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#1698 決算分析 : 株式会社全農ライフサポート山形 第54期決算 当期純利益 217百万円

つや姫」や「はえぬき」といったブランド米、「山形牛」の深い味わい、そして初夏を彩る「さくらんぼ」。豊かな食文化を誇るフルーツ王国・山形県の恵みを、私たちの食卓へ安定的に届けてくれる存在がいます。しかし、その役割は食品の提供だけに留まりません。生産者を支える物流から、日々の暮らしに寄り添う食材宅配、自動車整備、さらには万が一の時の葬祭事業まで、文字通り人々の人生(ライフ)を幅広く支えています。今回は、JA全農グループの中核企業として、山形県の「食と暮らし」をトータルでサポートする「株式会社全農ライフサポート山形」の決算を分析。多角的な事業を武器に、いかにして安定した経営を実現しているのか。その強さの秘密と、地域に根差した共生の姿に迫ります。

全農ライフサポート山形決算

決算ハイライト(第54期)
資産合計: 3,847百万円 (約38.5億円)
負債合計: 2,124百万円 (約21.2億円)
純資産合計: 1,723百万円 (約17.2億円)

当期純利益: 217百万円 (約2.2億円)

自己資本比率: 約44.8%
利益剰余金: 1,253百万円 (約12.5億円)

 

まず注目すべきは、188億円という大きな売上規模を誇りながら、2.17億円の当期純利益を着実に確保している点です。そして、企業の財務的な体力と安定性を示す自己資本比率は約44.8%と、一般的に健全とされる40%を上回る高い水準を維持しています。さらに、これまでの利益の蓄積である利益剰余金が約12.5億円に達していることからも、長期にわたり安定した経営が行われてきたことがうかがえます。これは、同社が展開する多角的な事業ポートフォリオが、互いにリスクを補完し合いながら安定した収益を生み出す強力なビジネスモデルとして確立されていることを示唆しています。

 

企業概要
社名: 株式会社全農ライフサポート山形
設立: 2007年4月1日(3社合併による)
株主: 全国農業協同組合連合会
事業内容: 農畜産物の加工・販売、生活用品販売、葬祭業、米穀の搗精・販売、貨物自動車運送事業倉庫業、自動車整備事業など多岐にわたる

www.z-lsy.co.jp

 

【事業構造の徹底解剖】
株式会社全農ライフサポート山形は、その成り立ちに事業の多様性の秘密があります。2007年に、食品流通を担う会社、物流を担う会社、そして精米事業を担う会社の3社が合併して誕生しました。それぞれの専門性を活かし、連携することで、山形県の「食と暮らし」を総合的に支えるユニークな事業構造を構築しています。

✔食料事業(コア事業)
同社の中核をなすのは、山形県の誇る強力な農畜産物ブランドを全国の食卓へ届ける事業です。日本トップクラスの品質を誇るブランド米「つや姫」「はえぬき」、そしてきめ細やかな肉質で知られる「山形牛」などを、JA全農のネットワークを活かして販売しています。さらに、プライベートブランド「山形印」を立ち上げ、ローストビーフやいも煮カレーといった高付加価値な加工品を開発。単に素材を売るだけでなく、生産から加工、販売までを一貫して手掛ける6次産業化に近いビジネスモデルで、山形ブランドの価値を最大化しています。

✔物流事業(インフラ事業)
「生産者と消費者を安心で結ぶ懸け橋」として、山形の農業に不可欠なインフラを担っています。農家が丹精込めて育てた米や青果物を全国の消費地へ届ける「動脈物流」と、農業に必要な肥料や農薬といった生産資材をメーカーから農家へ届ける「静脈物流」の双方を担い、地域農業の血流ともいえる重要な役割を果たしています。

✔ライフサポート事業(地域密着事業)
地域住民の生活に深く根差したサービスを幅広く展開しています。栄養バランスを考えた食材を家庭に届ける宅配サービス「JAふれあい食材」、県内4つのホールを運営する葬祭事業「やすらぎセレモニー」、車検や新車・中古車販売を行う自動車関連事業、さらにはLPガスの供給やコンビニエンスストアの運営まで。まさに「日々の食卓から、万が一の時まで」地域の人々の暮らし全体を支える、なくてはならない存在となっています。

 

【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
グローバル化の進展による安価な輸入品との競合や、国内の人口減少は、日本の農業関連企業にとって大きな脅威です。しかし一方で、食の安全・安心への関心の高まりや、ふるさと納税ECサイトの普及による「産地直送」ニーズの拡大は、同社のような産地に根差した企業にとって絶好の機会となっています。

✔内部環境
同社の最大の強みは、多角化された事業による「リスク分散機能」です。例えば、異常気象により米の収穫が打撃を受けたとしても、生活必需品であるLPガス事業や、景気変動の影響を受けにくい葬祭事業が収益全体を安定させます。この収益構造の安定性が、自己資本比率44.8%という高い財務健全性につながっています。また、JA全農グループの一員であることの信用力とネットワークは計り知れず、原料の安定調達から全国規模での販路確保に至るまで、他社にはない強力な優位性となっています。

✔安全性分析
総資産の44.8%を返済不要の自己資本で賄い、約12.5億円の利益剰余金を持つ財務内容は、極めて安全性が高いと言えます。短期的な資金繰りの懸念は考えにくく、長期的な視点に立った安定的な経営が可能です。この財務的な体力は、新たな設備投資や、時代のニーズに合わせた新規事業への挑戦を可能にする源泉となります。

 

SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・「つや姫」「山形牛」など、全国的なブランド力を持つ山形県産の高品質な農畜産物を安定的に扱えること
・食品、物流、葬祭、自動車など、景気変動の影響を受けにくい事業を組み合わせた、多角的で安定した事業ポートフォリオ
JA全農グループとしての絶大な信用力、強固な調達力、そして全国に広がる販売ネットワーク
・県内15の事業所を拠点とした、地域に深く密着したきめ細やかなサービス提供能力

弱み (Weaknesses)
・事業の基盤が山形県に集中しており、県外における事業展開やブランド認知度が限定的である点
・多角的に事業を展開しているが故に、経営資源が分散し、各事業での専門性が希薄になるリスク
山形県内の農業従事者の高齢化や後継者不足が、中長期的な視点での高品質な原料の安定調達における懸念材料となりうること

機会 (Opportunities)
ふるさと納税返礼品市場の拡大や、JAタウンなどのECサイトを通じた、全国の消費者への直接販売(D2C)チャネルの強化
・健康志向、国産志向の高まりを背景とした、安全・安心で栄養バランスの取れた食材宅配サービスの需要増
SDGsやフードロス削減への社会的な関心の高まりを活かした、新たな商品開発やサステナブルな事業モデルの構築
・インバウンド(訪日外国人観光客)の回復による、山形県産品の土産物としての需要や、ブランド価値の国際的な向上

脅威 (Threats)
地球温暖化に伴う異常気象や自然災害が、農産物の収穫量や品質に与えるリスク
・TPPをはじめとする貿易協定による、安価な海外農産物との競合激化
・日本の人口減少、特に地方における過疎化の進行が、地域密着型事業の市場規模を縮小させる可能性
原油価格の上昇に伴う、燃料費や包装資材、生産資材などの価格高騰によるコスト増

 

【今後の戦略として想像すること】
これらの事業環境分析から、株式会社全農ライフサポート山形は、安定基盤の上で、さらなる付加価値創造を目指す戦略を描いていると推察されます。

✔短期的戦略
ECサイトSNSを活用したデジタルマーケティングを強化し、山形ブランドの魅力を全国の消費者へ直接的かつ効果的に伝えていくでしょう。既存のライフサポート事業においては、高齢化社会のニーズに応える新サービス(例えば、見守りサービスと食材宅配の連携など)を開発し、地域内でのシェアをさらに確固たるものにしていくと考えられます。

✔中長期的戦略
強みである山形ブランドを武器に、海外の富裕層などをターゲットとした輸出事業の展開を本格的に模索する可能性があります。また、自社プライベートブランド「山形印」のラインナップをさらに拡充し、食品メーカーとしての側面を強化していくでしょう。そして、フードテックやアグリテックといった先端技術への投資も視野に入れ、生産から加工、販売、物流に至るまでのバリューチェーン全体の効率化と高度化を図っていくことが期待されます。

 

まとめ
株式会社全農ライフサポート山形は、山形県の豊かな「食」を全国に届ける商社であり、同時に、地域の人々の「暮らし」そのものを多角的に支える、まさに地域共生を体現する複合企業です。その強さは、全国に誇るブランド農産物と、食品・物流・生活支援という相互補完的な事業ポートフォリオにあります。今回の決算で示された高い自己資本比率と安定した利益は、このユニークなビジネスモデルがいかに有効であるかを証明しています。「生産者と消費者を安心で結ぶ懸け橋」というモットーの下、これからも山形の農業を守り、育て、そして地域の人々の生活に深く寄り添いながら、変化する時代のニーズに応え、持続的な成長を続けていくことが大いに期待されます。

 

企業情報
企業名: 株式会社全農ライフサポート山形
所在地: 山形県天童市長岡北四丁目7番18号
代表者: 代表取締役社長 髙橋 幸紀
設立: 2007年4月1日
資本金: 4億7千万円
事業内容: 農産物、畜産物の加工、販売業、生活用品、雑貨、一般食品、加工食品の販売業、葬祭業、米穀の仕入貨物自動車運送事業倉庫業、自動車の修理および整備事業など
株主: 全国農業協同組合連合会

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