京都の食文化を、その流通の根幹から支え続けてきた巨人、京都青果合同株式会社。1927年(昭和2年)に日本で最初に開設された京都市中央卸売市場と共に歩み、京野菜の伝統を守り育てる同社の第87期(2025年3月期)決算が、2025年6月10日付の官報に掲載されました。その驚異的な財務基盤と、伝統と革新を両立させる事業戦略の核心に迫ります。 ![]()

第87期 決算のポイント(単位:百万円)
資産合計: 16,729百万円 (約167.3億円)
負債合計: 2,356百万円 (約23.6億円)
純資産合計: 14,374百万円 (約143.7億円)
当期純利益: 416百万円 (約4.2億円)
今回の決算で特筆すべきは、その圧倒的な財務健全性です。総資産約167.3億円に対し、純資産が約143.7億円、自己資本比率は驚異の85.9%に達します。これは実質的な無借金経営であり、揺るぎない経営基盤を誇っています。
さらに驚くべきは、資本金1億円に対し、利益剰余金が14,229百万円(約142.3億円)と、資本金の142倍以上にも積み上がっている点です。これは、70年以上の長きにわたり、京都の青果流通のリーダーとして安定的に高い収益を上げ続け、それを着実に内部に蓄積してきた歴史の賜物です。この財務力が、同社の信用力の源泉であり、次なる一手への原動力となっています。
事業内容と今後の展望(考察)
【事業内容の概要】
京果 京都青果合同は、単なる青果物の卸売会社ではありません。「食の総合物流サービス企業」を目指し、生産から消費までのサプライチェーン全体に深く関与する、多機能な企業体です。
青果卸売事業(京の台所):
事業の根幹は、日本初の中央卸売市場である京都市中央卸売市場の中心的荷受会社として、全国そして世界から青果物を集荷し、仲卸業者や小売業者に供給することです。732億円(令和6年度実績)という年商が、その圧倒的な取扱規模を物語っています。
京野菜の守護者・伝道師:
同社の事業で特筆すべきは、「京野菜」への深いコミットメントです。創業以来「地場の野菜を大事にすること」を頑なに守り、消えゆく品種の復活やブランド化を支援。生産者と消費者を繋ぐ「京野菜を育てる会」の事務局を担うなど、京都の貴重な食文化の継承者として、極めて重要な役割を果たしています。
先進的な物流インフラとグループ戦略:
多様化するニーズに応えるため、先進的なインフラ投資を積極的に行っています。市場内に開設した「京都青果センター」や、宇治市の「京果南部物流センター」は、コールドチェーンに対応した最新鋭の物流拠点です。さらに、冷凍食品を扱う(株)京果食品、輸出入を担う(株)ローヤル、地方市場を運営する滋賀びわ湖青果(株)など、専門性の高いグループ会社を多数擁し、グループ全体で食のあらゆるニーズに応える体制を構築しています。
未来への投資(食育・農育):
平成15年から、主に小学生を対象とした「食育」「農育」活動に継続して取り組んでいます。これは、単なる社会貢献活動(CSR)にとどまらず、次世代の消費者に食と農業の大切さを伝え、未来の市場を創造するという、長期的な視点に立った極めて戦略的な投資です。
【財務状況と今後の展望・課題】
85.9%という驚異的な自己資本比率と、140億円を超える利益剰余金は、同社がいかに安定し、収益性の高い事業を長年続けてきたかを物語っています。この財務力は、卸売市場という公共性の高い事業を担う上での絶対的な信用につながると同時に、新たな挑戦を可能にする「エンジン」でもあります。例えば、京都青果センターのような大規模な物流拠点への投資も、この潤沢な自己資金があればこそ、迅速かつ大胆に実行できるのです。
この「盤石の財務基盤を背景とした、伝統の継承と革新への投資」こそが、京果の最大の強みです。
しかし、この伝統ある巨人にも、避けては通れない課題が存在します。
第一に、「生産者の高齢化と後継者不足」です。特に、手間暇のかかる伝統的な京野菜の生産者をいかに確保し、育てていくかは、同社の存在意義そのものに関わる重要課題です。
第二に、「流通チャネルの多様化」との競争です。卸売市場を介さない産直ECなどが拡大する中、「市場を通す価値」を常に問い直し、高めていく必要があります。情報の集約機能、価格の安定化機能、そして物流の効率化といった、市場が持つ本源的な価値を、テクノロジーを活用してさらに強化していくことが求められます。
今後の展望として、京果は「食の総合物流サービス企業」への進化をさらに加速させていくでしょう。短期的には、既存の物流拠点の機能を最大限に活用し、川上(生産)から川下(消費)まで、より付加価値の高いサービスを提供していくことが考えられます。例えば、仲卸業者や小売店に対し、単に商品を供給するだけでなく、販売データに基づいた品揃えの提案や、加工・パッケージングといったバックヤード機能の代行などを強化していく可能性があります。
そして、中長期的には、同社が持つ「京野菜」という唯一無二のブランドと、食育活動で築いたネットワークを活かした、新たな事業展開も期待されます。例えば、海外の富裕層向けに最高品質の京野菜を輸出する事業や、食育と観光を組み合わせた体験型プログラムの開発など、その可能性は無限に広がっています。
「個々の精神と肉体の調和」。この社是が示すように、京果は単なる経済合理性だけではない、人と人との「和」を大切にしてきた企業です。その揺るぎない哲学と財務基盤がある限り、京果はこれからも京都の、そして日本の食文化を豊かに彩り続けることでしょう。
企業情報
企業名: 京果 京都青果合同株式会社
本社所在地: 京都市下京区朱雀分木町市有地 京都市中央卸売市場第一市場内
代表者: 代表取締役社長 内田 隆
事業内容: 日本初の中央卸売市場である京都市中央卸売市場の中心的荷受会社として、青果物の卸売事業を展開。京野菜のブランド維持・継承に注力するほか、先進的な物流センターの運営やグループ会社との連携により、「食の総合物流サービス企業」を目指している。