ゴルフコース設計の巨匠・井上誠一氏の最高傑作の一つと称され、幾多の熱戦の舞台となってきた「龍ケ崎カントリー倶楽部」。その運営母体である株式会社龍ケ崎カントリー倶楽部の第68期(2024年12月期)の決算公告が、令和7年3月24日付の官報に掲載されました。本記事では、その決算内容を分析し、関東屈指の名門コースが守り続ける伝統と、その裏側にある経営の現実を考察します。 ![]()

第68期 決算のポイント(単位:百万円)
売上高: 677 (約6.8億円)
営業損失: 118 (約▲1.2億円)
経常利益: 10 (約0.1億円)
当期純利益: 4 (約0.04億円)
資産合計: 3,947 (約39.5億円)
純資産合計: 3,411 (約34.1億円)
今回の決算で最も注目すべき点は、本業のゴルフ場運営の収益性を示す営業損益が約1.2億円の損失(赤字)である一方、経常利益および当期純利益は黒字を確保している点です。これは、プレーフィやレストラン等の売上(約6.8億円)だけでは、コースメンテナンスや人件費などの運営コストを賄いきれていないものの、約1.3億円にのぼる潤沢な営業外収益によって事業全体が支えられているという、名門ゴルフ場特有の経営構造を示しています。
そして、その経営を盤石なものにしているのが、約34.1億円という極めて厚い純資産です。自己資本比率は86%を超え、財務の安定性は傑出しています。
事業内容とブランド価値の考察
【事業内容の概要】
1958年(昭和33年)、龍ケ崎市の発展を願う市議会の決議を基に設立された龍ケ崎カントリー倶楽部は、単なるゴルフ場ではありません。そのコースは、霞ヶ関、大洗、日光など数々の名門を手掛けた伝説的設計家・井上誠一氏によるもの。自然の地形を巧みに活かした戦略性の高いレイアウトは、開場から65年以上経った今なお、多くのアマチュアやプロゴルファーを魅了し続けています。
歴史と実績:
日本オープン、日本アマチュア選手権など、日本のゴルフトーナメント史を彩る幾多の公式戦の舞台となってきました。この輝かしい歴史こそが、同倶楽部の価値の源泉です。
格式高いメンバーシップ:
会員による自主的な運営を基本とし、入会には在籍5年以上の正会員2名の推薦と理事面接が必須。厳格な入会資格は、倶楽部の品位と「和気あふれる倶楽部ライフ」を守るための伝統です。
【財務状況から読み解く名門クラブの経営モデル】
本業が赤字でありながら経営が成り立つ背景には、会員制クラブならではの収益構造と、強固な財務基盤の存在があります。
年会費収入が支える経営:
営業損失を補って余りある約1.3億円の営業外収益。これは、1,300名を超える会員から徴収する年会費収入が一部該当するのでしょうか(年会費が6.3万円、会員数が1,300名とした場合の会員収入は約82百万円)。詳細な内訳を会員は、最高のコンディションに保たれた井上誠一設計コースでプレーする権利と、格式ある倶楽部ライフを享受するために会費を支払います。この安定した収益が、日々の運営を支える生命線となっていそうです。
「株主会員制」という盤石の礎:
貸借対照表を見ると、純資産の大部分を約33億円もの資本剰余金が占めています。これは、龍ケ崎カントリー倶楽部が、会員権が預託金の形ではなく、会社の株式となっている「株主会員制」を採用していることを示しています。会員は単なる顧客ではなく、倶楽部の共同所有者(株主)なのです。預託金制ゴルフ場のような償還問題とは無縁であり、この制度が長期にわたる経営の安定性を担保しています。
市場環境と今後の展望・課題
日本のゴルフ業界は、ゴルフ人口の減少や高齢化、施設の老朽化、運営コストの上昇といった構造的な課題に直面しています。名門である龍ケ崎カントリー倶楽部も、こうした時代の変化と無縁ではありません。
守るべき伝統と価値:
同倶楽部の最大の使命は、井上誠一氏の設計思想という文化遺産を、最高の状態で次世代に継承していくことです。そのためには、継続的なコースメンテナンスへの投資が不可欠であり、その原資となる安定した収益基盤を守り続ける必要があります。
変化への挑戦:
伝統を守る一方で、時代に合わせた変化にも積極的に取り組んでいます。ベント芝の最新品種への張り替えや、シニア・レディースティーの新設は、その一例です。また、300kWの太陽光発電・蓄電池システムを導入し、年間約140トンのCO2排出量を削減するなど、環境配慮とコスト削減を両立させる努力も行っています。
長期的な課題:
次世代のゴルファー、そして会員をいかに育成し、惹きつけていくか。ジュニアスクールの開催や、龍ケ崎市民ゴルフ大会の開催といった地域貢献活動は、ゴルフの裾野を広げ、未来のファンを育むための重要な取り組みです。名門としての矜持を守りながら、新しい世代にも開かれた存在であり続けること。それが、この先も「我国有数のゴルフコース」として輝き続けるための鍵となるでしょう。
井上誠一の傑作を護り、育み、そして未来へ繋ぐ。龍ケ崎カントリー倶楽部の決算書は、その静かなる、しかし強い意志を物語っています。
企業情報
名称: 株式会社龍ケ崎カントリー倶楽部
所在地: 茨城県龍ヶ崎市泉町2080番地
代表者: 代表取締役 小西 健一郎
事業内容: 1958年開場の名門ゴルフコース「龍ケ崎カントリー倶楽部」の所有・管理・運営。設計は井上誠一氏。株主会員制を採用し、会員による自主的な運営を基本とする。