家族の一員である愛犬や愛猫が、病気で苦しんでいる。一日でも長く、住み慣れた家で穏やかに過ごさせてあげたい。多くの飼い主が抱くこの切実な願いを、専門的な技術で支える企業があります。ペット用在宅酸素吸入装置「酸素ハウス」のレンタル事業を全国展開する、テルコム株式会社です。同社は、動物の特性を深く理解した製品開発力で、このニッチな市場のパイオニアとして走り続けてきました。今回は、動物高度医療のリーディングカンパニーの傘下に入り、新たな成長ステージを迎えた同社の決算を分析。自己資本比率85%超という驚異的な財務基盤の秘密と、ペットと家族の”最期の時間”に寄り添う、その事業の核心に迫ります。

決算ハイライト(第23期)
資産合計: 912百万円 (約9.1億円)
負債合計: 130百万円 (約1.3億円)
純資産合計: 782百万円 (約7.8億円)
当期純利益: 116百万円 (約1.2億円)
自己資本比率: 約85.7%
利益剰余金: 690百万円 (約6.9億円)
今回の決算における最大の注目点は、自己資本比率が約85.7%という、異次元とも言えるほどの傑出した財務健全性です。これは、事実上の無借金経営に近く、企業として極めて強固で安定した経営基盤を築いていることを示しています。企業の利益の蓄積である利益剰余金も約6.9億円と、会社の規模に対して非常に潤沢に積み上がっており、創業以来、高い収益性を伴った堅実な経営を続けてきたことがうかがえます。当期純利益も1億円超を確保しており、ニッチ市場のリーダーとしての圧倒的な強さを見せつける、非常に優れた決算内容です。
企業概要
社名: テルコム株式会社
設立: 2002年8月27日
親会社: 株式会社日本動物高度医療センター(JARMeC)
事業内容: ペット用在宅酸素吸入装置「酸素ハウス」のレンタル、動物病院向け酸素濃縮器の製造販売
【事業構造の徹底解剖】
テルコムは、心臓病や呼吸器疾患などを患うペット(犬、猫、小動物など)が、自宅で穏やかに過ごすための「在宅酸素療法」に必要な機器をレンタル・販売する、極めて専門性の高い企業です。
✔事業の核心「酸素ハウス」レンタル
同社の主力事業は、酸素濃縮器と専用のケージ(酸素室)をセットにした「酸素ハウス」のレンタルサービスです。獣医師の診断のもと、在宅での酸素吸入が必要になったペットのために、飼い主が自宅で利用します。このレンタルモデルは、高価な機器を購入することなく、必要な期間だけ利用できるため、飼い主の経済的負担を軽減します。全国27箇所の代理店網と自社の営業所(横浜・大阪・福岡)を通じて、日本全国にサービスを提供できる体制を構築しています。
✔動物を第一に考えた、技術的優位性
同社の最大の強みは、単に人間用の機器を転用するのではなく、動物の特性と安全性を第一に考えた製品を自社で開発している点にあります。ウェブサイトでは、特に以下の2つのリスクへのこだわりを強調しています。
二酸化炭素(CO2)蓄積リスクの低減: 人間と違い、ケージ内で呼吸するペットは、吐き出したCO2が内部に溜まり、それを再吸入してしまう危険性があります。同社のシステムは、このCO2蓄積を低減するよう特殊な設計がなされています。
高濃度酸素投与リスクの回避: 高すぎる濃度の酸素は、かえって動物の体に害を及ぼす(酸素中毒など)可能性があります。同社の酸素濃縮器は、安全性を考慮し、酸素濃度を適切な範囲に維持するよう開発されています。
これらの点は、同社が深い獣医学的知見を持つ、研究開発型企業であることを示しています。
✔親会社・JARMeCとの強力なシナジー
2022年に、動物の高度医療(二次診療)を専門とする株式会社日本動物高度医療センター(JARMeC)の連結子会社となったことは、同社にとって大きな飛躍の契機です。JARMeCは、地域の動物病院からの紹介を受けて、大学病院のような高度な診断・治療を行う、獣医療界のトップランナーです。この連携により、テルコムは最先端の獣医学的知見へのアクセスと、全国の動物病院への信頼性・認知度を飛躍的に高めることが可能になりました。
【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
ペットの家族化・長寿化は、現代社会の大きなトレンドです。それに伴い、ペットにかける医療費は年々増加し、がん、心臓病、腎臓病といった人間と同様の慢性疾患や高齢疾患が増えています。これにより、動物病院での高度医療だけでなく、自宅でのQOL(生活の質)を維持するための「在宅ケア」市場が、まさに今、急成長しています。テルコムの事業は、この巨大な潮流のど真ん中に位置しています。
✔内部環境
自己資本比率85.7%という驚異的な財務基盤は、同社が「ペットの在宅酸素」というニッチ市場を創造し、先行者として高い利益率を確保しながら成長してきた結果です。多額の利益剰余金は、新たな製品開発や、全国に配置するレンタル用機器への再投資を、自己資金で賄えるだけの十分な体力を有していることを示しています。2025年10月からの価格改定も発表されていますが、これは原材料費や物流費の高騰に対応しつつ、さらなるサービス品質向上を目指すための、自信の表れとも言えるでしょう。
✔安全性分析
財務の安全性は完璧なレベルにあります。ほぼ無借金で、潤沢な自己資本と利益の蓄積があるため、経営リスクは極めて低いです。親会社であるJARMeCも上場企業であり、グループ全体の経営基盤も盤石。まさに非の打ち所がない財務状況です。
【SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・自己資本比率85.7%という、極めて強固で盤石な財務基盤
・「酸素ハウス」という強力なブランドと、市場のパイオニアとしての高い認知度
・動物の安全性を最優先した、獣医学的知見に基づく独自の製品開発力
・全国をカバーするレンタルサービス網と、迅速なサポート体制
・動物高度医療のトップ企業である親会社・JARMeCとの強力なシナジーと信頼性
弱み (Weaknesses)
・事業が「ペットの在宅酸素療法」という特定のニッチ市場に集中しており、画期的な新治療法の登場などによる市場環境の変化に弱い可能性がある
・レンタル事業であるため、多数の機材を資産として保有・管理する必要があり、在庫管理やメンテナンスの負担が大きい
・発表された価格改定が、経済的に余裕のない飼い主層の利用離れを引き起こす可能性
機会 (Opportunities)
・ペットの長寿化に伴う、慢性疾患の増加と、高度な在宅ケア・緩和ケアへのニーズの拡大
・「第二種動物用医療機器製造販売業」の許可を取得したことによる、酸素濃縮器以外の新たな動物用医療機器の開発・販売
・親会社JARMeCのネットワークを活用した、全国の動物病院へのさらなる普及と、共同での研究開発
・IoT技術を活用し、レンタル機器の稼働状況やペットの状態を遠隔でモニタリングするような、新たな付加価値サービスの開発
脅威 (Threats)
・同社の成功を見て、より安価なサービスを提供する新規競合の参入
・景気後退による、個人の可処分所得の減少と、高額なペット医療・ケアへの支出抑制
・レンタル機器の製造に必要な、電子部品などのサプライチェーンの混乱や価格高騰
・動物用医療機器に関する、法規制の変更や強化
【今後の戦略として想像すること】
この盤石な経営基盤と市場での優位性を背景に、テルコムは「ペットの在宅ケア」におけるリーディングカンパニーとしての地位をさらに固めていくでしょう。
✔短期的戦略
まずは、全国の代理店ネットワークをさらに拡充・強化し、どの地域でも迅速できめ細やかなサービスを提供できる体制を追求します。また、2025年4月に発売した動物用管理医療機器としての正式承認を得た新製品「クリネア-smart-plus」を、全国の動物病院へ積極的に提案し、「医療グレードの安心感」というブランドイメージを確立していくと考えられます。
✔中長期的戦略
最大のポテンシャルは、「第二種動物用医療機器製造販売業」の許可を活かした、新事業展開にあります。酸素療法で培ったノウハウを基盤に、例えば、在宅で使える輸液ポンプや、各種バイタルサインを測定するモニタリング機器など、他の在宅ケア用医療機器の開発・販売へと事業領域を拡大していく可能性があります。親会社JARMeCと連携することで、医療現場の真のニーズを捉えた製品開発が可能であり、テルコムは単なる「酸素ハウスの会社」から、「ペットの在宅高度医療を支える総合プラットフォーマー」へと進化していくことが期待されます。
まとめ
テルコム株式会社は、「愛するペットと一日でも長く、穏やかに家で過ごしたい」という、飼い主の深く、そして切実な愛情に応えることで成長してきた、稀有な企業です。その決算書に示された自己資本比率85.7%という鉄壁の財務は、技術的な優位性だけでなく、多くの家族の”最期の時間”に寄り添ってきたことで得られた、社会からの深い信頼の証と言えるでしょう。動物高度医療のトップランナーであるJARMeCグループの一員となった今、同社は新たな飛躍の時を迎えています。これからも、ペットとその家族のことを第一に考えた製品とサービスで、かけがえのない命を支え、獣医療の未来を家庭の中から切り拓いていくことが大いに期待されます。
企業情報
企業名: テルコム株式会社
本店所在地: 神奈川県川崎市高津区久地2-5-8
設立: 2002年8月27日
資本金: 9,174万円
事業内容: ペット用在宅酸素吸入装置「酸素ハウス」のレンタル、ICU・麻酔器接続用酸素濃縮器の製造販売
親会社: 株式会社日本動物高度医療センター(JARMeC)