坂本ドネイション・ファウンデイション株式会社の第14期(2024年12月期)の決算公告が、令和7年3月26日付の官報に掲載されました。本記事では、その決算概要とともに、日本のフィランソロピー(社会貢献活動)に一石を投じるこのユニークな企業の仕組みと理念について掘り下げていきます。
第14期 決算のポイント(単位:百万円)
資産合計: 80,978 (約809.8億円)
負債合計: 93 (約0.9億円)
純資産合計: 80,885 (約808.9億円)
当期純利益: 1,109 (約11.1億円)
今回の決算では、当期純利益として1,109百万円(約11.1億円)が計上されました。特筆すべきは、その財務構造です。資産合計約809.8億円に対し、負債はわずか0.9億円。純資産は約808.9億円と、自己資本比率は99%を超えており、極めて強固で健全な財務基盤を誇ります。
純資産のうち、利益剰余金は3,251百万円(約32.5億円)と潤沢なプラス状態ですが、この企業の最大の特徴は「その他有価証券評価差額金」が64,744百万円(約647.4億円)にも上る点です。これは、同社が保有する有価証券(後述するホシザキ株式会社の株式)の価値が、簿価を大幅に上回る含み益を抱えていることを示しており、この企業が持つ巨大な資産背景を物語っています。
事業内容と今後の展望(考察)
【事業内容の概要】
坂本ドネイション・ファウンデイション株式会社は、一般的な営利企業とはその目的と成り立ちが全く異なります。この会社は、業務用製氷機で世界トップメーカーであるホシザキ株式会社の創業者一族、坂本精志氏と春代夫人によって設立された、社会貢献を目的とする資産管理会社です。その社名が示す通り、まさに「寄付(Donation)」のための「財団(Foundation)」として機能しています。
その事業モデルは、日本において画期的かつ独創的です。
株式の保有と配当受領:
坂本夫妻が寄付(現物出資)したホシザキ株式会社の株式を恒久的に保有し、その配当金が会社の主な収益源となります。
株主への配当:
会社が得た利益(ホシザキからの配当金)を、今度は自社の株主である名古屋大学、名古屋工業大学、公益財団法人ロータリー米山記念奨学会などに配当として支払います。
奨学金の運営:
各大学や団体は、坂本ドネイション・ファウンデイションから受け取った配当金を原資として、返済不要の給付型奨学金(「ホシザキ奨学金」など)を運営し、学生を支援します。
この「株式会社方式」による奨学金制度は、株式配当を原資とすることで、従来の寄付に依存する財団法人よりも「継続性」と「運営の自由度の高さ」を確保できる日本初の試みです。企業の業績に連動しつつも、安定した配当が見込める優良企業の株式を基盤とすることで、永続的な学生支援の仕組みを構築しています。
【財務状況と創業者の哲学、そして今後の展望】
第14期決算における約11.1億円の当期純利益は、この事業モデルが安定的に機能していることの証左です。この利益は、保有するホシザキ株式からの配当収入によってもたらされたものと断言できます。この利益が、巡り巡って学生たちの学費や生活費となり、未来への投資に変わっていきます。
この類まれな企業を生み出した背景には、創業者・坂本精志氏の「財産は社会からの借りもの」という揺るぎない哲学があります。インタビュー記事によれば、坂本氏の父親もまた篤志家の支援によって学業を修めることができ、その恩を社会に返すべく奉仕活動に尽力したといいます。その志を受け継いだ坂本氏は、「今度は私が社会へのお返しをする番だ」との思いから、自身の資産を次世代に相続させるのではなく、すべて社会に還元することを決意しました。
坂本氏は、「日本の寄付文化を育てたい」という思いから、あえて自らの名を冠し、その活動を公にしています。「陰徳」を美徳とする風潮が根強い日本において、堂々と寄付を語り、その意義を社会に問う姿勢は、新たなフィランソロピーの形を提示するものです。この坂本ドネイション・ファウンデイションの存在そのものが、坂本氏の哲学の結晶と言えます。
この会社の「課題」や「リスク」を一般的な企業と同じ尺度で測ることはできません。唯一のリスクは、配当原資であるホシザキの業績ですが、同社が世界的な優良企業であることを鑑みれば、その基盤は極めて安定的です。したがって、この会社の使命は、事業を拡大したり利益を最大化したりすることではありません。創業者の高潔な意志を永続させ、保有資産を堅実に管理し、未来を担う若者たちへの支援という形で社会への還元を着実に実行し続けること、それがこの会社のすべてです。
今後の展望として、この坂本ドネイション・ファウンデイションの仕組みが、他の企業経営者や資産家にとっての新たな社会貢献モデルとなることが期待されます。経済的な理由で学ぶ機会を断念する学生が後を絶たない現代日本において、同社の取り組みは、産学連携による人材育成の、そして持続可能な社会貢献活動の、輝かしい道標となるでしょう。
企業情報
企業名: 坂本ドネイション・ファウンデイション株式会社
所在地: 名古屋市中村区名駅四丁目6番23号
代表者: 加藤 令
事業内容: ホシザキ株式会社創業者一族の私財を基に設立された資産管理・社会貢献企業。保有する株式の配当金を原資とし、大学や奨学団体への配当を通じて、主に返済不要の給付型奨学金事業を恒久的に支援している。