決算公告データ倉庫

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#736 株式会社ハースト婦人画報社 第36期決算 当期純利益 1,942百万円

1905年創刊の『婦人画報』を源流とし、1世紀以上にわたり日本のライフスタイルやファッションを牽引してきた株式会社ハースト婦人画報社。同社の第36期(2024年12月31日現在)の決算公告が、2025年4月1日付の官報に掲載されました。そこには、従来の出版社の枠組みを大きく超え、デジタル、Eコマース、ソリューション事業で力強く成長する現代メディア企業の姿が明確に映し出されていました。本記事では、この決算内容を読み解き、同社の成功の要因と今後の展望を考察します。

20241231_36_ハースト婦人画報社決算

第36期 決算ハイライト
資産合計: 7,009百万円 (約70.1億円)
負債合計: 3,743百万円 (約37.4億円)
純資産合計: 3,265百万円 (約32.7億円)
当期純利益: 1,942百万円 (約19.4億円)
利益剰余金: 2,890百万円 (約28.9億円)


第36期の決算は、当期純利益が19.4億円という極めて高い水準に達しました。利益剰余金も約29億円と潤沢に積み上がっており、盤石な収益力と財務基盤を確立していることが分かります。出版業界が構造的な変革期にある中で、この驚異的な利益水準は、同社が展開する多角的な事業戦略が大きな成功を収めていることを雄弁に物語っています。

事業内容と今後の展望(考察)


【事業内容の概要】
ハースト婦人画報社は、米国のグローバルメディア企業「ハースト」の一員として、その強固な基盤とネットワークを活かし、多岐にわたる事業を展開しています。

 

プレステージ・メディアの運営:

『ELLE』、『25ans』、『Harper's BAZAAR』、『婦人画報』、『Esquire』など、国内外のラグジュアリー・メディアブランドを多数展開。長年の歴史で培った圧倒的な編集力と信頼性を武器に、ファッション、ビューティ、ライフスタイル、アートといった分野で、質の高い情報を求める富裕層・高感度層に深くリーチしています。


Eコマース事業の展開:

メディアの世界観をそのまま購買体験に繋げる「コンテンツコマース」を収益の大きな柱としています。編集者が目利きした商品を揃える『ELLE SHOP』や『婦人画報のお取り寄せ』は、読者の信頼を基盤に大きな成功を収め、メディア発Eコマースの国内における代表的な成功事例となっています。


BtoBソリューション事業の確立:

メディア運営で培ったコンテンツ制作力と、デジタルメディアから得られる豊富な1st Partyデータを活用し、クライアント企業のマーケティング活動を総合的に支援する『HEARST made』や『HEARST Data Solutions』を提供。単なる広告媒体社から、企業の課題解決を担うソリューションパートナーへと進化を遂げています。


【好業績の背景と「編集力」という核心】
19.4億円という高い純利益を生み出した要因は、これら3つの事業が有機的に連携し、相乗効果を生み出している点にあります。そのすべての事業の核となっているのが、同社がミッションとして掲げる**「感動を編集し時代を創る」**という卓越した「編集力」です。

 

信頼が収益を生むエコシステム:
同社のビジネスモデルは、質の高い「編集コンテンツ」が読者からの「信頼」を生み、その信頼が雑誌やデジタルの「広告収益」に繋がり、さらには編集者の目利き力を信じた読者が「Eコマース」で商品を購入するという、美しいエコシステムに基づいています。この好循環こそが、高い収益性の源泉です。

 

デジタルとデータの先進的な活用:
親会社であるハーストがグローバルで導入するCMS(コンテンツ管理システム)「MediaOS」の活用や、1st Partyデータに基づいたマーケティングソリューションの提供など、先進的なデジタル戦略が事業成長を加速させています。特に、Cookie規制が強化される中で、良質な読者から許諾を得て得られる自社のデータは、他社にはない競争優位性となります。

 

ラグジュアリー市場との強い親和性:
同社がターゲットとする富裕層・高感度層の消費は、コロナ禍後も堅調に推移しています。単なるモノの所有ではなく、その背景にあるストーリーや本質的な価値、サステナビリティといった要素を重視する現代のラグジュアリー層の価値観に対し、同社のメディアが発信するメッセージやEコマースの品揃えは的確に応えています。

 

【未来に向けた展望と挑戦】
盤石な事業基盤を築いたハースト婦人画報社ですが、その歩みを止めることはありません。「時空を超えて、最上のメディア・カンパニーへ」というビジョンのもと、さらなる挑戦を続けていくでしょう。

 

コンテンツコマースのさらなる深化:
今後は、記事や写真だけでなく、動画やライブコマース、さらには3DやARを活用したバーチャルなショッピング体験など、よりリッチで没入感のあるコンテンツを通じて商品を提案していくことが予想されます。メディアとEコマースの境界線はますますシームレスになり、読者はメディアの世界観の中で自然に購買を楽しむようになります。

 

ソリューションプロバイダーとしての進化:
企業のDX支援やブランディング、コンテンツマーケティングの需要は今後も拡大が見込まれます。同社は、メディア企業ならではの質の高いクリエイティビティと、データに基づく分析力を武器に、BtoBソリューション事業をさらに拡大していくでしょう。

 

サステナビリティと企業の信頼性:
環境マネジメント規格「ISO14001」の取得や、メディアを通じたサステナビリティに関する積極的な情報発信は、企業の社会的責任が厳しく問われる現代において、ブランド価値と読者・顧客からの信頼を維持・向上させる上で不可欠な要素です。

 

110年以上の歴史を持つ老舗でありながら、常に時代の先端を走り、革新を続けるハースト婦人画報社。その強さの源泉は、過去から受け継がれる「編集」という名の審美眼と、未来を見据えたデジタル戦略の融合にあります。これからも同社は、読者に感動とインスピレーションを与え、新しい時代を創り出していくことでしょう。

 

企業情報
企業名: 株式会社ハースト婦人画報社
所在地: 東京都港区南青山三丁目8番38号
代表者: 代表取締役 ニコラ・フロケ
事業内容: 『ELLE』『婦人画報』など雑誌・デジタルメディアの運営、メディアと連動したEコマース事業(『ELLE SHOP』等)、クライアント企業のマーケティングを支援するBtoBソリューション事業などを展開する総合メディア企業。

www.hearst.co.jp