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#1518 決算分析 : 株式会社ジャパン・アイディー 第34期決算 当期純利益 33百万円

私たちがオフィスで使うIDカード、街の安全を見守る監視カメラ。これらの「セキュリティ」は、現代社会の安心を支える不可欠なインフラです。今回は、そのセキュリティインフラの構築を、物理的なシステムから内部の半導体チップ設計まで、一気通貫で手掛けるユニークな技術者集団、株式会社ジャパン・アイディーの第34期決算を分析します。株主には東芝東京ガスといった大企業が名を連ね、その事業は社会の基盤を静かに、しかし強力に支えています。官報に示されたのは、自己資本比率85%超という鉄壁の財務基盤と、安定した利益。そして、その技術力を意外な分野へと展開する、未来への挑戦の姿でした。社会の「安全と安心」を追求する企業の、堅実さと革新性に迫ります。

ジャパン・アイディー 決算

決算ハイライト(第34期)
資産合計: 3,270百万円 (約32.7億円)
負債合計: 429百万円 (約4.3億円)
純資産合計: 2,841百万円 (約28.4億円)

当期純利益: 33百万円 (約0.3億円)

自己資本比率: 約86.9%
利益剰余金: 2,823百万円 (約28.2億円)

 

まず驚かされるのは、その卓越した財務の健全性です。自己資本比率は約86.9%と極めて高く、総資産の大部分を返済不要の自己資本で賄っていることを示しています。これは、外部環境の変化に動じない、非常に強固な経営基盤を物語っています。28億円以上積み上げられた利益剰余金は、30年以上にわたる堅実な経営の賜物です。一方で、当期の純利益は約33百万円と、その巨大な純資産に比して穏やかな水準にあります。これは、同社が短期的な利益拡大よりも、長期的な安定性と質の高いサービス提供を重視する、その経営理念を体現した結果と言えるでしょう。

 

企業概要
社名: 株式会社ジャパン・アイディー
設立: 1992年2月14日
株主: 株式会社東芝東京瓦斯株式会社、株式会社たいよう共済、株式会社ジェイアール貨物・不動産開発など
事業内容: セキュリティシステムのコンサルティング・設計・施工・保守、電子デバイスLSI)の設計・開発、IDカード作成、DXソリューションの提供。

www.jid.co.jp

 

【事業構造の徹底解剖】
ジャパン・アイディーの事業は、一見すると多岐にわたりますが、「安全・安心に貢献する」という一本の軸で貫かれています。そのユニークな事業構造は、大きく4つの柱で構成されています。

✔セキュリティソリューション(事業の基盤)
同社の中核をなす事業です。監視カメラや入退室管理システムの導入において、単に機器を販売するのではなく、「何をどう守るか」という本質的な課題から顧客と向き合うコンサルティングが特徴です。特定のメーカーに縛られず最適なシステムを設計し、電気工事業特定建設業許可を持つ専門家として施工から保守までワンストップで提供。公共施設や大企業から寄せられる高度なセキュリティニーズに応えています。

✔電子デバイスソリューション(技術力の心臓部)
同社を単なるシステムインテグレーターではない、技術者集団たらしめているのがこの事業です。システムLSI(大規模集積回路)の「デザインハウス」として、顧客の要求に応じたカスタムチップの設計・開発を行っています。特にセキュリティ分野では、小型化、省電力、高速処理といった高度な要求に応える必要があり、同社の深い技術的知見が活かされています。独自のノイズキャンセル回路を搭載したインターフェースIC「NACポート」シリーズなど、自社製品も展開しており、これが技術力の高さを証明しています。

✔IDカード作成(信頼を形にするサービス)
従業員証や学生証など、IDカードの作成も手掛けています。プライバシーマークを取得した厳重な管理体制のもと、デザインからデータ書き込み、印刷までを一貫して行います。1枚からの追加発行にも対応する柔軟さで、顧客の細かなニーズに応えています。

✔DXソリューション(未来への挑戦)
そして最も注目すべきが、これまでの技術を応用した新たな挑戦です。その象徴が、宮崎大学と共同研究を進める「牛用深部体温モニター」の開発です。これは、牛の体表面にセンサーを装着するだけで、連続的に体温をモニタリングし、繁殖管理や健康管理に役立てるというもの。セキュリティ分野で培ったセンサー技術やデータ処理技術を、全く新しい「スマート農業(AgriTech)」の分野に応用する、まさにDXソリューションであり、同社の未来を拓く可能性を秘めています。

 

【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
社会全体の防犯意識の高まりや、企業のコンプライアンス強化により、セキュリティ市場は安定した需要が見込めます。また、あらゆるモノがネットに繋がるIoT時代において、それを支える半導体LSIの設計需要も底堅いものがあります。さらに、日本の農業が抱える後継者不足や大規模化といった課題は、同社が挑むスマート農業分野にとって大きな成長機会となります。

✔内部環境
同社の経営を理解する上で欠かせないのが、東芝東京ガスといった大企業が株主として名を連ねている点です。この強力な株主構成は、同社に高い社会的信用を与えると同時に、これらの大企業およびその関連会社からの安定的で高度な案件の受注に繋がっていると推察されます。特定の顧客と長期的な信頼関係を築き、質の高いサービスを提供することで、安定した経営を実現する。まさに「規模よりは質を追求する」という企業ビジョンを実践しているのです。

✔安全性分析
自己資本比率86.9%という数値は、財務安全性の観点からは「万全」と言えます。実質的に無借金経営であり、短期的な市況の変動や、研究開発への先行投資によって経営が揺らぐことはまず考えられません。この鉄壁とも言える財務基盤があるからこそ、すぐに収益化できるか不透明な「牛の体温計」のような、未来に向けた挑戦的な研究開発にじっくりと取り組むことができるのです。

 

SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
東芝東京ガスなどの大企業が株主であることによる、絶大な信用力と安定した事業基盤
・セキュリティシステムのインテグレーションと、LSIの設計開発という、ハードとソフト両面の高度な技術力
自己資本比率86.9%という、国内トップクラスの財務安定性
・30年以上にわたる事業で培った、セキュリティ分野における豊富な実績とノウハウ

弱み (Weaknesses)
・資産規模に比して利益率が低く、急成長を志向するビジネスモデルではない点
・事業の多くが特定の株主や大口顧客に依存している可能性
・従業員40名という少数精鋭体制であり、事業のスケールアップには人材確保が課題となる

機会 (Opportunities)
サイバー攻撃の巧妙化やインフラ防衛など、セキュリティニーズの多様化・高度化
・IoTの普及に伴う、あらゆる機器に搭載されるカスタムLSIの設計需要の増加
・スマート農業やスマート工場など、異業種へのDXソリューション展開の可能性

脅威 (Threats)
・セキュリティ技術や半導体技術の急速な進化に、継続的にキャッチアップしていく必要性
・大手システムインテグレーターや、特定の技術に特化したスタートアップとの競合
・主要顧客である大企業の業績や投資方針の変更による影響

 

【今後の戦略として想像すること】
「安定」と「革新」を両立させる同社は、今後、そのユニークな立ち位置をさらに強化していくと考えられます。

✔短期的戦略
既存のセキュリティ事業およびデバイス事業において、株主である大企業との連携をさらに深め、より付加価値の高いソリューションを提供していくでしょう。同時に、「牛用深部体温モニター」の製品化を成功させ、スマート農業分野での最初の実績を築くことが最優先課題となります。これにより、新たな収益の柱を確立するとともに、「DXソリューション企業」としての認知度を高めます。

✔中長期的戦略
「横展開」がキーワードとなります。牛の体温モニターで確立した「センサー×データ分析×課題解決」というモデルを、他の分野に応用していきます。例えば、東京ガスとの連携では、ガス管やプラント設備の異常を検知する予知保全システム。東芝との連携では、工場の生産ラインを最適化するIoTシステムなど、株主のアセットを活用した新たなDXソリューションの共同開発が考えられます。将来的には、「社会インフラの安全を支えるIoTソリューションカンパニー」へと進化していく可能性を秘めています。

 

まとめ
株式会社ジャパン・アイディーは、その名の通り、日本の社会基盤の「ID(身分証明)」を物理的・電子的に支える、静かなる巨人です。決算書が示す鉄壁の財務は、30年以上にわたり、大企業の厳しい要求に応え続けてきた信頼の証です。しかし、彼らはその安定にあぐらをかくことなく、セキュリティ技術の粋を、今度は「牛」という全く新しい対象へと向けています。これは、同社が自らの技術の可能性を信じ、未来の社会課題解決に貢献しようとする、強い意志の表れです。社会の安全・安心を守る揺るぎない基盤の上で、新たな革新の芽を育てる。ジャパン・アイディーの次の一歩は、私たちの未来の暮らしを、より豊かで安全なものにしてくれるに違いありません。

 

企業情報
企業名: 株式会社ジャパン・アイディー
所在地: 東京都千代田区外神田一丁目8番13号 NREG秋葉原ビル
代表者: 代表取締役社長 関根 貞夫
設立: 1992年2月14日
資本金: 5,000万円
事業内容: セキュリティシステムのコンサルティング・設計・施工・保守、電子デバイスLSI)の設計・開発、IDカード作成、DXソリューションの提供
株主: 株式会社東芝東京瓦斯株式会社、株式会社たいよう共済、株式会社ジェイアール貨物・不動産開発、株式会社新都市ライフホールディングス東芝自動機器システムサービス株式会社

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