西日本最大級の遊園地「グリーンランド」を中核とする、熊本県荒尾市の一大リゾートエリア。その宿泊機能を担うオフィシャルホテルを運営する有明リゾートシティ株式会社の第35期(令和6年12月31日現在)の決算公告が、令和7年3月28日付の官報に掲載されました。コロナ禍の厳しい影響を受けながらも、回復への道を歩む同社の現状と今後の展望を考察します。
第35期 決算のポイント(単位:百万円)
資産合計: 1,256百万円 (約12.6億円)
負債合計: 2,505百万円 (約25.1億円)
純資産合計: ▲1,249百万円 (約▲12.5億円)
当期純損失: 95百万円 (約1.0億円)
今回の決算では、当期純損失として95百万円が計上され、純資産は▲1,249百万円と、依然として債務超過の状態が続いています。累積損失を示す利益剰余金も▲1,871百万円に達しており、ホテル・レジャー業界が直面したコロナ禍の打撃の深刻さを物語っています。
しかし、この厳しい財務状況の中でも事業が継続されている背景には、東証スタンダード市場に上場する100%親会社「グリーンランドリゾート株式会社」の全面的な支援があります。同社は、リゾート全体の魅力を維持するために不可欠な宿泊部門を支えており、この赤字は業界全体の苦境を乗り越え、回復へと向かう過程にあると捉えるべきでしょう。
事業内容と今後の展望(考察)
【事業内容の概要】
有明リゾートシティ株式会社は、グリーンランドリゾート株式会社が運営する遊園地「グリーンランド」に隣接する、2つの公式ホテル「ホテル ヴェルデ」と「ホテル ブランカ」の運営を専門としています。
「グリーンランドリゾート」の宿泊機能の中核:
年間300万人を集客する巨大リゾートの宿泊部門を一手に担っています。遊園地で一日中楽しんだ来園者が、その興奮と感動のまま滞在できる唯一無二の拠点であり、リゾート全体の顧客体験価値を高める上で不可欠な存在です。
遊園地との一体運営によるシナジー創出:
親会社であるグリーンランドリゾートの遊園地事業と緊密に連携。宿泊者限定の遊園地特典や、季節ごとのイベントと連動した宿泊プランなどを通じて、相互に送客しあう相乗効果を生み出しています。
【財務状況と今後の展望・課題】
1.0億円の当期純損失と債務超過は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが、ホテル・レジャー業界に与えた甚大なダメージが今なお影響していることを示しています。長期にわたる移動制限や営業自粛、その後の客足の回復の遅れが、ホテルという大規模な固定費を要する事業の収益を圧迫し続けてきました。
市場環境の好転と回復への期待:
一方で、事業を取り巻く環境は大きく好転しています。アフターコロナの社会では、抑えられていた旅行・レジャーへの欲求が国内外で爆発しており、特に「体験型消費」への関心は高まっています。遊園地を核とするリゾートへの需要は力強く回復しており、同社の業績回復も本格化することが期待されます。また、円安を背景としたインバウンド(訪日外国人観光客)の急回復は、九州の中心という地理的優位性を持つ同社にとって、大きな成長機会となります。
企業の強みと競争優位性:
1.「オフィシャルホテル」という絶対的な優位性
遊園地に最も近いという立地の良さ、開園・閉園時間に合わせた柔軟な対応、宿泊者限定の特典など、他のホテルには決して真似のできない独自の優位性を持っています。
2.強力な集客装置「グリーンランド」
親会社が運営する遊園地は、西日本で抜群の知名度と集客力を誇ります。この強力なコンテンツと隣接し、一体となってサービスを提供できることが、ホテル事業の基盤を支えています。
3.親会社「グリーンランドリゾート」の支援体制
財務面での支援はもちろん、リゾート全体のマーケティング戦略やブランド力を活用できることは、単独のホテルでは得られない大きな強みです。
今後の課題と成長戦略:
財務体質の抜本的改善: 最優先課題は、収益性を回復させ、一日も早く債務超過の状態を解消することです。そのためには、客室稼働率と客室単価(ADR)の向上を両立させる緻密なレベニューマネジメントや、インバウンド需要の取り込み、MICE(会議・研修・展示会など)の誘致による平日稼働の向上が不可欠です。
a.深刻な人手不足への対応
ホテル業界全体が直面する人手不足は、サービスの質に直結する深刻な問題です。スマートチェックインなどのDX(デジタル・トランスフォーメーション)推進による業務効率化を進めると同時に、従業員の待遇改善やキャリアパスの明確化など、「働きがいのある職場」としての魅力を高めていく必要があります。
b.施設の戦略的リニューアル
顧客に選ばれ続けるためには、施設の維持更新や、変化する顧客ニーズに合わせたリノベーションが欠かせません。現在の財務状況下では大規模な投資は困難ですが、親会社と連携し、費用対効果の高いリニューアルを計画的に実行していくことが、中長期的な競争力維持に繋がります。
有明リゾートシティは、日本のレジャー業界が経験した未曾有の危機を乗り越え、今まさに回復への坂道を登り始めたところです。親会社との強力なタッグと、「グリーンランド」という唯一無二の魅力を最大限に活かし、再び多くの人々に「最高の思い出となる時間と空間」を提供できるようになるか。その力強い復活劇に、大きな期待が寄せられています。
企業情報
企業名: 有明リゾートシティ株式会社
所在地: 熊本県荒尾市本井手1558番地
代表者: 田中 宏昌
事業内容: グリーンランドリゾート株式会社の100%子会社として、西日本最大級の遊園地「グリーンランド」のオフィシャルホテル「ホテル ヴェルデ」および「ホテル ブランカ」の運営を行う。