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#1093 決算分析 : 株式会社one building 第4期決算 当期純利益 ▲8百万円

株式会社one buildingは、建築業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)と脱炭素化という2つの巨大なテーマに正面から挑む気鋭のスタートアップです。BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)を軸としたSaaSプラットフォーム「BIM sustaina」を提供し、建物の省エネ設計から維持管理、サプライチェーンまでを繋ぐことで、サステナブルな社会の実現を目指しています。


株式会社one buildingの第4期(令和7年3月31日現在)の決算公告が、令和7年5月30日付の官報に掲載されましたので、その概要と事業の展望について分析します。

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第4期 決算のポイント(単位:百万円)
資産合計: 176百万円 (約1.8億円)

負債合計: 31百万円 (約0.3億円)

純資産合計: 145百万円 (約1.5億円)

当期純損失: 8百万円 (約0.1億円)

 

今回の決算では、当期純損失として8百万円(約0.1億円)が計上されました。資産合計は約1.8億円、負債合計は約0.3億円、そして純資産合計は約1.5億円となっています。

特筆すべきは、財務諸表の構成です。利益剰余金は201百万円(約2.0億円)のマイナスであり、これだけを見ると株主資本は債務超過の状態です。しかし、純資産の部にはそれを大きく上回る345百万円(約3.5億円)の新株予約権が計上されています。これは、ベンチャーキャピタルなどの投資家から将来の成長に対する強い期待を寄せられ、追加の資金調達(増資)が予定されていることを示唆するものです。赤字は事業の成長に向けた先行投資の結果であり、それを補って余りある期待が財務諸表に表れている、典型的な成長フェーズのスタートアップの姿と言えます。

 

事業内容と今後の展望(考察)

【事業内容の概要】
one buildingは「テクノロジーで世界の建物情報を整理し、建物を100年健康で省エネに」というミッションを掲げ、建築業界が抱える課題を解決するためのクラウド型プラットフォーム「BIM sustaina」を開発・提供しています。

省エネ・ZEB設計支援SaaS「BIM sustaina for Energy」:
同社の中核サービスです。設計事務所やゼネコンを対象に、BIMデータを活用して設計の初期段階からリアルタイムで省エネ性能(熱負荷やBEI/BPIなど)をシミュレーション・可視化します。これにより、2025年4月から全面義務化された省エネ基準適合判定の申請業務を劇的に効率化し、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の実現を強力に後押しします。

サプライチェーンDXプラットフォーム:
建材メーカーや物流業者をターゲットとし、BIMデータベースをサプライチェーン全体で共有する協業プラットフォームを目指しています。これにより、各企業の業務効率化はもちろん、サプライチェーン全体での間接的な温室効果ガス排出量(Scope3)の削減に貢献します。

建物維持管理支援プラットフォーム:
不動産オーナーやプロパティマネジメント会社向けに、長期修繕計画やライフサイクルコストの策定、収支計画の見える化を支援します。IoT技術も活用し、建物の資産価値を長期にわたって維持・向上させることを目的としています。

 

【財務状況と今後の展望・課題】
第4期決算における純損失は、設立4年目のスタートアップとして、革新的なプラットフォーム開発に全力を注いでいる証左と捉えるべきでしょう。貸借対照表に計上された137百万円(約1.4億円)の固定資産の大部分は、SaaSの根幹であるソフトウェア資産への投資と考えられ、同社が技術開発に集中的にリソースを投下していることがうかがえます。

この戦略的な先行投資を支えているのが、前述した3.5億円の新株予約権の存在です。これは、同社のビジョンと技術力が投資家から高く評価されていることを意味します。特に、同社の事業は以下の点で極めて強力な追い風を受けています。

法改正による市場の創出:

2025年4月からの「省エネ基準適合義務化」は、これまで努力目標であった省エネ設計を「必須業務」へと変えました。これにより、「BIM sustaina for Energy」は設計者にとって不可欠なツールとなり、市場が半ば強制的に立ち上がった状況です。

明確な社会課題解決モデル:

建築分野は世界のCO2排出量の約4割を占めており、脱炭素化は待ったなしの課題です。one buildingの事業は、この世界的な課題解決に直接貢献するため、社会的意義が非常に大きいビジネスと言えます。

業界の変革を目指すプラットフォーム戦略:

設計、サプライチェーン、維持管理といった、これまで分断されがちだった建築のバリューチェーンをBIMという共通言語で繋ぐプラットフォーム構想は、実現すれば業界全体の生産性を飛躍的に向上させるポテンシャルを秘めています。

 

今後の課題は、この大きな期待と先行投資を、いかにして持続的な収益へと繋げていくかという点にあります。具体的には、無料プランから有料プランへの転換率を高め、安定した月額課金収入(MRR)を積み上げていくことが最優先となります。また、設計者向けのサービスだけでなく、建材メーカーや不動産オーナー向けのサービスも本格的に展開し、プラットフォームとしてのネットワーク効果を早期に確立することが、競争優位性を築く上で重要です。

 

今後のマイルストーンとしては、まず新株予約権の行使による大規模な資金調達の実行が挙げられます。これにより得られた資金で、さらなる開発体制の強化とマーケティング活動を加速させることが予想されます。そして、有料課金ユーザー数や大手ゼネコン・設計事務所との提携実績といった具体的な事業指標の伸長が、企業価値をさらに高めていくでしょう。

 

one buildingは、単なるソフトウェア開発企業ではありません。BIMとテクノロジーを武器に、非効率で環境負荷が高いという建築業界の旧来のイメージを覆し、サステナブルで生産性の高い産業へと変革する「ゲームチェンジャー」となる可能性を秘めています。その挑戦と成長から、目が離せません。

 

企業情報
企業名: 株式会社one building

所在地: 東京都目黒区下目黒一丁目8-1 アルコタワー7階

代表者: 桑島 準也

事業内容: BIMを軸とした建築×IT×ビッグデータの融合により、建物の脱炭素化とDXを推進するSaaSプラットフォーム「BIM sustaina」を開発・提供。

one-building.co.jp

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