「その野心を、スケールさせる。」——この力強いメッセージを掲げ、数々のスタートアップを成功へと導いてきた、日本を代表する独立系ベンチャーキャピタル(VC)、STRIVE株式会社。その第14期の決算公告(2024年12月31日現在)が掲載されましたので、その概要をピックアップし、事業内容と合わせて考察します。
第14期 決算のポイント(単位:百万円)
資産合計: 1,081百万円 (約10.8億円)
負債合計: 135百万円 (約1.4億円)
純資産合計: 946百万円 (約9.5億円)
当期純利益: 405百万円 (約4.1億円)
今回の決算で最も注目すべきは、4.1億円という非常に高額な当期純利益です。これは主に、同社が支援してきた投資先スタートアップがIPO(新規株式公開)やM&A(合併・買収)に至ったことによる、保有株式の売却益(キャピタルゲイン)によるものと推察されます。
総資産約10.8億円に対し、純資産が約9.5億円、自己資本比率は約87.5%と極めて高く、盤石の財務基盤を誇ります。潤沢に積み上がった約8.2億円の利益剰余金は、同社が運営するファンドがいかに高いパフォーマンスを上げ、投資家(LP)に大きなリターンをもたらしてきたかを物語っています。実際に、2024年3月に満期を迎えた「STRIVE1号ファンド」が、投資リターン倍率4倍超という輝かしい実績を達成したというニュースは、この好業績を力強く裏付けています。
事業内容と今後の展望(考察)
【事業内容の概要】
STRIVE株式会社は、シードからアーリーステージ(創業期〜成長初期)のスタートアップを中心に投資を行う、ベンチャーキャピタル(VC)です。しかし、その役割は単なる資金の提供者に留まりません。
その社名「STRIVE(努力する、闘う)」が示す通り、「起業家と同じ船に乗り、共に立ち向かい、共に汗をかく」という徹底したハンズオン支援こそが、同社の真髄です。経営戦略、組織づくり、人材採用、事業提携先の紹介など、投資先企業が直面するあらゆる課題に対し、パートナーとして深くコミットし、事業の成長を二人三脚で支えます。
投資対象地域は日本国内に留まらず、成長著しい東南アジアやインドにも及びます。そのポートフォリオには、今やSaaS業界のデファクトスタンダードとなったSmartHRや、グロース市場に上場したキャスター、Kaizen Platformなど、日本のスタートアップシーンを代表する企業が名を連ねています。
【財務状況と今後の展望・課題】
4.1億円という巨額の利益は、STRIVEのビジネスモデルがいかに成功しているかを如実に示しています。その成功の背景には、いくつかの明確な要因があります。
「ハンズオンVC」としての卓越したブランドと実績:
VC業界において、STRIVEの「ハンズオン支援」は、その代名詞となっています。この深く、そして熱いコミットメントが、志の高い優秀な起業家たちを惹きつけ、「STRIVEから出資を受けたい」と思わせる強力なブランドを築き上げています。有望なスタートアップへの投資機会が、自然と集まってくる好循環が生まれているのです。
経営陣の豊富な知見と広範なネットワーク:
代表の天野雄介氏、堤達生氏をはじめとするパートナー陣は、日本のVC業界を牽引するキーパーソンです。彼らが持つ、事業をスケールさせるための豊富な経験と、国内外に広がる強力なネットワークが、投資先企業の成長を加速させる上で、かけがえのない資産となっています。
明確な投資戦略と実行力:
シード・アーリーステージという、最も支援を必要とするフェーズに特化し、自らが深く関与できる範囲で投資を行う。そして、日本と成長著しいアジア市場にフォーカスすることで高いリターンを狙う。この明確な投資戦略と、それを着実に実行する力が、ファンドの高いパフォーマンスに繋がっています。
今後の展望として、STRIVEは日本のスタートアップエコシステムにおいて、さらにその中核的な役割を担っていくことが期待されます。
次世代のユニコーンの発掘と育成:
成功を収めた1号ファンドに続き、現在運用中のファンド、そして今後組成されるであろう新ファンドを通じて、次の時代を創る新たなユニコーン企業(時価総額1,000億円超の未上場企業)を発掘し、世界で戦える企業へと育て上げていくことが、最大のミッションです。
新たな投資領域への挑戦:
これまでのSaaSやインターネットサービスといった領域に加え、気候変動対策(クライメートテック)や、ヘルスケア、AI、ディープテックなど、より社会課題の解決に直結し、かつ長期的な視点が必要となる領域への投資も、その活動の幅を広げていく可能性があります。
アジアにおけるプレゼンスの拡大:
成長が続く東南アジアやインド市場は、イノベーションの宝庫です。これまでの実績をてこに、現地のスタートアップエコシステムにおけるハブとしての機能をさらに強化し、国境を越えたイノベーションの創出を支援していくでしょう。
もちろん、VCビジネスは常にマクロ経済の変動リスクに晒されています。世界的な金利上昇や景気後退は、スタートアップへの投資マインドを冷やし、EXIT市場を停滞させる可能性があります。また、日本でもVCの数が増え、有望な投資先を巡る競争は激化しています。その中で、「STRIVEならではの付加価値」を磨き続け、起業家から選ばれ続ける存在であり続けられるかが問われます。
総じて、STRIVE株式会社は、卓越した実績と、起業家に寄り添う真摯な姿勢で、日本のVC業界に確固たる地位を築いたトッププレイヤーです。その決算書に刻まれた利益は、単なる数字ではなく、数々のスタートアップの「野心」をスケールさせ、成功へと導いてきた汗と情熱の結晶です。STRIVEが次に誰の、どんな野心に命を注ぎ、時代を拓くのか。その動向から目が離せません。
企業情報
企業名: STRIVE株式会社
所在地: 東京都港区虎ノ門5丁目11番1号 オランダヒルズ森タワーRoP1203
代表者: 代表取締役 天野 雄介、堤 達生
事業内容: シードからアーリーステージのスタートアップを中心に投資を行う、独立系ベンチャーキャピタル(VC)。資金提供だけでなく、経営戦略から採用支援まで、事業成長に深くコミットする「ハンズオン支援」を強みとする。