決算公告データ倉庫

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#1084 株式会社松竹撮影所 第17期決算 当期純利益 ▲102百万円

100年以上にわたり日本の映像文化を牽引し、数多の名作を世に送り出してきた日本映画の殿堂、株式会社松竹撮影所。同社の第17期(令和7年2月期)決算公告が、令和7年5月30日付の官報に掲載されました。本記事では、その決算内容を深く読み解きながら、映像業界が変革期にある中で、この伝統あるスタジオがどのような未来を描こうとしているのか、その挑戦と課題について考察します。

20250228_17_松竹撮影所決算

第17期 決算のポイント(単位:百万円)
資産合計: 2,054百万円 (約20.5億円)

負債合計: 3,272百万円 (約32.7億円)

純資産合計: ▲1,219百万円 (約▲12.2億円)

当期純損失: 102百万円 (約1.0億円)

 

今回の決算では、当期純損失として102百万円が計上され、純資産は▲1,219百万円の債務超過の状態となっています。資産合計が約20.5億円であるのに対し、負債合計が約32.7億円と上回っており、特に流動負債が約26.3億円と大きな割合を占めています。これは、映画制作など先行投資が必要なプロジェクトの進行に伴う未払金や、短期的な借入金などが影響している可能性があります。

利益剰余金も▲1,319百万円となっており、厳しい財務状況であることがうかがえます。しかし、これは単に経営不振と結論付けられるものではありません。映画制作事業は、企画開発から公開・収益回収までに数年を要する息の長いビジネスであり、特定の期に大型プロジェクトへの投資が集中すれば、一時的に財務指標が悪化することは起こり得ます。重要なのは、この先行投資が将来どれだけのヒット作を生み出し、収益となって帰ってくるかです。松竹グループの中核企業として、グループ全体の強力なバックアップ体制があることも考慮に入れる必要があります。

事業内容と今後の展望(考察)


【事業内容の概要】
株式会社松竹撮影所は、単なるレンタルスタジオではありません。スタジオ機能とプロダクション機能を両輪とし、日本の映像制作を根底から支える総合企業です。

映像制作の二大拠点(京都・東京):

✔京都撮影所

「時代劇の聖地」として、その名は世界に轟きます。『ラストサムライ』のような海外大作も頼る、リアルな江戸時代のオープンセットや、時代考証のノウハウが凝縮された美術・装飾・衣裳部門は、まさに国宝級の資産です。『鬼平犯科帳』『必殺』シリーズといった伝説的な作品群は、ここで生まれました。

✔東京スタジオ

山田洋次監督作品に代表される現代劇の制作拠点。『男はつらいよ』から『事故物件 怖い間取り』まで、時代を映す多様な作品を生み出す企画開発プロダクションでもあります。

✔ワンストップの総合力

企画、脚本開発、美術、撮影、録音、編集、そして完成まで。映像制作に必要なすべてがここに揃っており、国内外のクリエイターにとって頼れるパートナーとなっています。

伝統を未来につなぐ多角化事業:

イベント事業・美術監修: 撮影で培った本物の技術を活かし、殺陣ショーの企画や、「泊まれる時代劇」をコンセプトにした旅館の美術監修、お化け屋敷の制作協力など、映像の枠を超えた事業を展開しています。

松竹アクターズスクール:

時代劇に特化した俳優養成所を京都で開校。熟練の技術を次世代に継承する重要な役割を担っています。

 

【財務状況と今後の展望・課題】
第17期決算における債務超過という結果は、映像コンテンツ制作という事業の特性を色濃く反映しています。映画やドラマは、企画開発から制作、ポストプロダクション、宣伝と、収益化までに莫大な先行投資と長い時間を要します。特に、こだわりのある大作を手掛けるほど、その費用は膨らみます。今回の損失は、将来のヒットを見据えた大型プロジェクトへの戦略的投資の結果と捉えることができます。例えば、『決算!忠臣蔵』や『キネマの神様』のような作品の制作費や、Netflixなど世界的な配信プラットフォーム向けの大型時代劇シリーズへの投資などが、この時期に費用として計上された可能性があります。

この厳しい財務状況を乗り越え、持続的な成長を遂げるための鍵は、以下の点にあると考えられます。

✔グローバル・コンテンツの創出

今や日本の「時代劇(JIDAIGEKI)」は、世界が注目するキラーコンテンツです。海外作品のロケ誘致や制作協力に留まらず、松竹撮影所が主導して、世界市場をターゲットにした壮大なスケールの時代劇ドラマや映画を企画・制作していくことが、収益構造を抜本的に変える起爆剤となり得ます。豊富な制作ノウハウと、京都・太秦という唯一無二のロケーションは、世界中の配信プラットフォームにとって極めて魅力的です。

保有資産の価値最大化

京都撮影所のオープンセットやスタジオは、単なる撮影施設ではなく、それ自体が強力な集客力を持つ「コンテンツ」です。インバウンド観光の回復を追い風に、撮影所をテーマパーク化する、あるいはファン向けの体験型イベントを常時開催するなど、「コト消費」の需要を積極的に取り込むことで、安定した収益源を確立することが急務です。

✔制作プロセスのDX推進

伝統的な職人技を尊重しつつも、VFXやバーチャルプロダクションといった最新技術を導入し、制作の効率化とコスト削減を図る必要があります。これにより、限られた予算の中でも、よりクオリティの高い映像表現を追求することが可能になります。

もちろん、最大の課題は、現在の財務状況を改善し、黒字化への道筋を明確に示すことです。そのためには、先行投資したプロジェクトを着実にヒットさせ、収益を回収することが絶対条件となります。同時に、コスト管理を徹底し、経営の効率化を図ることも不可欠です。

 

株式会社松竹撮影所は、日本の映画産業の歴史そのものであり、その文化的な価値は計り知れません。今回の決算は、伝統ある巨人が、グローバルなコンテンツ戦争という新たな時代に適応するための、いわば「産みの苦しみ」の現れと言えるかもしれません。この戦略的投資期間を経て、日本が世界に誇る映像文化の砦として、再び力強く飛翔できるか。その手腕と創造力に、今、大きな注目が集まっています。

 

企業情報
企業名: 株式会社松竹撮影所

所在地:

京都撮影所: 京都府京都市右京区太秦堀ケ内町12-9

東京スタジオ: 東京都中央区築地4丁目1番1号東劇ビル3階

代表者: 代表取締役社長 山下 良則

事業内容: 映画・テレビドラマの企画制作を主軸に、スタジオ・オープンセットのレンタル、ロケーションコーディネート、美術装飾プロデュース、イベント事業、俳優養成所の運営など、映像コンテンツに関わる多角的な事業を展開している。

www.shochiku-ks.com