「プロダクトの力で 行動を変え 社会を変える」。この壮大なミッションを掲げ、行政のDX(GovTech)と企業のAI活用という、現代日本の二大課題に挑むスタートアップ、株式会社グラファー。小説家から起業家へという異色の経歴を持つ石井大地氏が率いる同社の第8期(2025年2月期)決算が、2025年6月16日付の官報に掲載されました。先行投資を続けながらも、社会課題解決の最前線を突き進む同社の経営状況と、その事業戦略の核心に迫ります。 ![]()

第8期 決算のポイント(単位:百万円)
資産合計: 1,920百万円 (約19.2億円)
負債合計: 982百万円 (約9.8億円)
純資産合計: 938百万円 (約9.4億円)
当期純損失: 239百万円 (約2.4億円)
今回の決算では、当期純損失として239百万円(約2.4億円)が計上されました。これは、同社が急成長を続けるために、プロダクト開発や人材採用、マーケティングへ積極的に先行投資を行っている結果と捉えるべきでしょう。
注目すべきは、純資産の部です。利益剰余金は▲625百万円(約▲6.3億円)のマイナス(累積損失)となっていますが、資本剰余金が1,496百万円(約15.0億円)と巨額に積み上がっています。これは、インキュベイトファンドやCoral Capital、TOPPANホールディングスといった有力なベンチャーキャピタルや事業会社から、大型の資金調達を成功させてきた証左です。この潤沢な資金力を武器に、赤字を許容しながら未来の成長に向けた投資を続けている、スタートアップの典型的な財務戦略が見て取れます。
事業内容と今後の展望(考察)
【事業内容の概要】
株式会社グラファーは、特定の事業領域を定めず、「社会課題を探索し、プロダクトの力で解決する」ことを哲学とする、極めてユニークな企業です。現在、その挑戦は大きく分けて2つの領域で展開されています。
GovTech事業(行政DXプラットフォーム):
同社の祖業であり、急成長を牽引してきたのが、行政サービスのデジタル変革プラットフォーム「Graffer Platform」です。
1.Graffer スマート申請
住民票の写しなど、あらゆる行政手続きをスマートフォンで完結させるサービス。
2.Graffer 手続きガイド
質問に答えるだけで、自分に必要な手続きがわかるオンライン案内サービス。
3.Graffer Call
AIを活用し、役所への電話応対を自動化・効率化するサービス。
これらのプロダクトは、全国200以上の自治体に導入され、4,000万人以上の住民を対象にサービスを提供するなど、日本のGovTech領域でトップクラスの実績を誇ります。
Enterprise事業(企業の生成AI活用支援):
GovTech事業で培ったノウハウを活かし、近年新たに注力しているのが、企業の生成AI活用を支援する「Graffer AI Solution」です。
Graffer AI Studio: 高度なセキュリティ環境で利用できる、企業向けの生成AIチャットサービス。
伴走支援・研修: AI導入のコンサルティングから、社内での活用を促進するための研修までを提供。
カスタム業務アプリ開発:
生成AIを組み込んだ、企業ごとの特定の業務に特化したアプリケーションを開発。東急ストアやミスターマックスといった大手小売業をはじめ、多くの企業が導入を進めており、同社の新たな成長エンジンとなっています。
【財務状況と今後の展望・課題】
第8期決算における2.4億円の純損失は、成長を加速させるための戦略的な投資の結果です。特に、GovTechやエンタープライズAIといった領域でトップを走るためには、優秀なエンジニアやビジネス人材の確保が不可欠であり、人件費が大きな先行投資となります。有力VCや事業会社から15億円以上の資金を調達できている事実は、同社のビジョンと実行能力が、投資家から高く評価されていることを示しています。
この「行政と企業のDXという、巨大かつ解決が急務な市場」に、「プロダクト主導で切り込む開発力」こそが、グラファーの最大の強みです。創業チームに行政領域の経験者がいなかったにもかかわらず、GovTechでトップランナーになれたのは、徹底したユーザー視点と、それを実現する高い技術力があったからに他なりません。
しかし、その挑戦には、スタートアップ特有の課題も存在します。
第一に、「収益化と持続可能な成長モデルの確立」です。現在は、調達した資金を元手に事業を拡大するフェーズですが、将来的には、安定した黒字を生み出すビジネスモデルを確立し、外部からの資金調達に依存しない、自己成長サイクルに入っていく必要があります。
第二に、「巨大企業との競争と差別化」です。GovTechやエンタープライズAIの市場は、将来性が高いがゆえに、ITの巨人たちも本格的に参入してきています。その中で、スタートアップならではのスピードと、特定の課題に深くフォーカスしたプロダクトの力で、いかに差別化を図り続けるかが問われます。
今後の展望として、グラファーは、この二大事業をさらに力強く推進していくでしょう。
GovTech事業では、導入自治体数をさらに増やし、プラットフォーム上で提供するサービスを拡充していくことで、日本の行政インフラとしての地位を不動のものにしていくことが期待されます。
Enterprise事業では、先行導入企業の成功事例をテコに、より多くの業界・企業への展開を加速させていくでしょう。特に、「カスタム業務アプリ開発」は、企業の生産性を劇的に向上させるポテンシャルを秘めており、大きな成長分野となる可能性があります。
「プロダクトの力で 行動を変え 社会を変える」。そのミッションは、決して平坦な道ではありません。しかし、グラファーは、行政サービスの煩雑さや、企業の生産性の停滞といった、多くの人が「仕方ない」と諦めていた課題に、テクノロジーで光を当てています。この先行投資期間を乗り越え、彼らが描く未来が実現したとき、私たちの社会は今よりもずっと自由で、豊かなものになっているはずです。その挑戦から、今後も目が離せません。
企業情報
企業名: 株式会社グラファー
本社所在地: 東京都渋谷区千駄ケ谷1丁目5番8号 ジュニアー千駄ヶ谷ビル2F
代表者: 代表取締役 石井 大地
事業内容: 「プロダクトの力で社会を変える」をミッションに、行政のDXを推進するGovTech事業(「Graffer Platform」)と、企業の生成AI活用を支援するEnterprise事業(「Graffer AI Solution」)の二つを主力事業として展開するスタートアップ企業。