日本郵船、商船三井、そして川崎汽船。日本の近代化を牽引し、100年以上にわたって世界の海で競い合ってきた「宿命のライバル」とも言える海運大手3社。その3社が、それぞれのプライドを懸けたコンテナ船事業を一つに統合し、世界の大競争時代を勝ち抜くために創設したのが、鮮やかなマゼンタ色の船団「Ocean Network Express (ONE)」です。今回は、その日本における事業の中核を担う、オーシャン ネットワーク エクスプレス ジャパン株式会社の決算を分析します。まさに”日の丸海運”の叡智を結集したドリームチームは、どのような経営を行っているのか。そのダイナミックなグローバル事業と、日本市場に根差した強さの秘密に迫ります。

決算ハイライト(第8期)
資産合計: 2,871百万円 (約28.7億円)
負債合計: 2,163百万円 (約21.6億円)
純資産合計: 709百万円 (約7.1億円)
当期純利益: 277百万円 (約2.8億円)
自己資本比率: 約24.7%
利益剰余金: 609百万円 (約6.1億円)
激しく変動する国際海運市況の中、約2.8億円という堅実な当期純利益を確保しています。企業の利益の蓄積である利益剰余金も約6.1億円と着実に積み上がっており、事業統合以来、安定した収益基盤を築いていることがうかがえます。自己資本比率は約24.7%と一見すると低めですが、これは自社で船などの巨大な資産を持たず、営業活動に特化した「代理店」というビジネスモデルの特性を反映したものです。流動負債が流動資産を上回っている点も、顧客から預かる運賃(前受金)などが含まれる海運代理店業特有の財務構造と考えられ、事業の安定性を損なうものではありません。
企業概要
社名: オーシャン ネットワーク エクスプレス ジャパン株式会社
設立: 2017年10月1日
株主: オーシャン ネットワーク エクスプレス ホールディングス株式会社(100%出資)
※ホールディングスには日本郵船(38%)、商船三井(31%)、川崎汽船(31%)が出資
事業内容: 定期コンテナ船集荷事業(Ocean Network Express Pte. Ltd.の日本総代理店)
【事業構造の徹底解剖】
オーシャン ネットワーク エクスプレス ジャパン(ONE Japan)の事業を理解するためには、まず親会社であるOcean Network Express (ONE)の成り立ちを知る必要があります。
✔背景にあるのは「世界との戦い」
2008年のリーマンショック以降、世界のコンテナ船業界は、運賃の長期低迷と過剰な船腹量に苦しむ、厳しい大競争時代に突入しました。海外の巨大船会社がM&Aを繰り返して規模を拡大していく中、日本の海運大手3社も、それぞれが単独で戦うには限界があると判断。互いにライバルであった歴史を乗り越え、コンテナ船事業を統合するという大きな決断を下し、2017年にシンガポールにONEを設立しました。ONE Japanは、このグローバル企業の日本における最前線基地としての役割を担っています。
✔ONE Japanの役割:「ALL JAPAN」の営業部隊
ONE Japanは、自社でコンテナ船を保有・運航するわけではありません。グローバルに運航するONEの巨大な船団の、日本における「営業・顧客サービスの総責任者」です。日本の輸出企業(メーカーや商社など)や輸入企業に対し、最適な輸送ルートを提案し、貨物を集荷(ブッキング)することが主な業務です。その最大の強みは、日本郵船、商船三井、川崎汽船という3社が、それぞれ100年以上にわたって日本市場で築き上げてきた、顧客との強固な信頼関係、港湾や陸運に関する深い知見、そして優秀な人材を、設立と同時に全て引き継いでいる点にあります。新しい会社でありながら、日本のどの海運会社よりも長い歴史と経験値を持つ、まさに「ALL JAPAN」のドリームチームなのです。
✔「ハイブリッドキャリア」戦略
同社が目指すのは、単なる巨大船会社(メガキャリア)ではありません。世界第6位という規模の経済を追求しつつも、日本の顧客のきめ細やかなニーズに応える「日本品質」のサービスを両立させる「ハイブリッドキャリア」を標榜しています。これが、価格競争に陥りがちな海外の巨大メガキャリアとの明確な差別化要因となっています。
【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
国際コンテナ船市場は、世界経済の動向、原油価格、そして紛争や海峡封鎖といった地政学リスクに常に晒される、極めて変動の激しい(ボラティリティの高い)市場です。コロナ禍でのサプライチェーンの混乱による歴史的な運賃高騰から、その後の景気後退による急激な運賃下落まで、近年はその変動幅が特に大きくなっています。
✔内部環境
ONE Japanは、運航そのものを手掛ける事業会社ではなく、日本における「総代理店」であるため、親会社であるONE本体に比べて業績の変動は比較的マイルドになる傾向があります。その収益は、日本で集荷した貨物量に応じてONE本体から得られる手数料収入などが中心と推測されます。当期の約2.8億円の利益は、厳しい市況の中でも、日本の輸出入貨物を着実に確保し続けた、その卓越した営業力の賜物と言えるでしょう。
✔安全性分析
自己資本比率24.7%は、自社で巨額の資産(船など)を持たない代理店業としては健全な範囲内です。流動負債が流動資産を上回る財務構造は、顧客から受け取った運賃を一時的に預かる「前受金」や、親会社であるONE本体への未払金などが多額に計上されていることを示唆しており、これは事業モデルに起因するものです。そして何よりも、日本を代表する海運会社3社という強力なバックボーンがあるため、経営の安定性は極めて高いレベルにあります。
【SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・日本郵船、商船三井、川崎汽船から受け継いだ、強固な顧客基盤と日本市場における絶対的なブランド力・信頼性
・100年以上にわたる歴史の中で蓄積された、日本市場に関する圧倒的なノウハウと優秀な人材
・世界第6位の規模を誇るONEのグローバルなサービスネットワーク
・「ハイブリッドキャリア」戦略による、海外メガキャリアとの明確な差別化
弱み (Weaknesses)
・ONEグループ全体の運航状況や、国際的な海上運賃市況に業績が大きく左右されること
・意思決定において、シンガポール本社や、株主である邦船3社の意向を汲む必要があり、独自の判断で機動的に動けない可能性がある
・代理店事業であるため、事業から得られる利益率には一定の上限がある
機会 (Opportunities)
・日本企業のサプライチェーン再編(生産拠点の東南アジア・インドへのシフトなど)に伴う、新たな輸送需要の獲得
・国際的な環境規制の強化に対応した、CO2排出量の少ないエコな輸送ソリューションの提案による、環境意識の高い荷主の獲得
・DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進し、オンラインでの予約や貨物追跡プラットフォームの利便性を向上させることによる顧客満足度の向上
・2025年から開始される新アライアンス「プレミア・アライアンス」による、さらなるサービスネットワークの拡充
脅威 (Threats)
・世界的な景気後退による、国際貿易量そのものの減少
・海上コンテナ運賃市況のさらなる長期的な悪化
・紅海情勢など、地政学リスクの高まりによる航路の不安定化と運航コストの上昇
・海外の巨大メガキャリアによる、日本市場でのさらなる価格攻勢
【今後の戦略として想像すること】
この独自の立ち位置と強みを活かし、ONE Japanは、日本市場での存在感をさらに高めていくと考えられます。
✔短期的戦略
まずは、変動の激しい市況に柔軟に対応しつつ、邦船3社時代からの主要顧客とのリレーションをさらに深化させ、日本市場におけるシェアを維持・拡大することに注力するでしょう。同時に、顧客がオンラインで簡単に見積もりや予約、貨物の追跡ができるよう、デジタルプラットフォームの利便性向上を加速させることが重要となります。
✔中長期的戦略
ONEグループがグローバルに掲げる「2050年カーボンニュートラル」の達成に向け、日本の顧客に対して、代替燃料の使用や最新の省エネ船による輸送といった、環境配慮型の輸送サービスを新たな付加価値として積極的に提案していくでしょう。また、グローバルなネットワークと、日本のきめ細やかなサービスを両立させる「ハイブリッドキャリア」としてのブランドイメージを確立し、「日本発着のコンテナ輸送ならONE」という不動の地位を築き上げることが、究極的な目標となります。
まとめ
オーシャン ネットワーク エクスプレス ジャパンは、日本を代表する海運大手3社の叡智とプライド、そして100年以上にわたる歴史と信頼を結集して生まれた、国際競争を勝ち抜くための「ALL JAPAN」のドリームチームです。厳しい国際海運市況の荒波の中でも、着実に利益を上げ続ける強固な経営基盤と、日本の貿易を最前線で支えるという強い使命感を併せ持っています。変化の激しい世界経済の中で、これからも鮮やかなマゼンタ色のコンテナ船団を通じて、日本と世界の架け橋となり、私たちの豊かな暮らしを力強く支え続けていくことが大いに期待されます。
企業情報
企業名: オーシャン ネットワーク エクスプレス ジャパン株式会社
所在地: 東京都港区港南1-8-15 Wビル12階
設立: 2017年10月1日
資本金: 1億円
事業内容: 定期コンテナ船集荷事業(Ocean Network Express Pte. Ltd.の日本総代理店)
株主: オーシャン ネットワーク エクスプレス ホールディングス株式会社(100%出資)