沖縄本島北部のやんばるの森に、まるで絵本の世界から飛び出してきたかのようなツリーハウスリゾートを展開する「株式会社ツリーフル」。その第5期(2024年12月期)の決算公告が、2025年3月28日付の官報に掲載されました。創業者の夢と情熱が結晶化したこのユニークな企業の現在地と未来への展望を、財務データと事業内容から読み解いていきます。

第5期 決算のポイント(単位:百万円)
資産合計: 608百万円 (約6.1億円)
負債合計: 127百万円 (約1.3億円)
純資産合計: 481百万円 (約4.8億円)
当期純損失: 144百万円 (約1.4億円)
今回の決算では、当期純損失として144百万円(約1.4億円)が計上されました。利益剰余金は▲374百万円(約▲3.7億円)のマイナスとなっていますが、特筆すべきはその盤石な財務基盤です。資本金344百万円と資本剰余金511百万円を合わせた自己資本は8.5億円を超え、純資産は4.8億円と非常に厚く、健全な状態を維持しています。
また、資産合計6.1億円のうち、固定資産が5.0億円と約83%を占めている点は、同社の事業がツリーハウスという壮大な設備投資そのものであることを明確に示しています。現在の損失は、2021年8月の開業からまだ日が浅く、リゾート開発という大規模な先行投資の回収フェーズにあることを物語っています。
事業内容と今後の展望(考察)
【事業内容の概要】
株式会社ツリーフルが展開するのは、単なる宿泊施設ではありません。「自然との共存」をテーマに、サステナビリティと冒険心を融合させた唯一無二のツリーハウスリゾートです。その事業は、代表取締役である菊川曉氏の「大きな木にツリーハウスを作りたい」という幼少期の夢から始まっています。
唯一無二のツリーハウスリゾートの開発・運営:
沖縄本島北部の手付かずの森に、デザインとコンセプトが異なる複数のツリーハウスとエアロハウスを点在させています。螺旋階段が美しい「スパイラルツリーハウス」、船を改造して木の上に設置した「エッグハウス」、金閣寺にインスパイアされた「黄金トロフィーツリーハウス」など、一つ一つが創業者の情熱と遊び心、そして「本物」へのこだわりが詰まった芸術作品です。
サステナビリティの徹底追及:
同社の根幹をなすフィロソフィーは「自然との共存」です。建設時に極力木を切らず、金属ボルトの代わりに木製ダボ(特許出願中)を使用することでCO2排出を削減。芝刈り機の代わりにヤギを飼い、コンポストトイレや井戸水の紫外線殺菌、太陽光発電によるオフグリッドプロジェクトなど、事業のあらゆる側面で環境負荷を低減し、「カーボンネガティブ」を目指す徹底した取り組みを行っています。
高付加価値な体験の提供:
宿泊を通じて、自然の中で癒されるボディトリートメントや、地元の新鮮な食材を味わう炭火ディナーなどを提供。ゲストを単なる顧客ではなく、自然との共存の大切さを学び、広めてくれる「パートナー」と位置づけ、忘れられない体験価値を創造しています。
【財務状況と今後の展望・課題】
第5期決算における1.4億円の当期純損失は、一見すると厳しい数字に見えますが、その背景を理解することが重要です。この損失は、壮大な夢を実現するための「未来への投資」の結果です。ツリーハウスという他に類を見ない建造物の建設費、そしてその世界観を維持するための運営コストが、開業初期の売上を上回るのは、こうしたユニークなコンセプトを持つリゾート事業の成長過程としては自然な姿と言えます。
この先行投資を支えているのが、親会社である株式会社ガーラ(東証スタンダード上場)の存在です。オンラインゲーム事業等を展開する同社の子会社であることにより、ツリーフルは安定した財務基盤を確保しています。8.5億円を超える厚い資本金・資本剰余金は、親会社からの強力なバックアップの証左であり、これにより目先の収益に追われることなく、長期的な視野でブランド価値の構築と事業の成長に集中できる環境が整っています。
ツリーフルの最大の強みは、その圧倒的なブランドストーリーと独自性にあります。創業者の夢物語、サステナビリティへの真摯な姿勢、そして息をのむほど美しいツリーハウス群は、強力なナラティブ(物語)として人々を惹きつけます。これは、価格競争に陥りがちな宿泊業界において、極めて強力な競争優位性となります。特に、体験価値や企業の社会貢献意識を重視する現代の富裕層やインバウンド観光客にとって、ツリーフルが提供する価値は非常に魅力的です。
今後の最大の課題は、この唯一無二のブランド価値を、いかにして持続可能な収益に結びつけていくかです。現在の施設は客室数が限られているため、高い客単価を維持しつつ、年間を通じて高い稼働率を達成することが収益性確立の鍵となります。そのためには、リピーターの育成や、口コミ・SNSを通じたオーガニックな認知度向上、そして回復が進むインバウンド需要の確実な取り込みが不可欠です。
また、長期的な成長戦略としては、スケーラビリティ(事業拡大の可能性)も視野に入ってくるでしょう。この「ツリーフルモデル」を他の地域で展開する構想も考えられますが、その際は「唯一無二」という現在のブランド価値を毀損しないよう、慎重な戦略が求められます。
株式会社ツリーフルは、まだ夢の実現の途上にあります。しかし、その夢は確かなフィロソフィーと、親会社による盤石な財務基盤に支えられています。先行投資フェーズから収益拡大フェーズへと移行し、この素晴らしいサステナブルリゾートが事業としても成功を収めることができるか。沖縄の森から発信される「自然との共存」というメッセージが、世界にどのように響いていくのか、その成長ストーリーから目が離せません。
企業情報
企業名: 株式会社ツリーフル
所在地: 沖縄県名護市字源河2578番地
代表者: 菊川 曉
事業内容: 沖縄県名護市のやんばるの森で、サステナビリティをテーマにしたツリーハウスリゾートの開発・運営。「自然との共存」をフィロソフィーに、宿泊者に唯一無二の体験価値を提供する。