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#1372 決算分析 : 株式会社クリマ・ワークス 第8期決算 当期純利益 ▲2百万円

2024年4月、建設業界に「時間外労働の上限規制」が適用され、人手不足と労働者の高齢化という構造的な課題が、待ったなしの経営問題として深刻化しています。従来の一人の職人が一つの専門分野を担う「専門工」の仕組みでは、もはや現場が回らない――。そんな業界全体の悲鳴が聞こえる中、一人の技術者が複数の専門分野を担う「多能工(マルチクラフター)」の育成という、革新的なアプローチでこの課題に挑む企業があります。
今回は、スーパーゼネコン鹿島建設のグループ企業であり、建設業界の未来を担う人材育成モデルを構築する株式会社クリマ・ワークスの決算を読み解きます。設立から8年、着実に成長を遂げてきた同社がなぜ今、赤字を計上したのか。その背景にある未来への先行投資と、揺るぎない経営戦略に迫ります。

20250331_8_クリマ・ワークス決算

決算ハイライト(第8期)
資産合計: 677百万円 (約6.8億円)
負債合計: 364百万円 (約3.6億円)
純資産合計: 313百万円 (約3.1億円)
当期純損失: 2百万円 (約0.0億円)


自己資本比率: 約46.2%
利益剰余金: 238百万円 (約2.4億円)

 

まず注目すべきは、約46.2%という非常に健全な自己資本比率です。設立8年目にして純資産を3億円以上積み上げており、安定した財務基盤がうかがえます。利益剰余金も約2.4億円と着実に蓄積されています。一方で、今期はわずかながら168万円の当期純損失を計上しました。しかし、この赤字は、同社の成長戦略における未来への先行投資の結果である可能性が高く、その背景を詳しく見ていく必要があります。

 

企業概要
社名: 株式会社クリマ・ワークス
設立: 2017年4月3日
株主: 株式会社クリマテック (100%)
事業内容: 給排水・衛生・空調・電気・消防施設工事の設計・施工。特に、一人の技術者が複数の工種を担当する「多能工」の育成と、工場でのユニット製作を強みとする。

clima-works.com

 

【事業構造の徹底解剖】
同社のビジネスモデルは、建設業界の長年の課題である「生産性の低さ」と「人手不足」を根本から解決することを目指しており、その核心は以下の2つのアプローチに集約されます。

✔「多能工(マルチクラフター)」の育成と活用
従来の建設現場では、「電気」「空調」「衛生」といった設備工事は、それぞれ専門の職人が担当していました。これにより、工程間の手待ち時間が発生したり、業者間の調整が複雑化したりと、非効率が生まれる一因となっていました。
クリマ・ワークスは、この常識を覆します。一人の技術者がこれら複数の分野の知識と技術を習得する「多能工」を自社で正社員として直接雇用・育成。現場では、一人の技術者が複数の工程をシームレスに担当することで、手待ち時間を削減し、工期を大幅に短縮します。これは、個々の技術者の価値を最大化すると同時に、プロジェクト全体の生産性を劇的に向上させる革新的な取り組みです。

✔工場での「ユニット製作(プレファブ化)」
現場での作業を極力減らし、品質を安定させるため、千葉県の自社工場で事前に部品加工やユニット製作(プレファブ化)を推進しています。例えば、空調機やシャフト(配管スペース)の関連部材をあらかじめ工場でユニットとして組み立て、現場ではそれらを設置・接続するだけ。これにより、天候に左右されずに高品質な製品を製作でき、現場での作業工数を削減、安全性も向上させます。この工場は、若手や技能実習生の初期教育・訓練の場としても活用されており、人材育成の根幹を支えています。

✔鹿島グループとしての強力な連携
同社は、親会社である株式会社クリマテック、そしてその親会社であるスーパーゼネコン鹿島建設という強力なバックボーンを持っています。鹿島グループの一員として、最新の施工法の開発や、TSMC熊本工場のような国家的な大規模プロジェクトに参画。グループ内での安定した受注基盤と、最先端の技術開発に携われる環境が、同社の成長を力強く後押ししています。

 

【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境:建設業界の「2024年問題」が追い風に
建設業界は今、時間外労働の上限規制が適用される「2024年問題」に直面し、労働力不足はかつてないほど深刻化しています。限られた人員と時間で、いかに生産性を高めるかが全ての建設会社にとっての喫緊の課題です。このような状況下で、クリマ・ワークスが推進する「多能工」と「工場製作」を組み合わせたビジネスモデルは、まさに時代の要請に応えるソリューションであり、その需要は今後ますます高まっていくと予想されます。

✔内部環境:赤字の裏にある、未来への戦略的投資
今期の▲168万円という赤字は、経営の悪化を示すものではなく、未来の成長に向けた「戦略的投資」の結果と見るのが妥当です。同社は2023年から2024年にかけて、ベトナムハノイ技能実習生を育成するための自社訓練所「ClimaGlobal College」を開設・移転しています。これは、将来の担い手を海外に求め、自社で一から質の高い教育を施すという長期的な人材戦略です。この訓練所の設立・運営費用が、先行投資として今期の損益に影響を与えたと強く推察されます。安定した財務基盤があるからこそ、このような未来への大胆な投資が可能なだと言えます。

✔安定性分析:盤石な財務基盤が成長を支える
自己資本比率46.2%という数値は、同業他社と比較しても非常に高い水準であり、盤石な財務基盤を証明しています。総資産約6.8億円のうち、固定資産が約3.1億円を占めており、これは柏工場やベトナムの訓練所といった事業の根幹をなす資産への投資を示唆しています。設立以来、着実に利益を蓄積してきた結果である約2.4億円の利益剰余金が、今回のような戦略的投資を可能にする原動力となっています。短期的な赤字に動じることなく、長期的な視点で成長戦略を描ける体力があることは、同社の大きな強みです。

 

SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)

・「多能工」育成による圧倒的な生産性と競争優位性。

・工場でのユニット製作による品質の安定化と現場作業の効率化。

鹿島建設グループとしての強力なブランド力、信用力、安定した受注基盤。

ベトナムに自社訓練所を持ち、海外人材を安定的に確保・育成できる仕組み。

弱み (Weaknesses)

・設立から8年と社歴が浅く、事業規模や単独での実績はまだ発展途上。

・質の高い多能工の育成には、相応の時間と教育コストを要する点。

機会 (Opportunities)

・建設業界の「2024年問題」と深刻な人手不足が、同社のビジネスモデルへの需要を喚起。

・建設DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の流れと、プレファブ化への関心の高まり。

・国土強靭化計画や再開発事業など、底堅い国内の建設投資。

脅威 (Threats)

・建設資材価格やエネルギーコストの継続的な高騰。

・国内外の景気後退による、建設投資の冷え込みリスク。

・国内の労働人口の構造的な減少と、熟練技能者のリタイア加速。

 

【今後の戦略として想像すること】
盤石な財務基盤と明確な事業戦略を持つ同社は、今後さらなる飛躍を目指すでしょう。

✔短期的戦略
まずは、育成した多能工が活躍する場を、鹿島グループ内外のプロジェクトで着実に増やし、その有効性を「実績」として積み上げていくことが重要です。成功事例を重ねることで、「クリマ・ワークスに任せれば生産性が上がる」というブランドイメージを確立します。並行して、ベトナムの訓練所を核とした人材育成プログラムをさらに洗練させ、定着率を高めていくでしょう。

✔中長期的戦略
将来的には、この「多能工育成システム」そのものを事業化することも視野に入ってくるかもしれません。つまり、自社で工事を請け負うだけでなく、他の建設会社に対して多能工を派遣したり、その育成ノウハウを提供する教育・コンサルティング事業への展開です。これにより、日本の建設業界全体の生産性向上に貢献するとともに、自社の新たな収益の柱を構築することが可能になります。

 

まとめ
株式会社クリマ・ワークスは、単なる設備工事会社ではありません。それは、建設業界が抱える構造的な課題に対し、「人材育成」という最も根本的で、最も難しいアプローチで未来を切り拓くイノベーション企業です。今期の赤字は、未来の大きな飛躍に向けた助走に過ぎません。健全な財務基盤を土台に、ベトナムでの人材育成という壮大な先行投資を行う同社の姿は、まさに「技術者の可能性を最大限に引き出し『技』を極めより良い未来をつくる」という経営理念を体現しています。業界の常識を変える挑戦は、まだ始まったばかりです。

 

企業情報
企業名: 株式会社クリマ・ワークス
所在地: 東京都中央区銀座六丁目17番1号
代表者: 櫃本 耕二
設立: 2017年4月3日
資本金: 2,500万円
事業内容: 給排水、衛生、空気調和等の設備工事の施工、特殊配管工事の施工、消防施設工事の施工、電気・通信設備システムの施工、及びそれらに関連する部材の設計・販売、建設技能労働者の教育・研修、不動産賃貸業
株主: 株式会社クリマテック (100%)、鹿島建設グループ

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