スーパーマーケットの売り場で私たちが目にする、瑞々しい野菜や新鮮な魚、美味しそうな惣菜。その魅力を最大限に引き出し、私たちの購買意欲を掻き立てているのは、商品を彩る「パッケージ」や「販促物」です。食品トレー、ラップ、ラベル、そして「本日のおすすめ品!」と書かれたPOP。これら全てを、単に供給するだけでなく、企画・提案から店舗づくりまでを丸ごと支援する「食の総合商社」が、九州に存在します。
今回は、九州・沖縄エリアの食の現場を裏側から支え、食品トレー最大手エフピコグループの中核企業として、今期4.3億円という巨額の純利益を計上した株式会社アペックスの決算を分析します。その圧倒的な収益力と、地域に深く根差したビジネスモデルの強さに迫ります。

決算ハイライト(第51期)
資産合計: 4,275百万円 (約42.8億円)
負債合計: 1,630百万円 (約16.3億円)
純資産合計: 2,645百万円 (約26.5億円)
当期純利益: 436百万円 (約4.4億円)
自己資本比率: 約61.9%
利益剰余金: 2,635百万円 (約26.3億円)
特筆すべきは、4.3億円を超える当期純利益と、26億円以上という巨額の利益剰余金です。資本金1,000万円の企業としては驚異的な利益の蓄積であり、長年にわたり極めて高い収益性を維持してきたことがうかがえます。自己資本比率も61.9%と非常に高く、財務基盤は鉄壁。高い収益性と盤石の安定性を両立する、優良企業の姿がここにあります。
企業概要
社名: 株式会社アペックス
設立: 1974年2月8日
株主: 株式会社エフピコ(2023年9月より連結子会社化)
事業内容: 軽量包装容器の製造・販売、包装資材・店舗用品の卸販売、DTP印刷、厨房設備機械の販売などを手掛ける「包装資材の総合商社」。
【事業構造の徹底解剖】
株式会社アペックスの強さは、単なる「卸売業者」の枠を超え、顧客の売上向上にまでコミットする「ソリューションパートナー」としての事業モデルにあります。
✔「店舗の困りごと」を丸ごと解決するワンストップサービス
同社は、食品トレーやポリ袋といった包装資材はもちろん、店内のPOPやチラシなどの販促物、バックヤードで使う衛生用品や厨房機器、さらには包装機械のメンテナンスまで、店舗運営に必要なあらゆるアイテムとサービスを提供しています。スーパーなどの顧客は、複数の業者と取引する手間なく、アペックス一社に必要なものをまとめて発注できます。これは、顧客の業務効率化に大きく貢献する、強力な付加価値です。
✔顧客の売上を創る「提案型営業」
同社の真骨頂は、単に商品を売るのではなく、「どうすればもっと売れるか」を顧客と一緒になって考える「提案型営業」にあります。商品の特性や価格、陳列場所といった情報をもとに、最適なオリジナル容器を企画・開発したり、より効果的なPOPや売り場のレイアウトを提案したりと、顧客のビジネスに深く入り込み、売上アップをトータルでサポートします。これが、価格競争に陥らない高い収益性の源泉です。
✔九州・沖縄全域をカバーする自前の物流網
九州全県と沖縄に営業・物流拠点を構え、取引先の商品を自社倉庫で一元管理。必要な商品を、必要な時に、店舗別・部門別に仕分けて一括納品する、きめ細かな物流網を構築しています。これにより、顧客の在庫管理の手間を省き、安定供給を実現。配送ドライバーも単なる配達員ではなく、顧客の課題をヒアリングする窓口として機能しており、地域密着型のサービスを徹底しています。
✔エフピコグループとしてのシナジーと循環型リサイクル
2023年9月、食品トレー容器の最大手であるエフピコグループに参画したことは、同社の事業を新たなステージへと押し上げました。業界トップメーカーの高品質な製品を安定的に供給できるだけでなく、エフピコが推進する「循環型リサイクル」の中核を担う存在となっています。九州で業界初となる「使用済みプラ回収専用車両」を導入するなど、回収からメーカーへの引き渡しまでを担い、脱炭素社会の実現に貢献しています。
【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境:中食・内食市場の拡大と環境意識の高まり
ライフスタイルの変化に伴い、スーパーの惣菜やテイクアウト商品といった「中食」市場は拡大を続けています。これは、同社が主力とする食品容器や包装資材にとって、力強い追い風です。また、SDGsへの関心の高まりから、消費者は環境に配慮した商品を求めるようになっています。エフピコグループとして「エコトレー」などのリサイクル製品を積極的に推進する同社の事業は、この社会的な要請にも完全に応えるものです。
✔内部環境:圧倒的な収益性と財務基盤
4.3億円という巨額の純利益は、付加価値の高いソリューション営業と、九州・沖縄エリアにおける高いマーケットシェア、そして効率的な物流網が一体となって生み出されています。この稼ぐ力によって蓄積された26億円超の利益剰余金と、61.9%という高い自己資本比率は、同社に圧倒的な経営の自由度をもたらしています。市況の変動に動じることなく、沖縄への新規出店や、環境関連の取り組み(グリーンボンドへの投資など)といった未来への投資を、自己資金で積極的に行えるのです。
✔安定性分析
顧客であるスーパーにとって、包装資材が欠品することは、商品の販売機会を失うことに直結します。アペックスの盤石な財務基盤は、いかなる時でも商品を安定的に供給できる能力の証であり、顧客からの絶大な信頼の源泉となっています。この信頼関係こそが、50年近くにわたって地域No.1の地位を維持してきた最大の理由と言えるでしょう。
【SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・九州・沖縄エリアにおける、他社を圧倒する市場シェアと、きめ細かな物流・営業ネットワーク。
・包装資材から店舗提案まで手掛ける、「ソリューション・パートナー」としての高い付加価値。
・食品トレー最大手「エフピコグループ」の一員であることによる、製品力、ブランド力、リサイクル事業での優位性。
・自己資本比率60%超、利益剰余金26億円という、鉄壁の財務基盤。
弱み (Weaknesses)
・事業エリアが九州・沖縄に集中しており、地域経済の動向や大規模災害のリスクを受けやすい。
・主力の取引先である、食品小売業界の景気変動に業績が左右される。
機会 (Opportunities)
・テイクアウトやデリバリー市場のさらなる拡大に伴う、高機能・環境配慮型容器への需要増加。
・エフピコグループのネットワークを活用した、新たな顧客や商材の開拓。
・店舗運営に必要なアイテムを揃えた通販サイト「パックマーケット」の成長。
・循環型リサイクルへの貢献を企業のPRとして活用し、環境意識の高い顧客からの支持を獲得。
脅威 (Threats)
・プラスチック製品に対する、世界的な規制強化の動き。
・原材料価格や原油価格の高騰による、製品コストや物流コストの上昇。
・異業種からの参入や、ネット通販専門業者との競争激化。
【今後の戦略として想像すること】
圧倒的な強みを持つアペックスは、今後、その事業領域をさらに深化・拡大させていくでしょう。
✔短期的戦略
エフピコグループとしてのシナジーを最大化することに注力するでしょう。環境配慮型の「エコトレー」の販売を九州全域でさらに加速させるとともに、グループの総合力をアピールすることで、既存顧客との取引を深め、新規顧客を開拓していくと考えられます。
✔中長期的戦略
「食」の現場のあらゆるニーズに応えるという強みを活かし、コンサルティング事業をさらに強化していく可能性があります。包装資材の提案に留まらず、店舗のDX化支援や、売上データ分析に基づくマーケティング支援など、より深く顧客の経営に入り込むことで、不可欠なビジネスパートナーとしての地位を盤石なものにしていくでしょう。九州・沖縄で確立したこの成功モデルを、他の地域へ展開していくことも視野に入ってくるかもしれません。
まとめ
株式会社アペックスは、単なる包装資材の卸売業者ではありません。それは、九州・沖縄の食文化を豊かに彩り、顧客である小売店の繁盛を共に創り上げる、まさに「ビジネスパートナー」です。50年の歴史で築いた地域での絶対的な信頼と、エフピコグループという新たな翼を得て、その収益力と安定性は他の追随を許しません。
環境問題への真摯な取り組みと、顧客に寄り添う提案力。アペックスの堅実かつ力強い歩みは、これからも九州の食の現場を明るく照らし続けていくことでしょう。
企業情報
企業名: 株式会社アペックス
所在地: 福岡県福岡市中央区薬院3丁目15番3号
代表者: 亀澤 徹
設立: 1974年2月8日
資本金: 1,000万円
事業内容: 軽量包装容器の製造と販売及び包装資材・店舗用品の卸販売、DTP印刷、厨房設備機械の販売など
株主: 株式会社エフピコ