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#1811 決算分析 : 東芝エレベータ株式会社 第61期決算 当期純利益 23,695百万円

東京を代表するタワー建築物、あべのハルカス、そして麻布台ヒルズ森JPタワー。日本の空にそびえ立つ数々の超高層ビルの垂直移動を、安全かつ快適に支えているのが東芝エレベータ株式会社です。私たちは普段何気なく利用しているエレベーターですが、その裏側では、最先端技術と地道な保守サービスが融合した巨大なビジネスが展開されています。今回明らかになった同社の決算は、売上高1,744億円に対し、当期純利益が237億円という驚異的な収益性を記録。この巨額の利益はどこから生まれたのか。日本の社会インフラを担う「隠れた巨人」の決算書から、その強さの源泉と未来への戦略を読み解きます。

東芝エレベータ決算

決算ハイライト(第61期)
資産合計: 138,312百万円 (約1,383億円)
負債合計: 71,405百万円 (約714億円)
純資産合計: 66,906百万円 (約669億円)

売上高: 174,403百万円 (約1,744億円)
当期純利益: 23,695百万円 (約237億円)

自己資本比率: 約48.4%
利益剰余金: 36,238百万円 (約362億円)

 

今回の決算で最も注目すべきは、その驚異的な当期純利益です。売上高1,744億円、本業の儲けを示す営業利益が54億円であるのに対し、最終的な当期純利益は237億円に達しています。この利益の飛躍的な増加は、245億円という巨額の「特別利益」によってもたらされました。これは、2025年2月に発表された中国事業の美的集団への売却に伴う利益計上と強く推測され、同社が事業ポートフォリオの大きな見直しを断行したことを示唆しています。本業で堅実に利益を確保しつつ、事業の「選択と集中」によって得た資金を元手に、次なる成長への布石を打つ。そんなダイナミックな経営戦略が垣間見える決算内容です。また、自己資本比率48.4%という健全な財務基盤も、同社の安定性を物語っています。

 

企業概要
社名: 東芝エレベータ株式会社
設立: 1967年2月18日
株主: 株式会社 東芝、KONE Nederland Holding B.V.など
事業内容: エレベーター、エスカレーター等、昇降機の開発、設計、製造、販売、据付、保守、リニューアル、およびビル管理システムの提供。

www.toshiba-elevator.co.jp

 

【事業構造の徹底解剖】
東芝エレベータのビジネスは、大きく4つの柱で構成されており、それぞれが有機的に連携することで強固な事業基盤を築いています。

✔新設事業
超高層ビルや大規模商業施設、マンションなどに、最新技術を駆使したエレベーターやエスカレーターを設計・製造・据え付ける事業です。TAIPEI101に納入した世界最高速(当時)エレベーターや、東京スカイツリー®の大容量・高速エレベーターなど、数々のランドマークへの納入実績は、同社の技術力とブランド価値の象徴です。これは、新たな保守契約獲得の入口となる重要な「フロービジネス」の柱です。

✔保守・メンテナンス事業
同社の収益基盤を支える、極めて安定した「ストックビジネス」です。全国約250カ所に広がるサービス拠点を活かし、納入した昇降機の保守点検や修理を24時間365日体制で行います。一度設置すれば長期にわたる保守契約が見込めるため、景気の波に左右されにくい安定した収益を生み出しています。

✔リニューアル事業
国内市場における最大の成長ドライバーです。高度経済成長期に設置された多くのエレベーターが更新時期を迎える中、それらを最新の機種に入れ替える需要が拡大しています。単なる機器の交換に留まらず、最新の安全基準への適合、大幅な省エネルギー化、ユニバーサルデザインへの対応など、ビルの資産価値を向上させる提案で、新たなビジネスチャンスを創出しています。

✔グローバル事業
フィンランドの世界的な昇降機メーカー「KONE」社との資本提携も活かし、経済成長が著しいアジアや中東を中心に事業を展開しています。特に、都市化が急速に進むインドや東南アジアにおいて、高品質な製品とサービスを提供し、海外での需要を取り込んでいます。

 

【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
国内では、都心部を中心とした大規模な再開発プロジェクトが活発であり、高性能な新設エレベーターの需要は引き続き堅調です。加えて、社会インフラの老朽化は、同社にとってリニューアル事業という大きなビジネスチャンスをもたらしています。一方で、建設業界全体が直面する資材価格の高騰や深刻な人手不足は、コストを押し上げる大きな懸念材料です。

✔内部環境
今期計上された巨額の特別利益は、前述の通り中国事業の売却によるものと考えられます。これは、グローバル競争が激化する市場において、事業ポートフォリの「選択と集中」を大胆に進めるという経営陣の強い意志の表れです。安定収益源である国内の保守・リニューアル事業に軸足を置きつつ、ここで得た利益と事業売却による資金を、成長が期待されるDX関連の新サービスや、東南アジア・インドといった新たな海外市場へ再投資していく戦略が明確に見えます。

✔安全性分析
自己資本比率48.4%、利益剰余金約362億円と、財務基盤は非常に安定しています。短期的な支払い能力を示す流動比率流動資産÷流動負債)も約189%と極めて高い水準にあり、資金繰りに関する懸念は全くありません。今回の事業再編で得た潤沢なキャッシュを元手に、さらなる成長投資や株主還元を機動的に行えるだけの十分な体力を有しており、財務安全性は万全です。

 

SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
東京スカイツリー®など数々のランドマークへの納入実績が示す、世界トップクラスの技術力とブランド信頼性
・全国約250拠点を有する強力な保守網と、それによる安定したストック収益
・開発から製造、据付、保守、リニューアルまでを網羅する一貫した事業体制
フィンランドのKONE社との提携による、グローバルな技術・情報の活用

弱み (Weaknesses)
・親会社である東芝の経営状況が、ブランドイメージに間接的な影響を与える可能性
・国内の新設市場は成熟しており、三菱電機日立ビルシステムといった国内大手との熾烈な競争環境にある

機会 (Opportunities)
・首都圏を中心とした大規模な都市再開発プロジェクト
・インフラ老朽化に伴う、巨大なエレベーターリニューアル市場の拡大
クラウドサービス「ELCLOUD」など、DX・IoT化による保守サービスの高度化と新たな価値創出
・経済成長が続くインド、東南アジア、中東市場での昇降機需要の拡大
・エレベーターを核としたスマートビルディング・ソリューションへの事業展開

脅威 (Threats)
・建設資材価格や労務費の高騰による、収益性の圧迫
・長期的な国内の人口減少に伴う、建設市場全体の縮小リスク
・KONE、オーチスといった海外メジャーや、価格競争力のある中国メーカーとのグローバルな競争
・大規模な地震などの自然災害が事業活動に与えるリスク

 

【今後の戦略として想像すること】
選択と集中」を終え、新たな成長フェーズへと移行する戦略が鮮明に見えます。

✔短期的戦略
まず、中国事業売却で得た潤沢な資金を活用し、成長分野への投資を加速させると考えられます。特に、国内の旺盛なリニューアル需要に応えるための営業・技術体制の強化や、成長市場であるインド、東南アジアでの生産・販売網の拡充に注力するでしょう。また、クラウドを活用した遠隔監視・保守サービス「ELCLOUD」の普及を推進し、保守事業の付加価値向上と業務効率化を両立させていくと予想されます。

✔中長期的戦略
「ビルソリューションプロバイダー」への進化が大きなテーマとなるでしょう。エレベーターを単なる上下移動の手段としてだけでなく、ビル内の物流(配送ロボットとの連携)、セキュリティ(顔認証システムとの連動)、情報提供(かご内サイネージ)のハブと位置づけ、ビル全体の利便性と資産価値を高めるソリューションを展開していくことが期待されます。これにより、機器の販売や保守といった従来のビジネスモデルを超えた、新たな収益源の確立を目指すと考えられます。

 

まとめ
東芝エレベータは、数々の日本のランドマークを手掛ける世界トップクラスの技術力と、全国を網羅する保守ネットワークによる安定したストックビジネスを両輪とする、極めて収益性の高い優良企業です。今期決算では、中国事業の売却とみられる戦略的な判断により237億円という巨額の利益を計上し、新たな成長ステージへの準備を整えました。今後は、国内の巨大なリニューアル市場を確実に取り込みつつ、DXを活用した次世代のビルソリューションや、成長著しい海外市場で、日本のものづくりの真価をさらに発揮していくことでしょう。私たちの日常を支える「垂直のインフラ」は、今、未来に向けて大きく飛躍しようとしています。

 

企業情報
企業名: 東芝エレベータ株式会社
所在地: 神奈川県川崎市幸区堀川町72-34
代表者: 鈴木 正広
設立: 1967年2月18日
資本金: 214億772万8千円
事業内容: 昇降機(エレベーター、エスカレーター等)及びビル管理システムの開発、設計、製造、販売、据付、保守、リニューアル
株主: 株式会社 東芝、KONE Nederland Holding B.V.、Security Trading Oy

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