デパートで受け取る手提げ袋、インターネット通販で届く段ボール箱、小麦粉やセメントを詰める業務用の大型紙袋、そして精密な電子部品を守るプラスチックトレー。私たちの消費活動や産業の根幹は、多種多様な「包む」技術によって支えられています。
今回は、富山県で創業し70年以上の歴史を誇る、総合パッケージメーカーの「中越パッケージ株式会社」に焦点を当てます。同社は、日常的な紙袋や段ボールだけでなく、新聞紙を巻き取るための紙管や、半導体・自動車産業で使われる特殊な成形品まで手掛ける、非常に幅広い製品ポートフォリオを持つ、知る人ぞ知る実力派企業です。日本の製紙業界大手、王子ホールディングスと中越パルプ工業の共同出資会社を親会社に持つ同社の決算書を読み解き、その驚くほど堅実な経営と、時代のニーズに応え続ける事業戦略に迫ります。

決算ハイライト(2025年3月期)
資産合計: 6,330百万円 (約63億円)
負債合計: 2,739百万円 (約27億円)
純資産合計: 3,591百万円 (約36億円)
当期純利益: 148百万円 (約1.5億円)
自己資本比率: 約56.7%
利益剰余金: 3,225百万円 (約32億円)
まず決算の全体像を見ると、その傑出した財務の安定性が際立っています。企業の財務的な体力と健全性を示す自己資本比率は約56.7%と、製造業として極めて高い水準です。これは、総資産の半分以上が返済不要の自己資本で賄われていることを意味し、経営が非常に安定していることの力強い証明です。
当期も約1.5億円の純利益をしっかりと確保しており、創業以来の利益の蓄積である利益剰余金が約32億円にも達しています。長年にわたり安定した黒字経営を続け、着実に内部留保を積み上げてきた、堅実な優良企業の姿がここにあります。
企業概要
社名: 中越パッケージ株式会社
設立: 1952年7月
事業内容: 紙袋、紙加工品(紙管、段ボール)、容器等包装資材(プラスチックトレー等)の製造販売、店舗賃貸管理
親会社: O&Cペーパーバッグホールディングス株式会社(王子ホールディングスと中越パルプ工業のJV)
代表者: 代表取締役社長 三浦 均
本社所在地: 東京都中央区銀座2丁目10番6号
【事業構造の徹底解剖】
中越パッケージの強みは、特定の分野に依存せず、社会の多様なニーズに応える幅広い製品ポートフォリオを構築している点にあります。
✔暮らしと産業を支える「紙加工事業」
同社の祖業であり、事業の根幹をなすのが紙の加工です。
・紙袋:百貨店などで使われる手提げ袋から、宅配便の袋、そしてセメントや飼料を入れる業務用の大型クラフト紙袋まで、あらゆる種類の紙袋を製造しています。
・段ボール・紙管:Eコマースの拡大で需要が伸び続ける段ボールや、製紙会社やフィルムメーカーで使われるスパイラル紙管など、産業に不可欠な製品を供給しています。
✔意外なもう一つの顔「プラスチック成形事業」
同社は紙製品だけでなく、鹿児島工場を拠点に、IC基盤(半導体)や自動車産業向けの精密なプラスチックトレーの製造も手掛けています。これは、紙加工で培った「モノを包み、守る」というコア技術を、異なる素材・異なる業界へと展開した、巧みな事業多角化の一例です。紙製品とは異なる市場に足場を持つことで、グループ全体のリスクを分散させています。
✔大手製紙グループという「強力な後ろ盾」
同社は、王子ホールディングスと中越パルプ工業という、日本の製紙業界を代表する巨大企業グループの一員です。これにより、主原料であるクラフト紙や板紙の安定的な調達が可能になるだけでなく、最新の素材開発や環境技術に関する情報連携など、計り知れないシナジー効果が期待できます。この強力なバックボーンが、同社の安定経営を支える大きな要因となっています。
【財務状況等から見る経営戦略】
この盤石な財務は、同社の堅実な経営姿勢と、それを支える事業環境を反映したものです。
✔外部環境
包装材業界は、Eコマース市場の拡大(段ボール需要増)や、世界的な脱プラスチックの流れ(紙製品への代替需要増)といった追い風を受けています。特に、環境に配慮したFSC®認証紙の使用などは、企業のブランド価値を高める上で重要になっています。一方で、原材料であるパルプ価格や、工場を稼働させるためのエネルギーコスト、物流費の高騰は、収益性を圧迫する大きな課題です。
✔内部環境と安全性分析
自己資本比率56.7%、利益剰余金32億円という傑出した財務内容は、同社がこれらの外部環境の変化に十分耐えうる経営体力を持っていることを示しています。特定の製品や業界に依存しない多様な製品ポートフォリオが、一部の事業が不振でも他の事業でカバーできるリスクヘッジとして機能しています。
この財務的な安定性があるからこそ、社長メッセージにもある通り、「新進気鋭な素材の確保や設備導入を積極的に行い」、未来に向けた投資を継続することができるのです。
【SWOT分析で見る事業環境】
これまでの分析を踏まえ、同社の事業環境を「強み・弱み・機会・脅威」の4つの観点から整理します。
強み (Strengths)
・紙袋、段ボール、紙管、プラスチックトレーと、多岐にわたる製品ポートフォリオによるリスク分散。
・70年以上の歴史で培われた、包装材メーカーとしての高い技術力と信頼性。
・王子・中越パルプという大手製紙グループの一員であることによる、原料調達の安定性と信用力。
・自己資本比率56%超、利益剰余金32億円が示す、極めて強固で安定した財務基盤。
・関東から九州まで、全国に生産拠点を配置することによる、効率的な生産・供給体制。
弱み (Weaknesses)
・段ボールや汎用紙袋といった製品は、価格競争が激しい成熟市場であること。
・事業の多くが国内市場に集中していること。
機会 (Opportunities)
・Eコマース市場の持続的な成長に伴う、段ボールおよび宅配用袋の需要拡大。
・世界的な「脱プラスチック」の流れを受け、プラスチック製品から紙製パッケージへの代替需要が増加すること。
・半導体や自動車産業の回復・成長に伴う、高付加価値なプラスチックトレー事業の拡大。
脅威 (Threats)
・世界的なインフレや地政学的リスクによる、パルプや原油といった原材料価格の急激な高騰。
・大規模な景気後退による、消費活動や産業活動の停滞が、包装材需要全体を押し下げるリスク。
・包装の簡素化や、デジタル化の進展による、一部紙製品の需要減少。
【今後の戦略として想像すること】
この事業環境を踏まえ、中越パッケージは「安定基盤の維持」と「高付加価値分野への注力」を両輪で進めていくと考えられます。
✔短期的戦略
まずは、主力の段ボールや紙袋事業において、生産効率の改善やコスト管理を徹底し、安定した収益を確保し続けることが基本戦略です。旺盛なEコマース需要を確実に取り込み、収益の基盤を固めます。
✔中長期的戦略
長期的には、より成長性と収益性が見込める分野への注力が予想されます。一つは、脱プラスチックの流れを捉えた、環境配慮型の新たな紙製パッケージの開発です。親会社との連携を活かし、耐水性やバリア性を持つ特殊な紙を用いた新製品を市場に投入していく可能性があります。もう一つは、半導体・自動車向けのプラスチックトレー事業のさらなる強化です。こちらは日本の基幹産業を支える高付加価値な製品であり、技術的な優位性を武器に、さらなるシェア拡大を目指していくでしょう。
まとめ
中越パッケージ株式会社は、70年以上の歴史を持つ、日本の産業と暮らしを「包む」ことで支える、総合パッケージメーカーです。第85期決算では、約1.5億円の当期純利益と、56.7%という極めて高い自己資本比率で、その揺るぎない経営基盤を見せつけました。
その強さの源泉は、紙袋からハイテクトレーまでをカバーする多様な事業ポートフォリオと、大手製紙グループの一員であるという絶対的な安定感にあります。地道で着実な経営を続けながら、時代の変化を捉えて事業の多角化を進めてきた歴史が、今日の強固な財務体質を築き上げました。「真心を包む」という言葉を胸に、これからも日本のものづくりと豊かな生活を、その確かな技術で支え続けていくことが期待されます。
企業情報
企業名: 中越パッケージ株式会社
所在地: 東京都中央区銀座2丁目10番6号 銀座CPCビル4階
代表者: 代表取締役社長 三浦 均
設立: 1952年7月
資本金: 194,000,000円
事業内容: 紙袋、紙加工品(紙管、段ボール)、容器等包装資材(プラスチックトレー等)の製造販売、店舗の賃貸と管理など