決算公告データ倉庫

決算公告を自分用に収集・コメントし保管する倉庫。あくまで自分用であり、引用する決算公告を除き内容の正確性/真実性を保証できない点はご容赦ください。

#965 決算分析 : 阿部興業株式会社 第80期決算 当期純利益 519百万円

1945年の創業以来、80年にわたり「木」の持つ可能性を追求し、社寺仏閣の伝統的な和建具から、麻布台ヒルズのような最先端の超高層ビルに至るまで、あらゆる建築空間に「本物」の木製ドア・建具を届け続けてきた、阿部興業株式会社。その記念すべき第80期(令和7年3月31日現在)の決算公告が、2025年5月30日付の官報に掲載されました。日本の建築文化を支え続ける老舗企業の、揺るぎない経営基盤と、未来に向けた新たな挑戦について考察します。 

20250331_80_阿部興業決算

第80期 決算のポイント(単位:百万円)
資産合計: 8,345 (約83.5億円)
負債合計: 4,562 (約45.6億円)
純資産合計: 3,783 (約37.8億円)
当期純利益: 519 (約5.2億円)


今回の決算では、当期純利益として519百万円という非常に高い利益を計上しました。利益剰余金も約36.0億円と極めて潤沢に積み上がっており、自己資本比率も約45.3%と健全な水準を維持しています。これは、同社が高付加価値なオーダーメイド製品を主力とし、安定した収益力を確立していることの証です。80年の長きにわたり、堅実な経営を続けてきた歴史の重みがうかがえます。

 

事業内容と今後の展望(考察)

【事業内容の概要】
阿部興業株式会社は、単なる建具メーカーではありません。顧客のビジョンを「木」という素材で具現化する、企画・設計から製造、施工までを一貫して手掛ける**「木製ドア・建具・造作家具のトータルサプライヤー」**です。その事業は、日本のあらゆる建築シーンを網羅しています。

 

フルカスタマイズ対応:

同社の真骨頂は、規格品に留まらない、顧客一人ひとりの要望に応えるフルオーダーメイドの対応力にあります。デザイン、素材、色合いはもちろん、防火、防音、気密、断熱といった機能性まで、あらゆる要求を高いレベルで実現します。


4つの専門事業領域:
・おもてなし空間

ホテル、レジデンス、オフィスなど、上質な空間を演出。

・思いやり空間

高齢者施設向けに、安全性と温かみを両立した製品を提供。
・まなび空間

学校など文教施設向けに、子どもたちを見守る優しい環境を創造。
・くらし空間

戸建住宅や店舗向けに、夢をかたちにするオーダーメイド製品を提供。


グローバルな供給体制:

国内の協力工場ネットワークに加え、インドネシアにも自社工場を持ち、国内外の多様なニーズに柔軟に対応できる生産体制を構築しています。


【財務状況と今後の展望・課題】
第80期決算で示された高い収益性と、約36億円という潤沢な利益剰余金は、同社のビジネスモデルの優位性を物語っています。特に、近年の実績として**「麻布台ヒルズ」**や、都内の大型超高級レジデンス約1000戸への全面的な製品納入を成功させている点は、同社の技術力とプロジェクトマネジメント能力が国内トップクラスであることを何よりも雄弁に物語っています。

 

この成功を支える強みは、以下の点に集約されます。

80年の歴史が育んだ「本物」を創る力:

同社は、日本の伝統的な和建具(組子など)の技術を継承しつつ、それを現代建築に昇華させる応用力を持っています。この「伝統と革新の融合」が、他社には真似のできない、深みのある空間価値を生み出します。


顧客のブランド価値向上への貢献:

同社は、単に製品を納めるだけでなく、「お客様のビジョンを実現し、お客様のブランド力向上に貢献すること」を大切にしています。顧客の歴史や価値観を深く理解し、唯一無二の製品を共に創り上げるパートナーとしての姿勢が、トップデベロッパーや設計事務所から絶大な信頼を得る理由です。


品質を支える研究開発体制:

自社内に温度・湿度を管理できる環境試験室や、遮音・断熱性能を計測する設備、実物大の製品を設置・検証できるモックアップ展示場を保有。科学的な裏付けに基づいた、確かな品質の製品づくりを徹底しています。


創業80周年を迎え、阿部興業は次なるステージへと舵を切っています。社長メッセージにもあるように、今後の成長戦略は、これまでの強みをさらに尖らせる形で展開されていくでしょう。

1.「ウルトラプレミアム事業」の本格稼働

これまでの高級路線をさらに推し進め、超富裕層や最高級の商業施設などをターゲットとした、まさに芸術品の域に達するような製品・空間を創造する事業です。木と本革の融合など、素材レベルからのイノベーションを追求し、新たな市場を切り拓きます。


2.グローバル展開の加速

インドネシア工場を拠点として、経済成長が著しいASEAN市場の高級レジデンスやホテルへの展開を本格化。「Made by ABE KOGYO」の品質とデザイン性を武器に、世界に「日本の本物」を届けていくことが期待されます。


3.伝統技術の継承と発信

日本が世界に誇る木工技術を、次世代の職人へ継承していくことは、同社の重要な使命です。その技術を活かした製品を世界に発信していくことで、日本の文化そのものの価値向上にも貢献していきます。


阿部興業は、80年という時間の中で、木の可能性を信じ、その価値を最大限に引き出すことに情熱を注いできました。その歩みは、日本の戦後建築史そのものと重なります。そして今、100年企業を目指し、「ウルトラプレミアム」という新たな頂へ、再び挑戦の扉を開けようとしています。

 

企業情報
企業名: 阿部興業株式会社
所在地: 東京都新宿区新宿1-7-10
代表者: 阿部 清光
事業内容: 1945年創業。木製ドア・和建具・造作家具の企画・製造・施工までを手掛けるトータルサプライヤー。社寺仏閣から麻布台ヒルズまで、フルオーダーメイドで「本物」の木製建具を提供。

www.abekogyo.co.jp

©Copyright 2018- Kyosei Kiban Inc. All rights reserved.