広伸プラント工業株式会社は、北の大地・札幌を拠点に、全国の産業インフラの“血管”を創り、守り続ける、高度な技術を持つプラント配管のスペシャリスト集団です。今回の決算では、自己資本比率78.4%という傑出した財務健全性を示し、浮き沈みの激しい建設業界において、いかに安定した経営基盤を築いているかを証明しました。当期においても1.5億円の純利益を計上し、着実に利益を蓄積しています。今、地元北海道ではラピダスの工場建設という、まさに歴史的な巨大プロジェクトが進行しており、同社のような高い技術力を持つ地元企業への期待は日に日に高まっています。今後は、この千載一遇の機会を確実に捉えつつ、親会社である日本ドライケミカルとの連携を深めることで、防災設備と生産設備の両面から、日本の産業基盤を支えるより一層重要な役割を担っていくことが期待されます。

 

企業情報
企業名: 広伸プラント工業株式会社
所在地: 札幌市清田区平岡一条四丁目6番2号
代表者: 代表取締役 柄澤 秀樹
設立: 1991年7月3日
資本金: 1,000万円
事業内容: 各種プラント配管工事、鋼構造物製作取付工事、機器据付工事
株主: 日本ドライケミカル株式会社(100%)

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