世界のHondaの生産活動と研究開発。その最前線を、物流、輸送、そして技術サポートという多角的なサービスで支える縁の下の力持ち、株式会社ベストロジ栃木。Hondaの物流を担う株式会社ホンダロジスティクスと、研究開発をサポートする株式会社ホンダテクノフォートの子会社である同社の第22期(2025年3月期)決算が、2025年6月16日付の官報に掲載されました。Hondaグループの心臓部である栃木の地で、その活動に不可欠なサービスを提供する同社の驚異的な財務基盤と、事業の核心に迫ります。

第22期 決算のポイント(単位:百万円)
資産合計: 1,657百万円 (約16.6億円)
負債合計: 220百万円 (約2.2億円)
純資産合計: 1,437百万円 (約14.4億円)
当期純利益: 61百万円 (約0.6億円)
今回の決算では、当期純利益として61百万円(約0.6億円)を計上し、安定した収益力を示しています。特筆すべきは、その傑出して健全な財務基盤です。総資産約16.6億円に対し、純資産が約14.4億円、自己資本比率は驚異の86.7%に達しています。これは実質的な無借金経営であり、盤石の経営基盤を誇っていることの証左です。
さらに驚くべきは、資本金2,000万円に対し、利益剰余金が1,417百万円(約14.2億円)と、資本金の70倍以上にも積み上がっている点です。2003年の設立以来、Hondaグループの重要なパートナーとして着実な黒字経営を継続し、厚い内部留保を築き上げてきた歴史がうかがえます。
事業内容と今後の展望(考察)
【事業内容の概要】
株式会社ベストロジ栃木は、社名に「ロジ(物流)」とあるものの、その事業は単なる物流にとどまりません。Hondaグループの研究開発から生産に至るまでの、あらゆる活動を円滑に進めるための、多岐にわたるサポートサービスを提供しています。
研究開発サポート事業:
同社の事業の大きな柱の一つが、本田技術研究所など、Hondaの研究開発部門を支えることです。新型車や研究開発用の試作車両の製作、新型タイヤの開発テスト、耐久走行データの解析など、Hondaの未来を創るためのR&D活動に、専門的な技術力で深く関与しています。これは、高度な機密保持能力と、Hondaの求める品質基準に応える技術力がなければ成り立たない、信頼の証ともいえる事業です。
輸送・物流業務:
もう一つの柱が、輸送・物流サービスです。
特定旅客自動車運送事業: 本田技術研究所や関連企業への出張者・従業員を対象としたバス送迎や、広大なテストコース(プルービンググラウンド)内の循環バスの運行などを担っています。従業員の円滑な移動を支え、開発業務の効率化に貢献しています。
貨物運送・倉庫業: 海外へ発送される部品の仕分け・梱包・コンテナバンニングや、サプライヤーから納入される部品の検品・保管・出荷管理など、Hondaのグローバルな生産活動に不可欠なロジスティクス業務を担っています。
労働者派遣事業:
これらの専門的な業務を支えるため、顧客のニーズに応じて適切なスキルを持つ人材を派遣する、労働者派遣事業も行っています。
【財務状況と今後の展望・課題】
86.7%という驚異的な自己資本比率が示す通り、同社の経営は極めて安定しています。その収益の源泉は、言うまでもなく、Hondaグループからの安定した業務委託です。親会社であるホンダロジスティクスやホンダテクノフォートを通じて、Hondaの事業活動に不可欠なサービスを提供することで、景気の波に左右されにくい、強固な収益基盤を確立しています。14億円を超える巨額の利益剰余金は、同社が特定の分野に特化した高収益な事業を展開し、得られた利益を堅実に蓄積してきた結果です。
この「Hondaグループの研究開発と生産に深くコミットした、代替不可能なパートナー」という独自のポジションこそが、ベストロジ栃木の最大の強みです。
しかし、その強みは、裏を返せば「親会社への高い依存度」という課題も内包しています。同社の事業の大部分は、Hondaグループの動向に左右されます。例えば、Hondaの研究開発拠点の再編や、生産体制の大きな変更、あるいはサポート業務の内製化といった方針転換があれば、同社の事業に直接的な影響が及ぶ可能性があります。
また、「専門人材の確保と育成」も重要な課題です。試作車両の製作や開発テストのサポートといった業務には、高度な技術と経験を持つ専門人材が不可欠です。自動車業界がEV化や自動運転といった「100年に一度の大変革期」にある中で、こうした新しい技術領域に対応できる人材をいかに確保し、育てていくかが、企業の未来を左右します。
今後の展望として、ベストロジ栃木は、Hondaグループの変革と共に、自らのサービスを進化させていくことになるでしょう。
短期的には、現在の研究開発サポートや輸送業務において、さらなる効率化と品質向上を追求し、親会社からの信頼をより強固なものにしていくことが求められます。
中長期的には、Hondaが注力する電動化や知能化といった新領域で、新たなサポートニーズが生まれてくるはずです。例えば、EVのバッテリーに関する評価テストのサポートや、自動運転技術の開発に必要なデータ計測・解析業務など、同社の技術力が活かせる新たな事業領域が広がっていく可能性があります。北海道・鷹栖町に営業所を構えているのは、Hondaの寒冷地テストコースでの業務に対応するためであり、こうした専門性の高い領域での役割は今後ますます重要になるでしょう。
「真心のこもったサービスで信頼と信用を築き、何事にも果敢にチャレンジし、機敏に行動する」。その社是を、ベストロジ栃木は、Hondaの最も身近なパートナーとして、日々の業務を通じて体現しています。その揺るぎない財務基盤と専門技術を武器に、これからも日本の、そして世界のHondaの挑戦を、栃木の地から支え続けていくことでしょう。
企業情報
企業名: 株式会社 ベストロジ栃木
代表者: 代表取締役社長 田中 健司
事業内容: 株式会社ホンダロジスティクスおよび株式会社ホンダテクノフォートの子会社として、Hondaグループの研究開発サポートと輸送・物流サービスを主軸に事業を展開。試作車両製作、開発テスト、従業員送迎バス運行、部品の梱包・管理など、多岐にわたるサービスを提供する。