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#1795 決算分析 : 秋田新都心ビル株式会社 第24期決算 当期純利益 19百万円

JR秋田駅の東口に直結し、ホテルやクリニック、映画館から飲食店までが集う、まさに秋田の“新都心”を象徴する複合施設「ALVE(アルヴェ)」。その民間棟の運営管理を一手に担うのが、秋田新都心ビル株式会社です。地域ケーブルテレビ局の子会社という、ユニークな出自を持つ同社は、いかにしてこの巨大なランドマークを切り盛りしているのでしょうか。その決算書には、12億円を超える総資産を抱えながら、自己資本比率はわずか12%という、極めてレバレッジの効いた経営実態と、それでもなお堅実に利益を生み出す、地方都市の不動産事業者のしたたかな戦略が記されていました。秋田の玄関口を支える企業の、財務の裏側に迫ります。

秋田新都心ビル決算

決算ハイライト(第24期)
資産合計: 1,294百万円 (約12.9億円)
負債合計: 1,138百万円 (約11.4億円)
純資産合計: 155百万円 (約1.6億円)

当期純利益: 19百万円 (約0.2億円)

自己資本比率: 約12.0%
利益剰余金: 105百万円 (約1.1億円)

 

第24期(令和7年3月31日時点)の決算で最も際立っているのは、その財務構造です。総資産約13億円のうち、11.4億円が負債、純資産は1.6億円に留まり、自己資本比率は12.0%と非常に低い水準です。これは、事業の原資のほとんどを借入金などの負債で賄っていることを意味する、ハイリスク・ハイリターンな「レバレッジ経営」の典型です。しかし、そのような財務状況下でも、当期に約1,900万円の純利益を確保し、利益剰余金も1億円を超えている点は、このビジネスモデルが安定的にキャッシュフローを生み出し、巨大な負債をコントロールできていることの証左と言えます。

 

企業概要
社名: 秋田新都心ビル株式会社
設立: 2002年2月25日
本社所在地: 秋田県秋田市東通仲町(ALVE 3階)
事業内容: 秋田拠点センター「ALVE」民間棟の保有・テナント賃貸・運営、施設全体の維持管理業務など。
株主: 株式会社秋田ケーブルテレビ

www.e-alve.com

 

【事業構造の徹底解剖】
秋田新都心ビルのビジネスは、JR秋田駅直結という「超一等地」の不動産を、いかにして魅力的な商業・業務空間としてプロデュースするかに集約されます。

✔ビジネスの核心:駅直結ランドマークの不動産賃貸業
同社の事業の根幹は、ALVE民間棟の不動産賃貸(テナントからの賃料収入)です。その最大の強みは、何と言っても「立地」です。
・圧倒的なアクセス優位性:JR秋田駅に直結しており、雨や雪の日でも濡れることなくアクセスできる利便性は、他の追随を許しません。これが、テナントにとって最大の魅力となります。
・多様なテナントミックスによる安定収益:入居するテナントは、ビジネスホテルの「東横イン」を核に、眼科・歯科・産婦人科などのクリニック、学習塾、薬局、飲食店、コンビニと、極めて多岐にわたります。特定の業種に依存しない多様なテナント構成が、景気変動に強い安定した収益基盤を形成しています。

✔親会社・秋田ケーブルテレビとのシナジー
同社の株主は、地元の秋田ケーブルテレビです。これは、単なるビル管理会社ではない、地域情報の発信拠点としての役割も期待されていることを示唆します。例えば、ケーブルテレビの番組と連動したイベントをALVEで開催したり、テナントの情報を番組で紹介したりと、相互に送客し合い、施設の魅力を高めるシナジー効果が期待できます。

 

【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
地方都市の中心市街地は、人口減少や郊外の大型商業施設との競争など、厳しい環境にあります。しかし、ALVEのような駅直結の複合施設は、交通結節点としての強みを活かし、人が集まる「ハブ」としての役割を維持・強化することが可能です。コロナ禍後の旅行・出張需要の回復は、核テナントである東横インの業績を押し上げ、同社の経営にとっても大きな追い風となっています。

✔内部環境と「ハイレバレッジ経営」の理由
自己資本比率12%という低い数字の背景には、この事業の成り立ちが関係していると推測されます。ALVEのような大規模な複合施設を建設するには、莫大な初期投資が必要です。同社の9.4億円にのぼる固定負債は、その建設資金として調達した長期借入金が主であると考えられます。これは、PFIプライベート・ファイナンス・イニシアティブ)など、官民連携で大規模な公共施設を整備する際によく見られる財務モデルです。事業で得られる安定した賃料収入を、長期にわたる借入金の返済に充てていく。まさに、不動産賃貸業の王道とも言えるビジネスモデルです。

 

SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・JR秋田駅直結という、他に代えがたい圧倒的な立地優位性。
・ホテル、クリニック、学習塾など、景気変動に強い多様なテナントミックス。
・親会社である秋田ケーブルテレビとの連携による、地域での高い知名度と情報発信力。

弱み (Weaknesses)
・事業がALVEという単一の不動産に100%依存しており、施設の陳腐化や大規模災害のリスクを分散できない点。
自己資本比率12%という、極めて高い財務レバレッジと、それに伴う金利変動リスク。

機会 (Opportunities)
・インバウンドを含む観光・ビジネス需要の回復による、核テナント(東横イン)の稼働率向上。
秋田駅周辺の再開発が進むことによる、エリア全体の魅力向上と来館者数の増加。
・リモートワークの普及に伴う、駅直結のサテライトオフィスコワーキングスペースといった、新たなテナント需要の創出。

脅威 (Threats)
秋田県の長期的な人口減少による、地域経済の縮小と、それに伴うテナント需要の減退。
・建設から20年以上が経過し、今後必要となる、エレベーターや空調といった大規模修繕への多額の投資負担。
・将来的な金利上昇局面における、巨額の借入金の金利負担増加リスク。

 

【今後の戦略として想像すること】
✔短期戦略(テナント満足度の向上と空室対策)
まずは、既存テナントの満足度を高め、長期的に安定した賃料収入を確保することが最優先です。同時に、空室が出た際には、駅直結の強みを最大限にアピールし、クリニックや学習塾といった、安定した需要が見込めるテナントを迅速に誘致していくことが求められます。

✔中長期的戦略(施設の価値維持・向上と財務改善)
長期的には、計画的な大規模修繕を実行し、施設の魅力を維持・向上させていくことが不可欠です。また、安定したキャッシュフローを元手に、長期借入金を着実に返済し、自己資本比率を高めていくことで、より強固な財務体質へと改善していくことが目標となります。親会社である秋田ケーブルテレビと連携し、館内でeスポーツのイベントを開催するなど、新たな集客策を打ち出し続けることも重要になるでしょう。

 

まとめ
秋田新都心ビル株式会社は、ALVEという秋田のランドマークを舞台に、ハイレバレッジながらも安定した不動産賃貸事業を展開する、地方都市開発の一つのモデルケースです。その経営は、駅という「場所」の持つ力を最大限に引き出し、多様なテナントを惹きつけることで成り立っています。1億円を超える利益剰余金は、その戦略が成功していることの証です。地域の人口減少という大きな課題に直面しながらも、秋田新都心ビルは、これからも秋田の玄関口として、多くの人々を迎え入れ、街の活気を支え続けていくに違いありません。

 

企業情報
企業名: 秋田新都心ビル株式会社
所在地: 秋田県秋田市東通仲町4番1号
代表者: 代表取締役 末廣 健二
設立: 2002年2月25日
資本金: 50,000,000円
事業内容: 商業・業務施設の保有・テナント賃貸・運営、施設全体の維持管理業務など
株主: 株式会社秋田ケーブルテレビ

www.e-alve.com

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