未来の産業と学術を担う人材の育成を通じて、70年以上にわたり社会に貢献してきた、公益財団法人三菱UFJ信託奨学財団。その第15期(令和7年3月31日現在)の決算公告が、2025年6月17日付の官報に掲載されました。三菱UFJ信託銀行の全額出捐によって設立された本財団の、揺るぎない財務基盤と、その活動の社会的意義について掘り下げます。 ![]()

第15期 決算のポイント(単位:百万円)
資産合計: 17,249 (約172.5億円)
負債合計: 1 (約0.01億円)
正味財産合計: 17,248 (約172.5億円)
今回の決算で最も特筆すべきは、総資産約172.5億円に対し、負債がわずか1百万円と、資産のほぼ全てが正味財産で構成されている点です。これは、外部からの借入に依存しない、極めて健全で自己完結した財務基盤を証明しています。この巨額の財産を安定的に運用し、その収益を奨学事業や研究助成の原資とすることで、永続的な社会貢献活動を可能にしています。
事業内容と社会貢献活動(考察)
【事業の概要】
公益財団法人三菱UFJ信託奨学財団は、1953年に三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)の創立25周年を記念し、「財団法人 山室記念会」として設立されました。その目的は、わが国の産業・金融の発展に寄与する有為な人材の育成と、学術研究の振興です。
その事業は、大きく2つの柱で構成されています。
奨学事業(事業予算の98.9%):
全国の指定大学48校の大学生・大学院生、および海外5大学からの留学生に対し、返還義務のない給付型奨学金を給与しています。2023年度末までに、累計7,169名の学生に対し、総額70億円を超える支援を行ってきました。単なる資金援助に留まらず、奨学生同士やOB・OG、財団関係者が集う交流会を国内外で活発に開催している点が大きな特徴です。
研究助成事業:
金融や信託制度の発展に資する学術研究に対し、助成金を支給しています。2024年度は「Web3.0を活用した地域の小規模自律分散型金融システム」に関する研究を支援するなど、時代の変化を捉えたテーマ設定がなされています。
【財団の理念と社会的意義】
本財団の活動は、設立趣意書にある「わが国の再建は、産業の発展と海外との経済的交流に俟つことが大であり、之が達成は、懸って有為な人材の養成と、内外の実情調査及び是等に関する学術の研究と、その普及を図ることにある」という、戦後復興期の熱い想いにその原点があります。
優秀な学生が経済的な理由で修学を断念することなく、勉学に打ち込める環境を提供する。そして、彼らが将来、産業界や学術界のリーダーとして国内外で活躍する。これは、日本の未来に対する極めて長期的で本質的な「投資」と言えます。
財団の特筆すべき点は、単なる資金提供者で終わらないことです。
「人の輪」という無形資産の形成
全国各地、さらには海外でまで開催される交流会や、活発なOB・OG会活動を通じて、世代、国籍、専門分野を超えた、他に類を見ないヒューマンネットワークを構築しています。奨学金の給付が終わった後も続くこの「人の輪」こそ、奨学生一人ひとりにとって、そして日本社会全体にとって、かけがえのない財産となっています。
三菱UFJ信託銀行のDNA
巨額の資産を長期にわたり安定的に運用し、その果実を社会に還元し続けるという事業モデルは、まさしく「信託」の思想そのものです。出捐者である三菱UFJ信託銀行の社会貢献への強い意志と、フィデューシャリー・デューティー(受託者責任)の精神が、財団の運営に深く息づいています。
【今後の展望】
グローバル化、デジタル化が加速し、社会が複雑性を増す中で、高度な専門知識と広い視野を持つ人材の重要性はますます高まっています。本財団は、これからもその時代認識のもと、事業を深化させていくでしょう。
研究助成のテーマに「デジタル通貨」や「Web3.0」といった先端分野が含まれていることは、財団が未来の金融・社会のあり方を鋭敏に捉え、その発展に貢献しようとしている姿勢の表れです。
また、70年以上の歴史で築き上げてきた7,000人を超えるOB・OGネットワークは、今後さらに大きな価値を生み出すポテンシャルを秘めています。このネットワークを活用し、現役奨学生へのメンターシッププログラムや、国際的な共同研究、新規事業創出のプラットフォームへと発展させていくことも期待されます。
三菱UFJ信託奨学財団は、金銭的な支援を通じて学生の「今」を支えるだけでなく、豊かな人的ネットワークを育むことで、彼らの「未来」をも拓いています。その地道で息の長い活動は、日本の、そして世界の未来をより豊かにするための、静かで力強い原動力であり続けるに違いありません。
法人情報
法人名: 公益財団法人三菱UFJ信託奨学財団
所在地: 東京都中央区日本橋2丁目2番4号 日本橋ビル3階
代表者: 理事長 上原 治也
事業内容: 三菱UFJ信託銀行の出捐により設立された公益財団法人。大学生・大学院生・留学生への返還不要の奨学金給与を主たる事業とし、金融・信託分野の研究助成も行う。70年以上の歴史の中で、国内外の有為な人材育成に貢献している。