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#1775 決算分析 : ダイヤモンドエアサービス株式会社 第36期決算 当期純利益 221百万円

テレビで見る、宇宙空間さながらの無重力実験。南極上空から生中継される皆既日食。あるいは、宇宙から帰還するロケット部品の探索飛行。これらの国家レベルの特殊なミッションを、空の最前線で実行しているエリート集団がいます。ダイヤモンドエアサービス株式会社は、三菱重工グループの一員として、科学技術の発展を支える「航空機運航事業」と、日本の防衛を担う「航空機製造事業」という、二つの顔を持つユニークな航空会社です。その決算書には、2.2億円という巨額の純利益が記されていました。日本の空で、科学と防衛という二つの究極のミッションを担う、知られざるプロフェッショナル集団の強さの秘密に迫ります。

ダイヤモンドエアサービス決算

決算ハイライト(第36期)
資産合計: 2,691百万円 (約26.9億円)
負債合計: 1,924百万円 (約19.2億円)
純資産合計: 767百万円 (約7.7億円)

当期純利益: 221百万円 (約2.2億円)

自己資本比率: 約28.5%
利益剰余金: 747百万円 (約7.5億円)

 

第36期(2025年3月31日時点)の決算は、同社が極めて高い収益性を誇る優良企業であることを示しています。まず特筆すべきは、2.2億円という非常に大きな当期純利益です。7.5億円にのぼる利益剰余金は、1989年の設立以来、着実に利益を積み重ねてきた歴史を物語っています。自己資本比率は28.5%と、航空機という高価な資産を保有する企業としては健全な水準を維持しており、安定した経営基盤の上で、高付加価値な事業を展開していることがうかがえます。

 

企業概要
社名: ダイヤモンドエアサービス株式会社(略称:DAS)
設立: 1989年10月2日
本社所在地: 愛知県西春日井郡豊山町三菱重工業株式会社 名航小牧南工場内)
株主: 三菱重工業株式会社(100%)
事業内容: 航空機運航事業(微小重力実験飛行、各種観測飛行など)および航空機製造事業(防衛省向け航空機の修理・組立など)。

www.mhi.com

 

【事業構造の徹底解剖】
ダイヤモンドエアサービスの強みは、「科学」と「防衛」という、日本の技術力の粋を集めた二つの領域で事業を展開する、他に類を見ない“二刀流”のビジネスモデルにあります。

✔ビジネスの二本の柱

航空機運航事業 - “サイエンス・ウィング”
同社は、一般的な旅客や貨物を運ぶ航空会社ではありません。改造されたジェット機ターボプロップ機を駆使し、科学技術の発展に貢献する特殊な飛行ミッションを専門としています。
・微小重力実験飛行:航空機を放物線状に飛行させる「パラボリックフライト」により、機内に約20秒間の無重力状態を創り出し、宇宙空間での実験を地上でシミュレートします。
・地球・大気観測飛行:JAXAや大学の研究機関からの依頼で、台風や雲の観測、PM2.5などの大気成分の調査を行います。その活動範囲は、北極圏から南極まで、文字通り地球規模に及びます。
・探索・撮影飛行:H-IIAロケットから切り離された部品の海上探索や、NHKの依頼による南極からの皆既日食の同時生中継など、極めて高度な操縦技術と運用ノウハウが求められるミッションを成功させています。

航空機製造事業 - “ディフェンス・ウィング”
もう一つの顔は、親会社である三菱重工と一体となり、日本の防衛の一翼を担う役割です。
・防衛航空機の修理・組立:航空自衛隊の戦闘機や、陸上・海上自衛隊のヘリコプター(UH-60J/JA, SH-60Kなど)の定期的な修理(整備)や、新造機の構造組立作業を手掛けています。
・部品管理・物流:三菱重工の工場内で、航空機部品の管理や物流業務も担っており、まさに生産ラインに不可欠なパートナーとなっています。

✔親会社・三菱重工との絶対的なシナジー
この二つの事業は、三菱重工の100%子会社であるからこそ成立しています。防衛事業という極めて安定的で長期的な事業を基盤としながら、そこで培われた高度な整備・改造技術を、最先端の科学ミッションに応用するという、理想的なシナジーを生み出しているのです。

 

【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
日本の安全保障環境の変化を背景に、防衛予算は増加傾向にあります。これは、同社の製造事業にとって強力な追い風です。また、地球温暖化や気候変動への関心の高まりは、航空機を使った地球・大気観測の重要性を増しており、運航事業にとっても新たなビジネスチャンスが生まれています。

✔内部環境と高収益の理由
2.2億円という高い利益は、この恵まれた事業環境と、同社ならではの強固なビジネスモデルの賜物です。
・安定した防衛関連収益:防衛省向けの航空機修理・組立は、国家予算に基づく長期安定契約であり、経営の盤石な基盤となっています。
・高付加価値な運航サービス:微小重力実験飛行や特殊観測飛行は、他社には真似のできないニッチな市場であり、極めて高い付加価値と収益性を誇ります。
親会社である三菱重工からの安定した受注と、独自性の高い特殊飛行サービス。この二つが組み合わさることで、高い収益性が実現されているのです。

 

SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・微小重力実験飛行など、国内では他に類を見ない特殊航空ミッションの運用能力と実績。
三菱重工と一体となった、防衛航空機の修理・組立という、極めて安定的で参入障壁の高い事業基盤。
・親会社である三菱重工の、絶大な技術力、信用力、そして経営基盤。
・JIS Q 9100(航空宇宙品質マネジメントシステム)認証などが示す、高い品質保証体制。

弱み (Weaknesses)
・事業の大部分を親会社である三菱重工、およびその先の顧客である防衛省に依存しており、国の防衛政策や予算の変動に業績が大きく左右されるリスク。
・特殊な航空機を少数保有・運用するため、一機のトラブルが事業全体に与える影響が大きい点。

機会 (Opportunities)
・日本の防衛力強化の流れに伴う、航空機修理・製造需要の継続的な増加。
・民間宇宙開発の活発化に伴う、ロケット追跡や部品回収といった、新たな航空支援サービスの需要。
・ドローンでは不可能な、高高度・長距離での地球環境観測や災害状況調査のニーズの高まり。

脅威 (Threats)
・一部の観測・撮影ミッションにおける、高性能な無人航空機(ドローン)との競合。
・国の防衛政策や、大規模な科学技術プロジェクトの見直しによる、予算削減のリスク。
パイロットや航空整備士といった、高度な専門人材の確保・育成という長期的な課題。

 

【今後の戦略として想像すること】
✔短期戦略(防衛事業の着実な遂行)
まずは、進行中の自衛隊向けヘリコプターの組立や、戦闘機の定期修理といった、基幹事業を着実に遂行し、安定した収益を確保することが中心となります。同時に、既存の科学技術ミッションにおいても、高い安全基準と品質を維持し、顧客の信頼に応え続けるでしょう。

✔中長期的戦略(民間宇宙開発への翼)
長期的には、日本の民間宇宙開発の活発化が、同社にとって新たな飛躍のチャンスとなります。民間企業が打ち上げる小型ロケットの追跡飛行や、大気圏に再突入するカプセルの探索・回収支援など、同社が持つ特殊飛行のノウハウは、新たな宇宙ビジネスにおいて不可欠な役割を果たす可能性があります。三菱重工グループが宇宙事業を強化する中で、その“空飛ぶ実働部隊”として、さらに重要な存在になっていくことが期待されます。

 

まとめ
ダイヤモンドエアサービス株式会社は、その社名を知る人は少なくとも、日本の「科学技術」と「安全保障」という、国の根幹をなす二つの領域の最前線を飛ぶ、極めて重要な企業です。2.2億円という高い利益と健全な財務は、親会社である三菱重工との強力な連携のもと、他社には決して真似のできない高付加価値な事業を展開してきたことの証です。防衛の空から、科学の空、そして未来の宇宙の空へ。ダイヤモンドエアサービスの翼は、日本の未来を乗せて、これからも誰も見たことのない高みを目指し続けていくに違いありません。

 

企業情報
企業名: ダイヤモンドエアサービス株式会社(略称:DAS)
所在地: 愛知県西春日井郡豊山町大字豊場1(三菱重工業株式会社 名航小牧南工場内)
代表者: 代表取締役社長 CEO 西ヶ谷 知栄
設立: 1989年10月2日
資本金: 2,000万円
事業内容: 航空機運航事業(微小重力実験飛行、各種観測飛行等)、航空機製造事業(防衛省航空機の修理・製造作業等)
株主: 三菱重工業株式会社(100%)

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