ソニーの磁気記録技術を源流に持ち、工作機械や半導体製造装置に不可欠な超精密位置決め用スケールで世界をリードする、株式会社マグネスケール。日本の「ものづくり」を根幹から支える同社の第16期(2024年12月期)決算公告が、2025年3月19日付の官報に掲載されました。本記事では、その好調な決算内容を読み解き、極限の精度を追求する技術力と今後の成長戦略に迫ります。 ![]()

第16期 決算のポイント(単位:億円)
売上高: 144.0億円
営業利益: 18.2億円
経常利益: 18.8億円
当期純利益: 13.6億円
純資産合計: 155.7億円
今回の決算では、売上高144.0億円に対し、当期純利益として13.6億円という非常に高い収益を達成しました。売上高営業利益率は約12.6%にのぼり、同社が手掛ける製品が、他社には真似のできない高い技術的付加価値を持つことを明確に示しています。また、総資産187.8億円に対し、純資産が155.7億円と自己資本比率は約83%に達しており、極めて強固で安定した財務基盤を誇ります。
事業内容と今後の展望(考察)
【事業内容の概要】
株式会社マグネスケールは、その社名が示す通り、磁気を利用した計測器「マグネスケール」を主力とする、超精密位置決め用スケールの専門メーカーです。その事業は、性質の異なる二つのコア技術によって支えられています。
磁気式「マグネスケール」事業:
ソニーの磁気テープ記録技術をルーツに持つ、同社の祖業とも言える事業です。油や結露、振動や衝撃に強いという圧倒的な「耐環境性」を武器に、主に工作機械(マザーマシン)の精密な位置制御に貢献しています。機械のテーブルと同じ熱膨張率を持つ特殊なスケールは、温度変化の激しい工場環境においても安定した高精度加工を実現し、日本のものづくり現場から絶大な信頼を得ています。
光学式「レーザスケール」事業:
ソニーの光ディスク(CD/DVD)技術を応用した、もう一つの柱です。こちらの武器は、水素原子の直径の約1/50に相当する2.1ピコメートル(1兆分の2.1メートル)という、まさに極限の「超高分解能」。半導体や液晶パネルの製造装置など、ナノレベルの微細化が求められる最先端分野において、その性能を決定づける不可欠な役割を担っています。
トータルソリューションの提供:
これら2つのスケール(位置を測る「ものさし」)を基盤に、デジタルゲージやカウンタなどを組み合わせ、顧客の課題をシステム全体で解決するソリューションを提供しています。
【財務状況と今後の展望】
今期達成した13.6億円という高い純利益は、同社の技術力が現代の産業界でいかに重要であるかを物語っています。世界的な半導体需要の拡大や、EV(電気自動車)関連をはじめとする製造業全体の高度化・自動化への投資が、同社の業績を力強く後押ししていると見られます。
同社が製造する「スケール」は、一般消費者の目に触れることはありません。しかし、スマートフォンや自動車、家電製品など、私たちの身の回りにあるあらゆる工業製品は、それらを作るための機械「マザーマシン」によって生み出されています。マグネスケールの製品は、そのマザーマシンの精度を保証する「基準器」であり、現代社会を支えるテクノロジーの、まさに根幹の根幹を担っているのです。この、日本の、ひいては世界の「ものづくり」の進化と発展を支えるという事業が持つ社会的意義は計り知れません。
この事業におけるマグネスケールの最大の強みは、性質の異なる「磁気」と「レーザー」という二大技術を併せ持つことです。これにより、過酷な環境下での高い信頼性が求められる工作機械市場から、極限の精度が求められる半導体市場まで、幅広い顧客ニーズに最適なソリューションを提供できます。また、ソニーグループで培われた「技術開発力」と「品質管理」のDNAも、同社の大きな無形資産です。自社内に最高水準のEMC(電磁環境適合性)試験設備や恒温室を保有し、品質、環境、事業継続、労働安全衛生といった多岐にわたるISO認証を取得していることも、製品への絶対的な信頼性の裏付けとなっています。
今後の課題としては、主要顧客である工作機械業界や半導体業界が、世界的な景気変動の影響を受けやすい「シリコンサイクル」などの景気循環に左右される点が挙げられます。これらの業界の設備投資動向に業績が影響されるリスクは常に存在します。また、ナノ、ピコメートルといった極限の精度を追求し続けるためには、巨額の研究開発投資と、物理・化学・電気・機械・ソフトウェアといった多岐にわたる分野の高度な専門人材の確保が不可欠です。
今後の成長戦略としては、顧客のニーズを先取りし、個別のスケール製品の提供に留まらず、複数の計測機器をインテリジェントに組み合わせたシステムとしての提案力を強化していくことが重要になります。また、米国・ドイツの拠点を軸とした海外展開をさらに加速させ、グローバルな市場でのプレゼンスを高めていくことも求められます。
今後の具体的なマイルストーンとしては、半導体の微細化ロードマップに対応する、次世代レーザスケールの開発と市場投入が挙げられます。また、IoT化の流れを汲んだ「スマートスケール」のさらなる機能向上と、工場のDX(デジタル・トランスフォーメーション)に貢献するソリューションとしての普及が期待されます。
株式会社マグネスケールが目指すのは、「超精密計測技術で、世界のモノづくりを進化させるキーカンパニー」としての確固たる地位です。これからもナノ、ピコの極限の世界に挑み続け、未来のテクノロジーを形作る基盤を創造していく。日本のものづくりの誇りを胸に、その挑戦は続きます。
企業情報
企業名: 株式会社マグネスケール
所在地: 神奈川県伊勢原市鈴川45
代表者: 代表取締役会長 森 雅彦
事業内容: ソニーの技術を源流とし、磁気式スケール「マグネスケール」と光学式スケール「レーザスケール」の開発・製造・販売を行う超精密計測機器メーカー。工作機械や半導体製造装置に不可欠な位置決め用スケールで世界をリードする。