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#1761 決算分析 : 株式会社かね岩海苔 第40期決算 当期純利益 132百万円

日本の食卓に欠かせない、黒く輝く名脇役「海苔」。しかし今、その海苔業界が、地球温暖化による海水温の上昇や生産者の減少という、未曾有の危機に瀕していることをご存知でしょうか。国内生産量が激減し、原料価格が高騰する逆風の中、高知県に拠点を置く海苔メーカー「株式会社かね岩海苔」は、驚くべき強さを見せています。その決算書に記されていたのは、1.3億円という堅実な純利益と、18億円を超える莫大な利益剰余金。なぜ、業界全体が苦しむ中で、同社は安定した経営を続けられるのか。創業40周年を迎えた“海苔のプロフェッショナル”の決算書から、その逆境を乗り越える強さの秘密と、未来への確かな航路を読み解きます。

かね岩海苔決算

決算ハイライト(第40期)
資産合計: 4,896百万円 (約49.0億円)
負債合計: 3,001百万円 (約30.0億円)
純資産合計: 1,895百万円 (約18.9億円)

当期純利益: 132百万円 (約1.3億円)

自己資本比率: 約38.7%
利益剰余金: 1,857百万円 (約18.6億円)

 

第40期(2025年3月31日時点)の決算は、かね岩海苔が極めて優良な財務体質を持つ企業であることを示しています。18.6億円という巨額の利益剰余金は、1985年の創業以来、着実に利益を積み重ねてきた経営の賜物です。自己資本比率も38.7%と健全な水準を維持しており、盤石な経営基盤が築かれています。そして何より、海苔業界が直面する厳しい環境下で、1.3億円もの当期純利益を確保している点は特筆に値します。これは、同社のビジネスモデルが、外部環境の悪化を吸収できるほどの強靭さを持っていることの証明です。

 

企業概要
社名: 株式会社 かね岩海苔
創業: 1985年4月
本社所在地: 高知県高知市
事業内容: 焼海苔、味付海苔、寿司海苔など、各種海苔製品の製造販売。
特徴: 高知を拠点としながら、日本一の海苔産地である九州・有明海産の良質な海苔を主原料とし、全国の食品卸やスーパーマーケットに製品を供給する、BtoBを主軸とした有力メーカー。

www.kaneiwanori.co.jp

 

【事業構造の徹底解剖】
かね岩海苔の強さは、最高の原料を、最高の工場で、最高の製品に仕上げ、日本の食卓を支える巨大な流通網に乗せる、という極めて合理的で力強いサプライチェーンにあります。

✔ビジネスの核心:「品質」こそが最大の競争力
同社の経営は、「本当に美味しくて安心・安全な商品をお届けしたい」という、海苔一筋の想いに貫かれています。この理念を実現するため、3つの柱を徹底しています。

原料調達力:同社は、高知に拠点を置きながらも、製品の主原料として、味・香り・口どけの良さで最高級品と評される「有明海産」の海苔を厳選して使用しています。不作が続き、良質な海苔の確保が年々難しくなる中で、長年の経験と目利きによって一年分の高品質な原料を買い付けることができる「調達力」は、同社の生命線であり、最大の強みです。

最新鋭の生産体制:2004年の本社工場、2013年の南国工場の新設など、かね岩海苔は生産設備への投資を惜しみません。工場には、焼き・味付けを自動で行う最新鋭のフルラインが合計8台導入され、1日に板海苔換算で40万枚以上を生産できます。さらに、高知県の食品衛生管理基準である「高知県HACCP」の認定を取得し、工場内の業務記録をタブレットで行うなど、デジタル化も推進。徹底した衛生管理と品質管理体制を構築しています。

強固な販売網:同社の主要販売先には、加藤産業、日本アクセス、国分、三菱食品といった、日本の食品流通を担う巨大卸売企業が名を連ねています。これは、かね岩海苔の製品が、品質・安全性・供給安定性の全てにおいて、プロの厳しい要求水準を満たしていることの証です。この強固なBtoB販路が、安定した事業基盤を形成しています。

 

【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境:海苔業界を襲う存亡の危機
社長挨拶でも言及されている通り、現在の海苔業界は、地球温暖化による海水温の上昇で、海苔の色落ちや生育不良といった不作が頻発しています。加えて、海苔生産者の高齢化と後継者不足も深刻で、国内の海苔生産量は減少の一途をたどっています。これにより、原料海苔の価格は高騰し、メーカーの経営を強く圧迫しています。

✔内部環境と逆境を乗り越える財務力
このような厳しい外部環境の中、なぜ同社は安定した経営を続けられるのでしょうか。その答えは、18億円を超える潤沢な利益剰余金がもたらす、圧倒的な「企業体力」にあります。
仕入れ競争での優位性:不作で原料が希少になれば、入札での買い付け競争は熾烈になります。豊富な自己資金を持つかね岩海苔は、こうした場面でも、品質に妥協することなく、必要な原料を確保する体力を持っています。
・戦略的投資の継続:財務基盤が盤石であるからこそ、生産効率と品質をさらに高めるための最新設備への投資を、ためらうことなく継続できます。これが、コスト競争力と製品の差別化に繋がり、厳しい市場環境でも利益を確保する源泉となっています。

 

SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
有明海産の高品質な海苔を安定的に確保できる、長年培った原料調達力。
・HACCP認定を受けた、最新鋭で高効率な自社工場による、高い品質管理能力と生産能力。
・大手食品卸を中心とした、安定的で大規模な全国販売ネットワーク。
・18億円超の利益剰余金が示す、原料価格の高騰や設備投資に耐えうる強固な財務基盤。

弱み (Weaknesses)
・海苔という単一の天然資源への依存度が高く、その不作が事業に直結するリスク。
・事業が国内のBtoB市場に集中しており、最終消費者へのブランド認知度は限定的であること。

機会 (Opportunities)
・消費者の健康志向の高まり。「海の野菜」とも呼ばれる海苔の栄養価をアピールする機会。
・食の安全・安心への関心の高まりを背景に、HACCP認定工場で生産される製品の信頼性が、さらなる強みとなる可能性。
・世界的な日本食ブームに乗り、高品質な日本の海苔製品を海外へ輸出する市場開拓の機会。

脅威 (Threats)
地球温暖化の進行による、海苔の不作と品質低下、および原料価格のさらなる高騰。
・海苔生産者の高齢化・後継者不足による、国内生産基盤の長期的な縮小。
・同業他社との、希少な原料海苔を巡る獲得競争の激化。

 

【今後の戦略として想像すること】
✔短期戦略(サプライチェーンの死守と効率化の徹底)
今後も続くであろう原料不足の時代を乗り切るため、その財務力を活かして高品質な海苔の安定確保に全力を注ぐことが最優先課題となります。同時に、工場のデジタル化などをさらに推し進め、生産工程の無駄を徹底的に省き、コスト上昇を吸収できる筋肉質な経営体制をさらに強化していくでしょう。

✔中長期的戦略(付加価値の追求と市場の多角化

商品開発の深化:定番の味付海苔や焼海苔だけでなく、健康志向に応える減塩タイプや、特定の料理に特化した専用海苔など、より付加価値の高い新商品を開発し、利益率の向上を図ることが考えられます。

サプライチェーンへの関与:単に原料を買い付けるだけでなく、海苔生産者への支援や、新たな養殖技術の研究開発に協力するなど、サプライチェーンの川上へ関与することで、原料の安定確保を目指す可能性も秘めています。

新市場の開拓:現在はBtoBが中心ですが、自社のオンラインショップを強化してD2C(Direct to Consumer)の比率を高めたり、世界的な日本食ブームを捉えて、海外市場への輸出を本格化させたりすることも、将来の成長に向けた重要な選択肢となります。

 

まとめ
株式会社かね岩海苔は、日本の伝統食材である海苔の業界が、気候変動という大きな試練に直面する中、卓越した経営手腕で安定成長を続ける、高知が誇る優良企業です。その強さの源泉は、最高の原料を、最高の工場で、最高の製品に仕上げるという、食づくりへの真摯な姿勢。そして、それを支えるのが、40年の歴史の中で築き上げた18億円超という盤石の財務基盤です。危機は、本物の実力を持つ企業にとっては、むしろ競争相手との差を広げる好機ともなり得ます。かね岩海苔は、その強靭な企業体力を武器に、これからも日本の食卓に「美味しい海苔のあるしあわせ」を届け続けてくれるに違いありません。

 

企業情報
企業名: 株式会社 かね岩海苔
所在地: 高知県高知市池字遅越282-53
代表者: 代表取締役社長 岩﨑 充
創業: 1985年4月
資本金: 3,800万円
事業内容: 焼海苔・味付海苔・寿司海苔・各種海苔製造販売

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