日本の基幹産業である自動車産業。そのグローバルなサプライチェーンにおいて、国内生産の「最後の砦」とも言える重要な役割を担うのが、株式会社東扇島物流センターです。SUBARU(スバル)の輸出車両を専門に扱う同社の第42期(2025年3月期)決算公告が、2025年6月13日付の官報に掲載されました。本記事では、その決算内容を分析するとともに、日本のものづくりを世界へ送り出す、知られざるスペシャリスト集団の事業に迫ります。 ![]()

第42期 決算のポイント(単位:億円)
資産合計: 56.7億円
負債合計: 29.7億円
純資産合計: 27.0億円
当期純利益: 1.0億円
今回の決算では、当期純利益として95百万円(約1.0億円)を確保しました。総資産56.7億円のうち、固定資産が55.7億円と、そのほとんどを占めているのが大きな特徴です。これは、広大なモータープールや巨大なラック式自動倉庫といった、事業の根幹をなす物流設備を保有していることを示しています。また、22.1億円という潤沢な利益剰余金は、長年にわたり日本の自動車輸出を支え、安定した経営を続けてきた歴史の証左です。
事業内容と今後の展望(考察)
【事業内容の概要】
株式会社東扇島物流センターは、その名の通り、神奈川県川崎市の港湾地区・東扇島に拠点を構える物流企業です。しかし、その事業内容は極めて専門特化しています。
輸出用SUBARU車の船積み前保管・管理:
同社の唯一無二の役割は、株式会社SUBARUの群馬製作所で生産されたばかりの海外向け車両を、船積みまでの間、一時的に保管することです。平置きで約2,200台、そして高さのあるラック式自動倉庫で1,500台、合計で最大3,700台もの新車を収容できる広大なキャパシティを誇ります。
自動車輸出サプライチェーンのハブ機能:
東扇島という港湾地区の立地を最大限に活かし、自動車専用船のタイトな入港スケジュールに合わせて、保管車両を遅滞なく、かつ工場出荷時と変わらぬ高品質のまま、確実に船積みします。年間取扱台数は12万台を超え、まさに日本の自動車輸出を支える重要なハブ機能を担っています。
異業種連携による最強の布陣:
同社の株主構成は、その専門性を象徴しています。荷主である自動車メーカーのSUBARU、港湾業務のプロフェッショナルである三井埠頭、そして国際海上輸送の雄である日本郵船と商船三井。各分野のトップ企業がそれぞれの知見とノウハウを結集することで、生産から保管、船積み、海上輸送までがシームレスに連携する、極めて効率的で安定したオペレーションを実現しています。
【財務状況と今後の展望】
今期、安定して1億円近い純利益を確保できた背景には、主要顧客であるSUBARUの北米市場などを中心とした海外販売が堅調に推移していることがあります。同社の事業は、SUBARUの輸出台数にほぼ連動するため、その業績は極めて安定的です。これは、日本の自動車産業という巨大なエコシステムの中で、代替の利かない重要な役割を担っていることの証明に他なりません。
日本の自動車産業は、今なお国の経済を牽引する最大の基幹産業であり、その製品は世界中で高い評価を得ています。群馬の工場で一台一台、丹精込めて作られたSUBARU車に込められた品質と技術、そして作り手の想いを、少しも損なうことなく世界中の顧客のもとへ送り出す。この「品質のアンカー」としての地道で確実な仕事こそが、日本の自動車産業の国際的な信頼性を根底から支えているのです。
この事業における最大の強みは、前述の強力な株主構成そのものです。これは、単なる資本関係に留まらず、メーカー、港湾、海運という、自動車輸出に関わる全てのプレイヤーが運命共同体として連携する、他社には決して真似のできない究極のサプライチェーン・マネジメントと言えます。
今後の課題としては、自動車業界全体が直面する100年に一度の大変革、すなわちEV(電気自動車)シフトへの対応が挙げられます。ガソリン車とは異なる重量や、バッテリーの管理といった取り扱い上の注意が必要となるEVの保管・管理ノウハウを早期に確立し、今後本格化するであろうSUBARUのEV輸出戦略に万全の体制で対応していくことが、将来にわたってこの重要なパートナーシップを維持するための鍵となります。
また、2024年度から順次進めている場内照明のLED化など、巨大な施設を運営する企業として、環境負荷低減(脱炭素化)への取り組みを継続していくことも、サプライチェーンの一員としての重要な責務です。
株式会社東扇島物流センターが目指すのは、「世界一安全で、高品質なSUBARU車輸出のゲートウェイ」であり続けることです。これからも日本のものづくりの誇りを乗せた新車を、ここ東扇島から世界の大海原へと送り出す。その重要な役割を担い続ける同社の堅実な歩みに、今後も注目です。
企業情報
企業名: 株式会社東扇島物流センター
所在地: 神奈川県川崎市川崎区東扇島28番
代表者: 代表取締役社長 塚本 淳一
事業内容: SUBARUの輸出車両専門の船積み前保管・管理事業。自動車メーカー、港湾事業者、海運会社が出資する合弁会社として、日本の自動車輸出サプライチェーンの重要拠点を担う。