決算公告データ倉庫

決算公告を自分用に収集・コメントし保管する倉庫。あくまで自分用であり、引用する決算公告を除き内容の正確性/真実性を保証できない点はご容赦ください。

#1809 決算分析 : 札幌テレビ放送株式会社 第84期決算 当期純利益 1,565百万円

どさんこワイド」でおなじみ、北海道で圧倒的な存在感を放つテレビ局、STV札幌テレビ放送。長年にわたり道内視聴率トップの座に君臨し続けるローカル局の雄ですが、テレビ業界全体が大きな変革期を迎える中、その経営の舵取りはどのように行われているのでしょうか。今回明らかになった決算公告からは、自己資本比率85.9%という驚異的な財務基盤と、2025年に予定されている読売テレビなど系列局との経営統合という未来への大きな布石が見えてきます。北海道のメディア王者の強さの秘密と、次なる一手を探ります。

札幌テレビ放送決算

決算ハイライト(第84期)
資産合計: 38,752百万円 (約388億円)
負債合計: 5,445百万円 (約54億円)
純資産合計: 33,307百万円 (約333億円)

売上高: 15,091百万円 (約151億円)
当期純利益: 1,565百万円 (約15.6億円)

自己資本比率: 約85.9%
利益剰余金: 28,082百万円 (約281億円)

 

まず注目すべきは、純資産の額と自己資本比率です。総資産約388億円に対し、純資産が約333億円。自己資本比率は85.9%という、他の上場企業と比較してもトップクラスの極めて高い水準にあります。これは、同社が長年にわたり安定した収益を上げ、それを着実に内部留保(利益剰余金は約281億円)として蓄積してきた結果であり、まさに「鉄壁」とも言える財務基盤を築いていることを示しています。また、営業利益が約2.7億円であるのに対し、経常利益は約6.2億円、当期純利益は約15.6億円と、段階的に利益が大きく膨らんでいる点も特徴的です。これは、本業の放送事業に加えて、潤沢な資金を元手とした資産運用(営業外収益)や、保有資産の売却(特別利益)など、巧みな財務戦略が利益に大きく貢献していることを物語っています。

 

企業概要
社名: 札幌テレビ放送株式会社(略称:STV
設立: 1958年4月8日
ネットワーク: 日本テレビ系列
事業内容: 北海道を放送対象地域としたテレビジョン放送事業、および関連するイベント事業、デジタル事業など。

www.stv.jp

 

【事業構造の徹底解剖】
STVの強固な経営は、複数の事業の柱によって支えられています。

✔テレビ放送事業
中核となる事業であり、収益の根幹です。キー局である日本テレビの強力な全国ネット番組と、自社で制作する地域に密着したローカル番組の二本柱で構成されます。特に1991年から続く夕方の情報番組「どさんこワイド179」や、朝の「どさんこワイド朝」、週末の「どさんこWEEKEND」といった「どさんこ」ブランドは、道民から絶大な支持を得ており、これが長年の高視聴率と、それに伴う安定したテレビCM広告収入の獲得につながっています。

✔コンテンツ制作事業
「1×8いこうよ!」や「ブギウギ専務」といった人気ローカルバラエティ番組は、北海道内だけでなく、TVerでの見逃し配信や道外放送局への番組販売を通じて、全国にファンを持つ強力なコンテンツ(IP=知的財産)となっています。これらの番組から生まれるDVDや関連グッズの販売、イベント開催なども、放送外の重要な収益源です。

✔イベント事業
放送事業と連動し、地域の文化振興にも大きく貢献しています。「STVカップジャンプ大会」や「ANAオープンゴルフトーナメント」といったスポーツイベントの主催、あるいは「小松美羽展」のような大規模な美術展の企画・運営も手掛けています。これらの事業は、チケット収入や協賛金収入を得るだけでなく、STVのブランドイメージを向上させ、地域社会との結びつきを強める役割も担っています。

✔デジタル事業
時代の変化に対応し、テレビの枠を超えた視聴者との接点を構築する事業です。公式ウェブサイトや、独自の動画配信プラットフォーム「どさんこ動画+」、各種SNSを活用し、番組の見逃し配信やオリジナルコンテンツの発信を強化しています。今後の成長が最も期待される戦略的領域です。

 

【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
若者層を中心とした「テレビ離れ」や、広告費のインターネットへのシフトなど、放送業界全体が構造的な逆風に直面しています。これはSTVも例外ではありません。しかし、その一方で、北海道内においては長年培ってきた圧倒的な知名度と影響力を武器に、地域に根差したローカル広告市場で確固たる優位性を維持しています。

✔内部環境
STVの最大の強みは、その驚異的な財務体質です。自己資本比率85.9%という数字が示す通り、財務リスクは皆無に等しく、経営の自由度は極めて高い状態にあります。この潤沢な内部留保を元手に、放送設備の更新やデジタル分野への投資、さらには2025年4月に予定されている読売テレビ(大阪)、中京テレビ(名古屋)、福岡放送(福岡)との経営統合に向けた準備を着々と進めている段階と見られます。この経営統合は、系列内でも特に有力な地方局が連携することで、コンテンツ制作力やバイイングパワーを強化し、業界の荒波を乗り越えようとする未来に向けた大きな一手です。

✔安全性分析
財務安全性について懸念点は見当たりません。総資産約388億円のうち、負債はわずか約54億円。現金預金や有価証券などの流動性の高い資産を豊富に保有しており、実質的に無借金経営であることは明らかです。「キャッシュリッチ企業」として、変化の激しいメディア業界において、攻めの投資をいつでも敢行できるだけの圧倒的な体力を有しています。

 

SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・長年の高視聴率に裏打ちされた、北海道内における圧倒的なブランド力と媒体価値
・「どさんこワイド」に代表される、道民に深く浸透した強力な自社制作コンテンツ
自己資本比率85.9%という、国内トップクラスの盤石な財務基盤
日本テレビネットワークの一員としての、番組供給力と情報収集能力

弱み (Weaknesses)
・テレビ広告市場全体の縮小という、抗いがたいマクロトレンド
・若者層のテレビ離れと、可処分時間のインターネットメディアへのシフト
・事業エリアが北海道に限定されるため、地域経済の動向に業績が左右されやすい

機会 (Opportunities)
読売テレビなどとの経営統合による、番組共同制作、共同購入、DX推進でのシナジー創出
TVerなどを活用した人気番組の全国配信による、放送外収入の拡大
・北海道の食や観光といった地域資源を活かしたコンテンツを制作し、国内外に販売する可能性
・視聴データやAIを活用した、新たな広告商品の開発や効率的な番組制作

脅威 (Threats)
YouTubeNetflixなど、グローバルな動画配信サービスとの視聴時間の奪い合い
・広告主の予算が、テレビからデジタル媒体へとシフトしていく流れの加速
・北海道の人口減少に伴う、長期的な視聴者マーケットの縮小
地震や豪雪など、北海道特有の自然災害が放送インフラに与えるリスク

 

【今後の戦略として想像すること】
ローカル局の雄」から「広域メディアグループの一員」へと、その立ち位置を大きく変え、新たな成長を目指す戦略が予想されます。

✔短期的戦略
まずは、2025年4月の経営統合を円滑に進めることが最優先事項となるでしょう。システム統合や人事交流、共同での営業活動に向けた準備が具体化されるはずです。並行して、「どさんこワイド」などのキラーコンテンツTVerで積極的に配信し、全国的な知名度向上と配信収入の最大化を図ります。

✔中長期的戦略
経営統合によるシナジー効果の最大化が最大のテーマとなります。読売テレビ、中京テレビ、福岡放送という各エリアのトップ局と連携し、大型ドラマやバラエティ番組を共同で制作・放送することで、コンテンツ力を飛躍的に向上させることが考えられます。また、4社共同で放送設備の更新や資材の購入を行えば、大幅なコスト削減も期待できます。さらに、各局が持つローカルニュースやコンテンツを相互に活用し、新たな全国向け配信プラットフォームを立ち上げるなど、デジタル領域での大きな挑戦も視野に入ってくるでしょう。STVとしては、「北海道」という強力なブランドを活かし、食・観光・自然をテーマにした高品質な番組を制作し、統合グループを通じて全国に、さらには海外のプラットフォームへと販売していく「コンテンツメーカー」としての役割を強化していくことが期待されます。

 

まとめ
札幌テレビ放送STV)は、北海道におけるメディアの王者として長年君臨してきただけでなく、自己資本比率85.9%という「鉄壁」の財務要塞を築き上げた超優良企業です。テレビ業界が大きな転換点を迎える中、同社はその潤沢な資金力と、2025年に控える大手系列局との経営統合という強力な武器を手に、次なる成長ステージへと大きく踏み出そうとしています。もはや単なる「北海道のテレビ局」という枠には収まりきらないでしょう。広域メディアグループの中核として、北海道発の魅力的なコンテンツを全国、そして世界へと発信する。STVの未来は、これからの日本のローカル放送局が進むべき、一つの輝かしい道標となるかもしれません。

 

企業情報
企業名: 札幌テレビ放送株式会社(略称:STV
所在地: 札幌市中央区北1条西8丁目1番地1
代表者: 小山 章司
設立: 1958年4月8日
資本金: 7億5千万円
事業内容: 北海道を放送対象地域としたテレビジョン放送事業、放送番組の制作・販売、文化・スポーツ事業の企画・実施など
株主: 読売中京FSホールディングス

www.stv.jp

©Copyright 2018- Kyosei Kiban Inc. All rights reserved.