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#895 決算分析 : イハラ紙器株式会社 第71期決算 当期純利益 180百万円

静岡市清水区に拠点を置き、60年以上にわたり日本の物流を支え続けてきた段ボールメーカー、イハラ紙器株式会社。その第71期(2025年3月期)決算公告が、2025年6月18日付の官報に掲載されました。本記事では、その堅実な決算内容を分析するとともに、「人に、環境にやさしい」を事業の基本に据え、SDGs経営を力強く推進する同社の企業姿勢と今後の展望に迫ります。 

20250331_71_イハラ紙器決算

第71期 決算のポイント(単位:億円)
資産合計: 45.3億円
負債合計: 17.9億円
純資産合計: 27.4億円
当期純利益: 1.8億円


今回の決算では、当期純利益として1.8億円という安定した収益を確保しました。総資産45.3億円に対し、純資産が27.4億円と自己資本比率は約60%に達しており、極めて健全で安定した財務基盤を誇ります。19.7億円という巨額の利益剰余金は、半世紀以上にわたり地域社会のニーズに応え、着実に利益を積み上げてきた歴史の証です。

 

事業内容と今後の展望(考察)

【事業内容の概要】
イハラ紙器株式会社は、1956年の創業以来、段ボールの製造販売一筋に歩んできた専門メーカーです。その事業は、深い歴史と先進的な理念に支えられています。

 

オーダーメイドの段ボール製造・供給: 顧客の多様化・高度化する梱包・搬送ニーズに対し、長年培ってきた製造技術で柔軟に対応。特筆すべきは、静岡県内で唯一、薄物から厚物まで8種類もの厚みの段ボールシートを製造できるコルゲートマシンを保有している点です。これにより、内容物の軽量化を図りたい顧客から、重量物を安全に運びたい顧客まで、あらゆる要望にワンストップで応える技術力を持っています。


社会課題解決をDNAとする事業: 同社のルーツは、約70年前の社会課題解決への挑戦にあります。当時、農産物輸送の主流であった重い木箱を、より軽く、より安価な段ボールに置き換えることで、農家や輸送業者の負担を劇的に軽減しました。この「人に、環境にやさしい」という創業の精神が、現代のSDGs経営へと脈々と受け継がれています。


経営と一体化したSDGsの実践: 同社は、SDGs(持続可能な開発目標)を経営の根幹に据え、事業活動を通じて包括的に取り組んでいます。環境面では、FSC®森林認証の取得や古紙利用の拡大。社会面では、女性が活躍できる職場づくり、地域イベント(ボッチャしずおかカップ等)への協賛、災害対策支援としての段ボールベッド提供。そしてガバナンス面では、サプライチェーン全体での共存共栄を目指す「パートナーシップ構築宣言」を行うなど、その活動は多岐にわたります。


【財務状況と今後の展望】
今期、1.8億円という安定した純利益を確保できた背景には、EC市場の拡大に伴う物流の活発化や、世界的な環境意識の高まりからプラスチック包装から段ボールへの切り替えが進むなど、段ボール業界全体が底堅い需要に支えられていることがあります。その中で、顧客の細かなニーズに柔軟に応えられる同社独自の高い技術力が、競争優位性を生み出し、安定した収益に繋がっていると推察されます。

 

段ボールは、古紙回収率95%以上を誇る「リサイクルの優等生」であり、循環型社会の実現に不可欠な素材です。イハラ紙器は、この環境性能の高い素材を通じて、社会の持続可能性に大きく貢献しています。

 

この事業における同社の最大の強みは、静岡県内で唯一という、8種類もの厚みの段ボールを製造できる技術力です。これにより、顧客の「こういう箱が欲しい」というあらゆる要望に、最適解を提案できます。しかし、それ以上に特筆すべきは、創業の精神がSDGsという現代の価値観に直結しているという、強力で一貫したブランドストーリーです。「農家の負担を減らしたい」という約70年前の想いが、現代の「持続可能な社会の実現」という目標に自然と繋がっている。この理念と実践の一致が、従業員の誇りを育み、顧客や地域社会からの深い信頼を獲得する源泉となっています。

 

今後の課題としては、他の製造業と同様、古紙やエネルギー価格の変動が製造コストに影響を与えるリスクや、労働力不足への対応としての生産性向上が挙げられます。

 

これに対し、同社はすでに次の一手を打っています。今後の成長戦略として、環境性能をさらに高めた製品開発が重要になります。例えば、より少ない原料で同等の強度を保つ**「段ボールの薄物化」の推進や、防水・保冷といった付加価値を持つ機能性段ボール**の開発などが、新たな市場を切り拓く鍵となるでしょう。また、SDGsへの真摯な取り組みをウェブサイト等で積極的に情報発信し、環境意識の高い顧客企業からの支持をさらに集めていくことも、有効なブランディング戦略です。

 

イハラ紙器が目指すのは、単なる段ボールメーカーではありません。それは、「段ボールというサステナブルな素材を通じて、より良い地域と社会の未来を創造する企業」としての姿です。創業時の課題解決の精神を胸に、これからも技術革新と社会貢献を両輪として、イハラ紙器は静岡の地から、日本の物流、そして地球環境の未来を力強く支え続けていくことでしょう。

 

企業情報
企業名: イハラ紙器株式会社
所在地: 静岡県静岡市清水区長崎310番地
代表者: 代表取締役社長 竹中 武司
事業内容: 1956年創業の段ボールメーカー。静岡県内唯一となる8種類の厚みの段ボールシート製造技術を強みとし、多様な梱包ニーズに対応。SDGs経営を積極的に推進し、環境配慮や地域貢献にも力を入れる。

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