「星のや」「界」「リゾナーレ」といった独創的なブランドで日本の観光業界を牽引する星野リゾート。その成長戦略と深く結びつき、金融の側面から「日本の観光をリードする」役割を担うのが、株式会社星野リゾート・アセットマネジメントです。同社の第15期(2024年11月期)決算公告が2025年2月28日付の官報に掲載されました。本記事では、その決算内容を基に、同社のビジネスモデルと今後の展望について分析します。
第15期 決算のポイント(単位:百万円)
資産合計: 3,068百万円 (約30.7億円)
負債合計: 324百万円 (約3.2億円)
純資産合計: 2,744百万円 (約27.4億円)
当期純利益: 352百万円 (約3.5億円)
今回の決算では、当期純利益として352百万円(約3.5億円)を計上。総資産30.7億円に対し、純資産が27.4億円と、自己資本比率が約89%に達する極めて健全で強固な財務基盤を誇ります。これは、多数の投資家から資産を預かり運用するアセットマネジメント会社としての高い信頼性を示すものです。利益剰余金も26.4億円と潤沢であり、安定した収益力を物語っています。
事業内容と今後の展望(考察)
【事業内容の概要】
株式会社星野リゾート・アセットマネジメントは、単なる不動産会社ではありません。同社は、星野リゾートをスポンサーとする日本初のホテル・旅館特化型REIT(不動産投資信託)である「星野リゾート・リート投資法人(東証:3287)」の資産運用を専門に行う、投資運用のプロフェッショナル集団です。
同社の核となる事業は、投資家から集めた資金でホテルや旅館といった不動産を取得・所有し、そこから得られる賃料収入などを投資家に分配する「星野リゾート・リート投資法人」の頭脳としての役割です。具体的には、どのホテルに投資するかの選定(物件取得)、最適なタイミングでの物件売却、リート全体の資金調達戦略、そして投資家への情報開示(IR)活動など、運用に関わる全ての戦略を立案・実行しています。
「所有と運営の分離」による成長戦略:
星野リゾートグループは、ホテルを「運営」するプロ(オペレーター)と、施設を「所有」するプロ(オーナー)を分離する戦略を採っています。同社が運用するリートは「所有」を担い、星野リゾートは「運営」に特化します。この連携により、リートは星野リゾートが運営する魅力的な施設をポートフォリオに組み入れることで成長し(外部成長)、星野リゾートは卓越した運営ノウハウで施設の価値を最大化させ、リートの収益向上に貢献します(内部成長)。この両輪を回すことが、同社のビジネスモデルの根幹です。
ポートフォリオの多様化による安定収益の追求:
ポートフォリオは、「星のや」「界」「リゾナーレ」といった星野リゾートの主要ブランド施設が中心ですが、それだけではありません。他のホテルオペレーターが運営する都市観光ホテル(the b hotelsなど)やロードサイド型の宿泊特化型ホテル(コンフォートインなど)も積極的に組み入れています。これにより、特定のブランドや旅行形態への依存リスクを分散し、より安定的で強靭な収益基盤の構築を目指しています。
【財務状況と今後の展望・課題】
当期純利益3.5億円という安定した収益は、同社が運用する「星野リゾート・リート投資法人」から受け取る資産運用報酬によってもたらされています。この報酬は、リートの運用資産額(2025年5月時点で約2,279億円)に連動する「基本報酬」と、リートの業績に応じて変動する「成功報酬」で構成されています。リートの資産規模が拡大し、保有するホテルの業績が好調であるほど、同社の収益も増加するという、成長を共有する仕組みです。
同社は、日本の基幹産業である「観光」に、金融の仕組みを通じて誰もが投資できる道を提供しています。個人投資家は、リート投資口を購入することで、間接的に「星のや沖縄」や「OMO7大阪」といった魅力的なホテルのオーナーの一員となり、日本の観光産業の成長の果実を享受することができます。これは、政府が推進する「観光立国」の実現にも資する、社会的意義の大きい事業と言えるでしょう。
この事業における最大の競争優位性は、世界にその名を知られる「星野リゾート」を唯一無二のスポンサーに持つことに尽きます。「星のや」に代表される圧倒的なブランド力と、高い収益性を生み出す運営ノウハウは、他のホテル特化型リートに対する絶対的な強みです。スポンサーである星野リゾートから優良物件を継続的に取得できる強力なパイプラインは、リートの持続的な成長を支える生命線です。
一方で、観光産業は景気動向、パンデミック、国際情勢といった外部環境の変化に敏感なセクターです。インバウンド需要の増減や国内旅行者の消費マインドの変化は、リートが保有するホテルの客室単価や稼働率に影響を与え、ひいては同社の運用報酬にも変動をもたらすリスク要因となります。また、今後の金利上昇局面においては、リートの借入コストが増加し、収益性を圧迫する可能性も考慮しなければなりません。
これらのリスクに対応し、中長期的な成長を続けるためには、ポートフォリオのさらなる質の高い多様化が戦略の鍵となります。リゾート、温泉旅館、都市観光、宿泊特化型といったカテゴリーの分散に加え、エリアの分散も重要です。これにより、特定の需要変動に対する耐性を高め、安定したキャッシュフローを生み出すポートフォリオを構築していく必要があります。
今後のマイルストーンとしては、リートの運用資産規模の拡大(例えば、3,000億円、5,000億円の大台)が挙げられます。また、将来的には海外に展開する星野リゾートの施設を組み入れることも視野に入れており、リートのグローバル化を実現できるかどうかが、次のステージへの大きな試金石となるでしょう。
株式会社星野リゾート・アセットマネジメントは、単なる資産運用会社ではありません。「星野リゾート」という世界に通用するブランド力をエンジンに、日本の観光産業の成長を投資家の利益へと還元するハブとしての役割を担っています。これからも日本の観光の魅力を最大限に引き出し、投資家と共に成長していく、そのダイナミックな戦略に大きな期待が寄せられます。
企業情報
企業名: 株式会社星野リゾート・アセットマネジメント
所在地: 東京都中央区京橋三丁目6番18号
代表者: 代表取締役社長 秋本 憲二
事業内容: 星野リゾートをスポンサーとする「星野リゾート・リート投資法人」の資産運用業。投資家から集めた資金でホテル・旅館を取得・運用し、日本の観光産業の成長を投資家に還元する。