一見するとクラシックなステンカラーコート、しかしその内側には最先端の防水透湿素材GORE-TEXが潜む。日常に溶け込むベーシックなデザインでありながら、アウトドアウェアの持つ圧倒的な機能性を併せ持つ――。そんな「UTILITY」と「SPORTS」をキーワードに、高感度なファッション好きから絶大な支持を集めるブランドがあります。それが、株式会社ナナミカ(nanamica)です。同社はオリジナルブランド「nanamica」に加え、大人気ライン「THE NORTH FACE Purple Label」の企画・デザインを手掛けるクリエイティブ集団。今回は、その第23期決算で明らかになった驚異的な収益力と、世界を魅了する“時代性のあるスタンダードウエア”を生み出し続ける、そのビジネスの神髄に迫ります。

決算ハイライト(第23期)
資産合計: 7,268百万円 (約72.7億円)
負債合計: 1,721百万円 (約17.2億円)
純資産合計: 5,548百万円 (約55.5億円)
当期純利益: 2,272百万円 (約22.7億円)
自己資本比率: 約76.3%
利益剰余金: 5,488百万円 (約54.9億円)
決算内容で最も衝撃的なのは、その圧倒的な収益性です。当期純利益は約22.7億円という、アパレル業界において驚異的な数値を記録しています。さらに、自己資本比率は約76.3%と極めて高く、負債が少ない、非常に健全で安定した財務基盤を築いていることが分かります。約55億円に達する利益剰余金は、創業以来、同社のクリエイションが市場から強く支持され、着実に利益を積み上げてきたことの何よりの証明です。
企業概要
社名: 株式会社 ナナミカ (nanamica inc.)
設立: 2003年3月
事業内容: 衣類、装飾品の企画、製造、販売
【事業構造の徹底解剖】
ナナミカの成功は、明確なコンセプトを持つ2つの強力なブランドラインと、それを支える唯一無二の企画・開発力によって支えられています。
✔nanamica(オリジナルブランド): 哲学の体現
「七つの海の家」を意味するブランド「nanamica」は、同社の哲学そのものです。海が持つ自由でリラックスしたイメージを大切に、流行とは一線を画した、長く付き合えるスタンダードなアイテムを提案。しかしその内側には、GORE-TEXや光電子®ダウンといった最先端の機能素材が惜しみなく投入されています。この「クラシックな見た目とハイテクな中身」のギャップが、デザインと機能性の両方を求める現代の都市生活者のニーズを完璧に捉えています。
✔THE NORTH FACE Purple Label: 最強のコラボレーション
同社の名を世に知らしめ、事業の大きな柱となっているのが、株式会社ゴールドウインが展開する「THE NORTH FACE」とのコラボレーションライン「THE NORTH FACE Purple Label」です。ナナミカは、このラインの企画・デザインを全面的に手掛けています。THE NORTH FACEが持つアウトドアのヘリテージやアーカイブをベースに、よりファッション性の高い素材に置き換えたり、時代に合わせた洗練されたシルエットに再構築したりすることで、全く新しい価値を持つアウトドアカジュアルウェアを生み出しています。このラインの成功が、ナナミカを単なる一ブランドから、業界全体に影響を与えるクリエイティブ集団へと押し上げました。
✔成功の秘訣: 機能素材への深い知見と応用力
同社のクリエイションの根幹を支えているのが、高機能素材への深い理解と、それをファッションアイテムに昇華させる類まれな編集能力です。
GORE-TEX Fabrics
防水透湿素材の代名詞。ナナミカは、表地にコットンを使ったGORE-TEXを共同開発し、クラシックなコートに完全防水・透湿性という現代的な機能を与えることに成功しました。
光電子®ダウン
人体から出る遠赤外線を活用し、自然で快適な暖かさを生み出す高機能ダウン。
ALPHADRY®
汗を素早く蒸散させ、衣服内を常にドライに保つ素材。シワになりにくくイージーケアな特性を活かし、快適なビジネスセットアップなどを提案。
これらの最先端素材を適材適所で使い分けることで、「格好良いけれど、非常に快適」という、他にない製品価値を創造しています。
【財務状況等から見る経営戦略】
驚異的な収益性と健全な財務は、同社のブランド戦略が的確に市場に受け入れられていることを示しています。
✔外部環境:
近年、「gorpcore(ゴープコア)」と呼ばれる、アウトドアブランドのアイテムを街着としてファッションに取り入れるスタイルが世界的なトレンドとなっています。機能的でありながら、洗練されたデザインを持つナナミカの製品は、まさにこのトレンドのど真ん中に位置しています。また、ファストファッションへの反動から、質の良いものを長く大切に着たいという消費者の価値観の変化も、同社にとって強力な追い風となっています。
✔内部環境:
創業者でありクリエイティブディレクターである本間永一郎氏の卓越したディレクション能力が、企業の競争力の源泉です。ゴールドウイン出身であることから、THE NORTH FACEという世界的ブランドとの強力なパートナーシップと、高機能素材へのアクセスを可能にしています。また、代官山やニューヨークに構える直営店を通じて、ブランドの世界観を直接顧客に伝え、高い利益率を確保するD2C(Direct to Consumer)的なビジネスモデルも成功の要因です。
✔安定性分析:
自己資本比率76.3%という鉄壁の財務基盤は、経営に絶大な自由度をもたらします。アパレル業界にありがちな、金融機関からの借入に依存した自転車操業とは無縁であり、短期的な売上動向に一喜一憂することなく、腰を据えたモノづくりとブランド育成に集中できます。約22.7億円という莫大な当期純利益は、さらなる素材開発や、ニューヨーク出店のようなグローバルなブランド価値向上への投資を、自己資金で余裕をもって行えるだけの体力を示しています。
【SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・「UTILITY」と「SPORTS」を融合させた、唯一無二の製品コンセプトと高いデザイン性。
・「nanamica」と「THE NORTH FACE Purple Label」という、強力な二つのブランドポートフォリオ。
・GORE-TEXなど高機能素材に関する深い知見と、それを活かした製品開発力。
・ゴールドウインとの強固なパートナーシップ。
・当期純利益22.7億円、自己資本比率76.3%という、圧倒的な収益性と財務健全性。
弱み (Weaknesses)
・クリエイティブの多くを創業者に依存している可能性。
・THE NORTH FACEとのコラボレーション事業への依存度が高い側面。
・製品が高価格帯であり、ターゲットとなる顧客層が限定される。
機会 (Opportunities)
・世界的な「ゴープコア」「アーバンアウトドア」トレンドの継続と拡大。
・サステナビリティ意識の高まりによる、長く使える高品質な製品への需要増。
・Eコマースを活用した、さらなるグローバル市場の開拓(特に欧州・アジア)。
・フットウェアやバッグ、アクセサリーなど、新たな製品カテゴリーへの展開。
脅威 (Threats)
・ファストファッションブランドなどによる、デザインやコンセプトの模倣。
・トレンドの終焉による、市場の縮小リスク。
・為替の変動や、原材料・生産コストの高騰。
・THE NORTH FACEとのライセンス契約に関する変更リスク。
【今後の戦略として想像すること】
盤石な基盤を持つナナミカは、そのクリエイティビティを武器に、さらなる飛躍を目指していくでしょう。
✔短期的戦略:
ブランドの根幹である、素材を起点とした製品開発をさらに追求していくでしょう。環境配慮型の新素材の採用や、既存の高機能素材の新たな活用法を提案することで、ブランドの先進性を維持し続けます。また、国内外の直営店とオンラインストアを連携させ、顧客体験を向上させることで、ファンとのエンゲージメントをより一層深めていくことが考えられます。
✔中長期的戦略:
その潤沢な資金力を背景に、より積極的なグローバル展開を進めていく可能性があります。ニューヨークに続き、ロンドンやパリ、上海といった世界の主要都市へのフラッグシップストア出店も視野に入ってくるでしょう。また、長年培ってきたブランド運営と製品開発のノウハウを活かし、新たなブランドの立ち上げや、親和性の高いブランドのM&Aといった、事業ポートフォリオを拡大する戦略も、選択肢として十分に考えられます。
まとめ
株式会社ナナミカは、単なるアパレルブランドではありません。それは、アウトドアの機能性と都市の洗練さを完璧なバランスで融合させ、「本当に良いものを長く使いたい」という現代人の欲求を満たす、唯一無二のクリエイティブ集団です。その圧倒的な収益力と財務健全性は、同社のクリエイションが世界中の顧客から熱狂的に支持されていることの紛れもない証拠です。「One Ocean, All Lands(海は一つで、世界はつながっている)」という言葉を胸に、これからもナナミカは、国境を越え、機能美を追求した“時代性のあるスタンダードウエア”を世界に発信し続けていくに違いありません。
企業情報
企業名: 株式会社 ナナミカ (nanamica inc.)
所在地: 東京都渋谷区鶯谷町12-8
代表者: 代表取締役 野村 剛司
設立: 2003年3月
資本金: 6,000万円
事業内容: 衣類、装飾品の企画、製造、販売