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#1384 決算分析 : 株式会社鹿児島サンライズファーム 第55期決算 当期純利益 20百万円

私たちがスーパーで手にする、美しいサシの入った和牛や、旨味の濃いブランド豚。その美味しさの背景には、生産者たちの長年の経験と愛情に加え、今や最先端のテクノロジーが深く関わっています。伝統的な畜産の知恵と、AIや国際安全基準といった革新技術を融合させ、次世代の畜産業を切り拓く企業が、南国・鹿児島にあります。
今回は、黒毛和牛「さつま姫牛」やブランド豚「さつま王豚」を生産し、牛・豚の同一農場として日本で初めて国際安全認証SQFを取得したパイオニア、株式会社鹿児島サンライズファームの決算を分析します。50年以上の歴史を持つ同社が、いかにして伝統と革新を両立させ、持続可能な畜産を実現しようとしているのか。その力強い歩みと経営戦略に迫ります。

20250228_55_鹿児島サンライズファーム決算

決算ハイライト(第55期)
資産合計: 4,610百万円 (約46.1億円)
負債合計: 3,867百万円 (約38.7億円)
純資産合計: 743百万円 (約7.4億円)
当期純利益: 20百万円 (約0.2億円)


自己資本比率: 約16.1%
利益剰余金: 733百万円 (約7.3億円)

 

今期は、約2,000万円の当期純利益を確保しました。世界的な飼料価格の高騰など、畜産業界にとって厳しいコスト環境が続く中で、黒字を達成したことは、同社の安定した生産体制とブランド価値の高さを証明しています。7.3億円を超える利益剰余金は、半世紀にわたる歴史の中で着実に利益を蓄積してきた証です。自己資本比率は16.1%と一見低めですが、これは土地や設備、そして育成中の家畜(資産)を多く抱える、資本集約型の畜産業の典型的な財務構造を反映したものです。

 

企業概要
社名: 株式会社鹿児島サンライズファーム
設立: 1970年7月
事業内容: 肉用牛・豚の肥育生産管理及び販売。独自ブランド「さつま姫牛」(黒毛和牛)、「さつま王豚」の生産を主力とする。

sunrisefarm-kagoshima.jp

 

【事業構造の徹底解剖】
鹿児島サンライズファームの強みは、単なる家畜の生産に留まらず、独自のブランドを確立し、そこに「安全」と「革新」という明確な付加価値を与えている点にあります。

✔こだわりの二大ブランド戦略

さつま姫牛

「特別な日だけでなく、毎日でも食べたいお手頃な黒毛和牛」をコンセプトに、特に肉質が柔らかく、体に良い不飽和脂肪酸オレイン酸)を多く含むとされる未経産の「牝牛」にこだわって生産。美味しさと健康、そして価格のバランスを追求しています。

さつま王豚

脂肪の旨味に優れる希少な「梅山豚(めいしゃんとん)」、きめ細かい肉質の「黒豚」、サシが入りやすい「デュロック」を掛け合わせた、独自の三元豚。同社のみで繁殖から肥育まで一貫生産される、まさにオンリーワンのブランド豚です。

✔「安全の見える化」国際認証SQFの取得
同社は、牛と豚を飼育する同一農場として、日本で初めて食品安全・品質管理の国際認証「SQF」を取得しました。これは、飼料や水の定期検査から、農場の衛生管理、フードディフェンス(食品防御)対策まで、生産の全工程が国際基準で安全であることを客観的に証明するものです。消費者に「安心」を届けるという理念を、具体的な形で実践しています。

✔AI技術を活用した最先端の家畜管理
伝統的な目視での観察に加え、同社はAI技術(U-motionなど)を積極的に導入しています。牛一頭一頭にセンサーを取り付け、活動量や反芻時間などを24時間モニタリング。これらのデータを分析することで、病気の兆候を早期に発見したり、一頭ごとに最適な飼料の配合を調整したりと、科学的根拠に基づいたきめ細かな健康管理を実現。これが、牛の健康と肉質の向上に直結しています。

 

【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境:高まる需要とコスト圧力
国内外での和牛人気は依然として高く、高品質な豚肉への需要も安定しています。特に、SQFのような国際認証は、食の安全に対する意識が高い海外市場への展開において、強力な武器となります。一方で、国際的な穀物相場や為替の変動は、飼料価格の高騰として経営を直撃します。このコスト圧力をいかに吸収し、ブランド価値として価格に転嫁できるかが、収益性を左右する最大の鍵となります。

✔内部環境:「伝統×革新」による付加価値創造
同社の経営戦略の核心は、「伝統的な肥育ノウハウ」と「SQFやAIといった革新的技術」を掛け合わせることで、他社には真似できない付加価値を創造している点にあります。直営農場で最新技術を試行し、その成果を地域の契約農家(預託農場)と共有する「直営・預託ハイブリッドモデル」により、地域全体で高品質なブランド肉を安定的に生産するエコシステムを構築しています。これが、厳しいコスト環境下でも利益を確保できる要因の一つです。

✔安定性分析:資本集約型ビジネスと歴史の重み
自己資本比率16.1%と38億円を超える負債は、一見するとリスクが高いように見えるかもしれません。しかし、その資産の多くは、すぐに価値がなくなるものではない土地・建物や、商品そのものである育成中の牛や豚です。このような資本集約型ビジネスを50年以上にわたって継続し、7億円を超える利益を内部に留保してきたという事実は、銀行などからの長期的な信頼を得て、安定した資金調達ができている証拠です。

 

SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)

・「さつま姫牛」「さつま王豚」という、明確なコンセプトを持つ独自ブランド。

・国際認証「SQF」の取得による、食の安全・品質における高い信頼性。

・AI技術などを活用した、先進的で効率的な生産管理システム。

・50年以上の歴史で培われた肥育ノウハウと、地域農家との強固なネットワーク。

弱み (Weaknesses)

・飼料価格など、外部のコスト変動要因に収益が大きく影響される。

・資本集約型ビジネスであり、財務レバレッジが高い(自己資本比率が低い)。

機会 (Opportunities)

・海外での和牛ブームや、高品質な日本製ポークへの輸出拡大のチャンス。

・食の安全やアニマルウェルフェア(動物福祉)に対する消費者の関心の高まり。

SDGsへの取り組み(メタンガス削減など)をブランド価値向上に繋げる可能性。

脅威 (Threats)

・国内外での家畜伝染病(豚熱、鳥インフルエンザなど)の発生リスク。

・世界的な穀物不作や地政学リスクによる、飼料価格のさらなる高騰。

・代替肉市場の拡大など、消費者の食生活の変化。

 

【今後の戦略として想像すること】
伝統と革新を両輪とする鹿児島サンライズファームは、今後、その取り組みをさらに深化させていくでしょう。

✔短期的戦略
AIやデータ活用の精度をさらに高め、生産効率を極限まで追求することで、コスト上昇分を吸収し、安定した収益基盤を固めていくと考えられます。また、SQF認証を前面に押し出したマーケティングを展開し、ブランドの「安全・安心」という価値を消費者に強く訴求していくでしょう。

✔中長期的戦略
今後は、海外への輸出を本格的な事業の柱として育てていくことが期待されます。特に、厳しい安全基準が求められる欧米やアジアの富裕層向け市場において、SQF認証は大きなアドバンテージとなります。また、サステナビリティへの取り組みを強化し、「環境に配慮して育てられた美味しいお肉」という新たなブランド価値を構築していくことも、次なる成長への重要な一手となるでしょう。

 

まとめ
株式会社鹿児島サンライズファームは、50年以上の歴史を持つ畜産のプロフェッショナルでありながら、その歩みを止めることなく、AIや国際認証といった新しい価値を貪欲に取り入れる革新者でもあります。厳しい事業環境の中でも着実に利益を確保するその経営手腕は、伝統と革新の絶妙なバランスの上に成り立っています。
「美味しい」「安い」「安心・安全」という、食の原点ともいえる価値を、テクノロジーの力で未来へと繋いでいく。鹿児島から発信される、持続可能な畜産の新しい形に、これからも注目です。

 

企業情報
企業名: 株式会社鹿児島サンライズファーム
所在地: 鹿児島県鹿屋市西祓川町1131-1
代表者: 掛水 邦朗
設立: 1970年7月
資本金: 1,000万円
事業内容: 肉用牛・豚の肥育生産管理及び販売(主な取扱品目:さつま姫牛、さつま王豚)

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