決算公告データ倉庫

決算公告を自分用に収集・コメントし保管する倉庫。あくまで自分用であり、引用する決算公告を除き内容の正確性/真実性を保証できない点はご容赦ください。

#1741 決算分析 : 株式会社H&Hホールディングス 第8期決算 当期純利益 ▲116百万円

心の健康が社会全体の重要課題となる現代。医療機関に繋がることができず、孤立してしまう人々を地域でどう支えるか、その答えを模索する企業があります。それが、精神科に特化した訪問看護を軸に、相談支援から就労支援までを一気通貫で手掛ける「株式会社H&Hホールディングス」です。同社は『幸せ(Happy)で健康的(Healthy)な社会の創出』という理念の下、単なる看護に留まらず、利用者が社会復帰し、自立した生活を送るまでの道のりに伴走します。しかし、その急成長と社会貢献の裏側で、第8期決算では1.1億円を超える当期純損失を計上。この赤字は、事業の困難さを示す危険信号なのでしょうか。いいえ、むしろこれは、社会課題の解決に向けてアクセルを最大限に踏み込む、同社の強い意志と戦略的な投資の証です。今回は、このミッションドリブンな企業の決算書から、そのビジネスモデルの独自性と、先行投資の先に見据える未来を読み解きます。

20250331_8_H&Hホールディングス決算

決算ハイライト(第8期)
資産合計: 381百万円 (約3.8億円)
負債合計: 316百万円 (約3.2億円)
純資産合計: 65百万円


当期純損失: 116百万円
自己資本比率: 約17.0%
利益剰余金: ▲863百万円 (約▲8.6億円)

 

決算データは、同社がまさに成長と投資のフェーズにあることを物語っています。約8.6億円という大きな利益剰余金のマイナス(累積損失)と、当期の1.1億円を超える純損失は、事業の急拡大に伴う先行投資がかさんでいることを示しています。自己資本比率も約17.0%と低い水準にありますが、注目すべきは8.4億円を超える資本剰余金です。これは、株主から事業の将来性を見込まれ、多額の資金調達に成功していることの証左です。つまり、現在の赤字は経営不振によるものではなく、全国への拠点展開や人材採用といった、将来の大きなリターンを見据えた計画的な戦略投資の結果であると読み取れます。

 

企業概要
社名: 株式会社 H&H ホールディングス
設立: 2017年4月17日
事業内容: 精神科に特化した訪問看護ステーション「デライト」の運営を中核に、相談支援事業、人材紹介事業、障害者雇用支援サービスを展開。

hh-group.co.jp

 

【事業構造の徹底解剖】
H&Hホールディングスの強みは、精神的な困難を抱える人々を多角的に支援する、独自の「統合型サポートエコシステム」を構築している点にあります。

✔中核事業:精神科特化型訪問看護「デライト」
同社の事業の根幹は、精神科領域に特化した訪問看護ステーション「デライト」の運営です。経験豊富な看護師が利用者の自宅を訪問し、病状の緩和や回復だけでなく、地域社会で安心して暮らしていくためのサポートを行います。担当制ではなく「チーム制」で対応することで、利用者の状況に柔軟に対応できる体制を築いています。さらに、まだ医療に繋がれていないひきこもりの方々へのアウトリーチ(訪問支援)も視野に入れるなど、極めて社会貢献性の高い事業です。

シナジーを生む多角化事業(ケアから就労までの一貫支援)
同社のビジネスモデルが秀逸なのは、訪問看護という「ケア」だけで終わらない点です。
・相談支援事業: 障害福祉サービスを利用したい人向けの利用計画を作成する「相談支援事業所デライト」を運営。これは、支援を必要とする人々への「入口」として機能し、中核である訪問看護事業へとつなげる重要な役割を担います。
障害者雇用支援・人材紹介事業: 利用者の回復に合わせた「出口」として、就労支援までを手掛けているのが最大の特徴です。企業に対して障害者雇用をトータルでサポートする「デライトジョブ」ブランドを展開。障害特性に合わせた業務の切り出しや定着支援を行う「サテライトオフィスプラン」は、法定雇用率の達成に悩む企業にとって魅力的なサービスであり、利用者の就労機会創出と、企業の課題解決を同時に実現する、非常に巧みなBtoBビジネスです。

このように、同社は「相談」→「看護」→「就労」という、利用者の人生のステージに寄り添う一貫したサービスを提供することで、他社にはない独自の強固なエコシステムを築いています。

 

【財務状況等から見る経営戦略】
今回の決算内容は、同社の急成長戦略を明確に反映しています。

✔外部環境
ストレス社会の深化や精神疾患への理解向上を背景に、精神科訪問看護の需要は年々増加しています。また、国策として、長期入院から地域生活への移行(地域移行)が推進されており、地域における受け皿としての訪問看護の役割はますます重要になっています。さらに、企業の障害者雇用義務は段階的に強化されており、専門的なノウハウを持つ支援サービスへのニーズは非常に高まっています。同社は、これら複数の成長市場で事業を展開していることになります。

✔内部環境
当期1.1億円超の赤字は、この巨大な市場機会を捉えるための、積極的な拡大戦略の結果です。同社の沿革を見ると、設立から数年で次々と地域子会社を設立し、2023年から2024年にかけてそれらをホールディングスに合併・統合するという、急速なM&Aと組織再編を行ってきたことがわかります。このような拠点開設や人材採用、組織統合には多額の先行投資が必要であり、それが短期的な損失として計上されています。経営戦略としては、株主から調達した資金(資本剰余金)を元手に、まずは市場シェアを迅速に獲得し、全国的なサービスネットワークを構築することを最優先する「スケール先行型」の戦略をとっていると言えるでしょう。

 

SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・精神科訪問看護障害者雇用支援という、専門性と社会貢献性の高い事業領域への特化。
・「相談→看護→就労」という、利用者の人生に寄り添う一貫したサービス提供体制(エコシステム)。
・社会課題の解決を目指すという、明確で共感を呼びやすい企業理念。
・急成長を支える、株主からの資金調達力。

弱み (Weaknesses)
赤字経営が続いており、事業の収益性がまだ確立されていない。
自己資本比率が低く、財務的な安定性が今後の課題。
・事業の急拡大に伴う、組織マネジメントやサービス品質の維持・標準化の難しさ。

機会 (Opportunities)
メンタルヘルスケア市場全体の拡大と、在宅・地域ケアへのシフト。
・障害者法定雇用率の引き上げに伴う、企業の雇用支援サービスへの需要増大。
・未開拓エリアへの訪問看護ステーションの展開による、全国ネットワークの構築。
・蓄積したデータやノウハウを活用した、新たな福祉・医療サービスの開発可能性。

脅威 (Threats)
・精神科領域の専門知識を持つ看護師など、専門人材の採用競争の激化。
介護保険障害福祉サービスの報酬改定による、収益性の変動リスク。
メンタルヘルスケアという繊細な領域を扱うが故の、利用者とのトラブルやレピュテーションリスク。

 

【今後の戦略として想像すること】
H&Hホールディングスは、投資フェーズから収益化フェーズへの移行を目指していくでしょう。

✔事業基盤の強化と収益化
M&Aで拡大したグループ組織の統合とオペレーションの効率化を進め、既存事業の黒字化を急ぐでしょう。特に、訪問看護ステーションあたりの利用者数を増やし、稼働率を高めることが最優先課題となります。

✔BtoB事業(障害者雇用支援)の本格展開
安定した収益源として、法人向けの障害者雇用支援サービス「デライトジョブ」の営業を強化していくと考えられます。企業のCSRダイバーシティ推進の潮流に乗り、このBtoB事業を第2の柱として確立することが、経営の安定化に大きく寄与します。

✔人材への投資と理念浸透
同社の理念に共感する優秀な看護師や支援員を惹きつけ、定着させるための研修制度やキャリアパスの整備をさらに強化するでしょう。急拡大した組織全体に「Happy & Healthy」という企業文化を浸透させることが、サービスの質を維持し、持続的に成長するための鍵となります。

 

まとめ
株式会社H&Hホールディングスは、精神的な困難を抱える人々の「ケア」から「就労」まで、その人生に寄り添い、伴走する、極めてユニークで社会貢献性の高いビジネスモデルを構築しています。第8期決算に示された1.1億円超の赤字は、経営の危機ではなく、この壮大なビジョンを実現するために全国へサービス網を急拡大させる、いわば産みの苦しみ、未来への戦略的投資です。その挑戦を支えているのは、社会課題解決への情熱と、そのビジョンに共鳴した株主からの力強い支援です。今後、拡大した事業基盤を活かして、いかに持続可能な収益モデルを確立していくのか。同社の挑戦は、日本の地域包括ケアシステムと障害者雇用の未来を占う、重要な試金石となるでしょう。

 

企業情報
企業名: 株式会社H&Hホールディングス
本社所在地: 東京都千代田区神田錦町2-2-1 KANDA SQUARE 11F WeWork内
代表取締役: 檜垣 慎司
設立: 2017年4月17日
資本金: 8千万円
事業内容: 精神科に特化した訪問看護事業、相談支援事業、人材紹介事業、障害者雇用支援サービス

hh-group.co.jp

©Copyright 2018- Kyosei Kiban Inc. All rights reserved.