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#846 決算分析 : 株式会社エンジェル・トーチ 第9期決算 当期純利益 ▲79百万円

東証プライム上場の株式会社ADワークスグループの戦略的子会社として、ベンチャー投資とファイナンス支援を手掛ける株式会社エンジェル・トーチ。その第9期(2024年12月期)の決算公告が、2025年3月27日付の官報に掲載されました。設立から4年、先行投資フェーズにあるコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)の現在地と、そのユニークな戦略を紐解きます。

20241231_9_エンジェル・トーチ決算

第9期 決算のポイント(単位:百万円)
資産合計: 184百万円 (約1.8億円)
負債合計: 122百万円 (約1.2億円)
純資産合計: 62百万円 (約0.6億円)
当期純損失: 79百万円 (約0.8億円)
利益剰余金: ▲216百万円 (約▲2.2億円)


今回の決算では、約0.8億円の当期純損失が計上され、利益剰余金も約2.2億円のマイナスとなりました。しかし、これは事業の不振を示すものではなく、CVCが事業を開始して間もない「投資フェーズ」にあることを示しています。ベンチャー企業への投資はすぐにリターンを生むものではなく、数年単位で育成していく必要があるため、設立初期の赤字は、将来の大きな成長に向けた戦略的な先行投資の結果と捉えるべきでしょう。

 

一方で、資本金と資本剰余金の合計が2.8億円と厚く、純資産はプラスを維持しており、親会社であるADワークスグループの強力なバックアップのもと、安定した財務基盤を有していることがわかります。 

 

事業内容と今後の展望(考察)


【事業内容の概要】
株式会社エンジェル・トーチは、2020年12月に事業を開始した、ADワークスグループのCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)です。その使命は、親会社の既存事業の枠組みを超えたイノベーションの"きっかけ"を創出することにあります。

 

「知の探索」を担うCVC事業:

親会社であるADワークスグループが、主力の不動産事業をさらに深める「知の深化」に留まらず、全く新しい領域を開拓するための「知の探索」を担う戦略的部門として位置づけられています。投資テーマとして「不動産テック」「STO/ブロックチェーン」「サステナビリティ」「DX」という明確な4つの柱を掲げ、アーリーステージのスタートアップを中心に投資活動を行っています。


独自の「ファイナンス・アレンジメント事業」:

単に投資を行うだけでなく、資金調達に課題を抱える企業に対し、最適なソリューションを提供するアドバイザリー業務も展開。親会社が持つライツ・オファリング(株主割当増資)のノウハウや、STO(セキュリティ・トークン・オファリング)といった先進的な金融手法に関する深い知見を活かし、企業の成長そのものをプロデュースする「伴走者」としての役割を果たしています。


【財務状況と今後の展望・課題】
エンジェル・トーチの決算を評価する上で重要なのは、単年度の損益ではなく、その事業目的と戦略です。同社の存在意義は、短期的な投資リターン以上に、親会社の未来を形作るための「知の探索」にあります。現在の赤字は、そのための必要不可欠なコストと言えます。

 

同社の投資テーマは、極めて戦略的です。「不動産テック」や「STO/ブロックチェーン」は、親会社の不動産事業を直接的に進化させ、新たな価値を付加する可能性を秘めています。また、「サステナビリティ」や「DX」は、あらゆる産業が直面する現代的な課題であり、これらの領域で先進的な技術やビジネスモデルを持つ企業と連携することは、ADワークスグループ全体の持続可能性と競争力を高めることに繋がります。

 

エンジェル・トーチの最大の独自性は、資金を提供するだけのCVCではない点です。「ファイナンス・アレンジメント事業」は、同社を際立たせる強力な武器です。多くのスタートアップは、優れた技術やアイデアを持ちながらも、資金調達のノウハウ不足に悩みます。そこに対して、資本政策の立案から、株式、社債クラウドファンディング、そして将来のSTO活用まで、多様な選択肢を提示し、実行をサポートする。これは、投資先企業の成長確度を格段に高める強力なハンズオン支援であり、エンジェル・トーチが他の投資家から「選ばれる理由」となっています。

 

今後の同社にとっての最重要課題は、投資実績の創出です。設立から4年が経過し、ポートフォリオの中から成功事例(IPOM&AといったEXIT)を生み出し、キャピタルゲインという金銭的リターンと、事業シナジーという戦略的リターンの両面で具体的な成果を示すことが期待されます。

 

また、先行投資フェーズであるとはいえ、中長期的には事業として自立し、安定した収益を上げる体制を構築することも求められます。その点において、ファイナンス・アレンジメント事業から得られるフィー収入は、投資事業の損益変動を補い、経営を安定させる重要な収益源となっていくでしょう。

 

株式会社エンジェル・トーチは、不動産金融の知見とベンチャー投資を融合させた、他に類を見ないユニークなCVCです。親会社の変革をリードする「トーチ(松明)」として、日本のスタートアップエコシステムの中でどのような輝きを放つのか。その「知の探索」の旅路と、未来への投資が花開く瞬間に、大きな注目が集まります。

 

企業情報
企業名: 株式会社エンジェル・トーチ
所在地: 東京都千代田区内幸町2-2-3 日比谷国際ビル5階
代表者: 代表取締役社長 木津 明
事業内容: CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)事業、ファイナンス・アレンジメント事業。東証プライム上場の株式会社ADワークスグループの戦略的子会社として、スタートアップへの投資・育成、資金調達支援等を行う。

www.angel-torch.com

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