決算公告データ倉庫

決算公告を自分用に収集し保管している倉庫。あくまで自分用であり、引用する決算公告を除き内容の正確性/真実性を保証できない点はご容赦ください。


#1369 決算分析 : 株式会社生パスタ工房 第20期決算 当期純利益 ▲2百万円

楽天アフィリエイト

多くのファンを魅了する、ゆであげ生パスタ専門店「ポポラマーマ」。その独特の「もちもち食感」と豊かな小麦の風味は、どこで、どのようにして生まれているのでしょうか。その答えは、チェーンの品質と味の根幹を支える、専門の製造工場にあります。今回は、ポポラマーマチェーンに生パスタを供給するため、2006年に設立された「株式会社生パスタ工房」の第20期決算を読み解きます。その決算書に記されていたのは、1,800万円を超える累積損失という意外な事実でした。なぜ、人気チェーンの心臓部とも言える企業が、赤字を抱えているのか。これは、単なる経営不振なのでしょうか。それとも、グループ全体の成功のために、あえて「縁の下の力持ち」に徹する、戦略的な経営の結果なのでしょうか。その財務状況から、BtoBメーカーの宿命と、ブランドを支える覚悟に迫ります。

20250228_20_生パスタ工房決算

決算ハイライト(第20期)

資産合計: 95百万円 (約1.0億円)
負債合計: 14百万円 (約0.1億円)
純資産合計: 82百万円 (約0.8億円)
当期純損失: 2百万円 (約0.0億円)


自己資本比率: 約85.8%
利益剰余金: ▲18百万円 (約▲0.2億円)

 

まず注目すべきは、自己資本比率が約85.8%という、極めて高い財務の健全性です。負債が少なく、経営は安定しているように見えます。しかしその一方で、利益剰余金はマイナス、つまり「累積損失」を抱えている状態です。当期も約200万円の純損失を計上しており、設立以来、継続的に赤字が続いている可能性を示唆しています。この一見矛盾した財務状況にこそ、同社のビジネスモデルの秘密が隠されています。

 

企業概要

社名: 株式会社生パスタ工房
設立: 2006年3月3日
本社所在地: 東京都江戸川区中葛西3-34-9
事業内容: スパゲティ・マカロニ及びパスタ類の製造・販売
関係会社: 株式会社ポポラマーマ、株式会社ニューオークボ

www.namapastakobo.jp

 

【事業構造の徹底解剖】

同社の事業は、その社名の通り「生パスタ」の製造と販売です。そのビジネスは、大きく2つの柱で構成されています。

ポポラマーマチェーンを支える「BtoB(業務用)事業」:
これが同社の事業の根幹です。全国に展開する「ポポラマーマ」の店舗で提供される、あの独特の食感を持つ生パスタは、全てこの工房で製造されています。
・品質への徹底したこだわり

カナダ・アメリカ産の最高級デュラムセモリナ粉を100%使用し、風味を損なわない「無加熱製法」と、13時間以上の冷蔵熟成によって、唯一無二の品質を生み出しています。
ポポラマーマとの一心同体経営

同社は、ポポラマーマチェーンの品質と味を担保する「心臓部」です。その存在なくして、ポポラマーマのビジネスは成り立ちません。

✔家庭の食卓へ届ける「BtoC(市販用)事業」:
業務用で培った高品質な生パスタを、一般消費者向けにも販売しています。百貨店やスーパーマーケットが主な販路であり、オリジナルのパスタソースも手掛けています。

 

【財務状況等から見る経営戦略】

✔累積損失の背景にある「戦略的価格設定」:
ではなぜ、これほど高品質な製品を作り、安定した販売先を持ちながら、赤字が続いているのでしょうか。その最大の理由は、親会社であるポポラマーマとの関係性にあると推測されます。
・グループ全体の利益最大化

飲食チェーンにおいて、原材料費は価格競争力を左右する重要な要素です。ポポラマーマが「おいしい生パスタをリーズナブルに」提供できるのは、製造子会社である生パスタ工房が、利益をあまり上乗せせず、いわば原価に近い価格で製品を卸しているからではないでしょうか。つまり、生パスタ工房は単体での黒字化を至上命題とするのではなく、ポポラマーマチェーン全体の利益を最大化するための、「コストセンター」としての戦略的な役割を担っているのです。これは、連結経営においては、決して珍しくない経営戦略です。

✔安定性分析:
自己資本比率が85.8%と非常に高いのは、設立時にポポラマーマ本体から十分な資本金が出資されたためと考えられます。この厚い自己資本があるからこそ、累積損失を抱えながらも、事業を安定的に継続することが可能です。いわば、親会社が子会社の赤字を、資本という形で補填し続けている構図です。これは、同社がポポラマーマにとって、いかに不可欠な存在であるかを物語っています。

 

SWOT分析で見る事業環境】

強み (Strengths)
ポポラマーマという、安定的かつ長期的な大口販売先を確保していること。
・「無加熱製法」など、他社には真似のできない、高品質な生パスタの製造ノウハウ。
・本場イタリア製のパスタマシーンなど、本格的な製造設備。

弱み (Weaknesses)
ポポラマーマへの売上依存度が極めて高く、同チェーンの業績に経営が左右される。
・累積損失を抱え、単独での収益性が確立できていない財務体質。
・市販用製品における、大手食品メーカーに対するブランド認知度や販売力の差。

機会 (Opportunities)
ポポラマーマが新たな資本業務提携を結んだことによる、今後の店舗数拡大。これにより、生パスタ工房の生産量も増加する可能性。
・内食需要の高まりを受け、高品質な「お取り寄せグルメ」としての、市販用生パスタ・ソースの市場拡大。

脅威 (Threats)
・デュラム小麦など、原材料価格の世界的な高騰による、製造コストの上昇。
・市販用市場における、大手食品メーカーやスーパーのプライベートブランド(PB)との激しい競争。
ポポラマーマの経営方針が変更され、外部からのパスタ調達に切り替えられるリスク。

 

【今後の戦略として想像すること】

この事業環境と、グループ内での役割を踏まえ、生パスタ工房の未来は、ポポラマーマの未来と共にあると言えます。

✔短期的戦略:
まずは、ポポラマーマチェーンの成長を支える「安定供給」という、最大のミッションを確実に遂行し続けることです。ポポラマーマの新規出店に合わせて、生産体制を柔軟に調整していくことが求められます。

✔中長期的戦略:
同社が企業としてさらに成長するためには、ポポラマーマへの依存から一歩踏み出し、「市販用事業」を第二の収益の柱へと育てることが不可欠です。ポポラマーマ本体のブランド力を活用し、例えば「ポポラマーマの味をご家庭で」といったコンセプトで、ECサイトでの直販を強化したり、高級スーパーへの販路を拡大したりすることが考えられます。親会社が新たな資本を得た今、このBtoC事業へのマーケティング投資が、今後の成長の鍵を握るかもしれません。

 

まとめ

株式会社生パスタ工房の決算書は、人気飲食チェーンの裏側で、その味と品質を愚直に支え続ける「職人企業」の姿を映し出しています。単体の決算だけを見れば「赤字企業」ですが、ポポラマーマグループという大きな枠組みで見れば、それはチェーン全体の競争力を生み出すための、計算された「戦略的コストセンター」としての役割です。私たちがポポラマーマで美味しい生パスタを味わうとき、そのもちもちとした食感の向こう側に、大阪・東大阪の工場で日々パスタ作りに励む、この工房の存在を思い出してみてはいかがでしょうか。

 

企業情報
社名: 株式会社生パスタ工房
本社所在地: 東京都江戸川区中葛西3-34-9
工場所在地: 大阪府東大阪市川俣1-11-44
代表者: 代表取締役 安家 俊太
設立: 2006年3月3日
資本金: 8,750万円
事業内容: スパゲティ・マカロニ及びパスタ類の製造・販売
関係会社: 株式会社ポポラマーマ、株式会社ニューオークボ

www.namapastakobo.jp

©Copyright 2018- Kyosei Kiban Inc. All rights reserved.