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#727 決算分析 : 株式会社マリ 第7期決算 当期純利益 ▲241百万円

京都大学発の医療系スタートアップ、株式会社マリの第7期(2024年12月期)の決算公告が、2025年4月2日付の官報に掲載されましたので、その概要と事業内容を考察します。

20241231_7_マリ決算

第7期 決算のポイント(単位:百万円)
資産合計: 341 (約3.4億円)
負債合計: 9 (約0.1億円)
純資産合計: 332 (約3.3億円)
当期純損失: 241 (約2.4億円)


今回の決算では、当期純損失として241百万円(約2.4億円)が計上されています。利益剰余金はマイナス307百万円(約3.1億円の累積損失)ですが、それを大きく上回る548百万円(約5.5億円)の資本剰余金により、純資産は約3.3億円のプラスを確保しています。これは、革新的な医療機器の実用化を目指す研究開発型(R&D)スタートアップが、外部から大規模な資金調達を行い、研究開発に先行投資している典型的な財務構造です。

 

事業内容と今後の展望(考察)


【事業内容の概要】
株式会社マリは、「Sleep Freely. 世界の睡眠障害をやさしく解決したい」というミッションを掲げ、2017年に設立された京都大学発のスタートアップです。特に、多くの現代人が悩む「睡眠時無呼吸症候群SAS)」の課題解決に、革新的なアプローチで挑んでいます。

 

接触睡眠時無呼吸症候群SAS)診断機器の開発:

身体にセンサー類を一切装着することなく、睡眠中の呼吸状態をモニタリングできる簡易スクリーニング装置を開発しています。同社が持つ音波解析やミリ波レーダといった高度なセンシング技術により、自宅にいながら手軽にSASのリスクを評価できる世界の実現を目指しています。


接触睡眠時無呼吸症候群SAS)治療機器の開発:

現在のSAS治療の主流であるCPAP療法は、有効性が高い一方で、マスクを装着して寝ることに抵抗を感じ、治療を継続できない患者が少なくありません。マリは、この課題を根本から解決するため、独自の低周波照射技術を用いて、身体に触れることなく気道の閉塞を防ぐ、画期的な非接触治療機器の開発を進めています。


医療ニーズ起点の開発プロセス「バイオデザイン」:

同社のCEOである瀧宏文氏は、医師・情報学博士であると同時に、スタンフォード大学発の医療機器開発手法「バイオデザイン」の専門家でもあります。医療現場の真のニーズを深く理解し、そこからソリューションを創出する開発プロセスを徹底している点が、同社の大きな特徴です。


【財務状況と今後の展望・課題】
第7期決算における約2.4億円の当期純損失、そして約3.1億円の累積損失は、革新的な医療機器を世に送り出すための研究開発に多額の投資を行っていることの証左です。これは製品上市前のディープテック・スタートアップにとって極めて健全な状態であり、AMED(日本医療研究開発機構)の「医工連携事業化推進事業」に採択されるなど、その技術と将来性が公的機関からも高く評価されていることを示しています。

 

純資産がプラスに保たれているのは、ベンチャーキャピタルなどから将来性を見込まれ、大規模な資金調達に成功しているためです。約5.5億円の資本剰余金は、株主からの期待の大きさを物語っています。

 

株式会社マリが取り組む事業は、SASに起因する高血圧や心不全といった重大疾患の予防や、社会問題化している睡眠負債の解決に直結する、非常に社会貢献性の高いものです。特に、以下の強みが成功の鍵を握っています。

 

革新的な「非接触」技術:

既存治療の最大の課題である「装着感」を解消する「非接触」というアプローチは、SAS治療のパラダイムシフトを起こす可能性を秘めています。これが実現すれば、治療継続率が劇的に向上し、多くの患者のQOLを高めるゲームチェンジャーとなり得ます。


「医師×工学」の専門性:

医療現場と最先端の工学技術を深く理解する瀧CEOを中心に、IPO経験のあるCFO、著名な大学教授らが集う専門家集団が、開発を強力に推進しています。


アカデミアとの強力な連携:

京都大学東北大学といったトップクラスの研究機関との共同研究体制により、技術的な優位性を確保しています。


しかし、革新的な医療機器開発の道のりは平坦ではありません。今後、以下のようなハードルを越えていく必要があります。

 

薬事承認という最大の関門:

医療機器として販売するためには、有効性と安全性を証明する臨床試験(治験)を実施し、規制当局(PMDA)から承認を得る必要があります。これは非常に時間とコストを要する、最も高いハードルです。


継続的な大規模資金調達:

治験の実施、そして承認後の量産体制や販売網の構築には、さらなる資金が不可欠です。事業の進捗に合わせて、追加の資金調達ラウンドを成功させられるかが生命線となります。


開発競争と市場投入のタイミング:

睡眠テック市場は世界的に注目度が高く、競合との開発競争も念頭に置かなければなりません。スピード感を持った研究開発と、適切なタイミングでの市場投入が求められます。


今後のマイルストーンとしては、まずSAS診断(スクリーニング)機器の製品化と薬事承認の取得が挙げられます。これにより、早期の収益化と、同社技術の有効性を市場に証明することが可能になります。そして最終的なゴールは、SAS治療機器の開発成功です。この非接触治療機器が実用化されれば、株式会社マリは睡眠医療の歴史に名を刻む企業となるでしょう。その挑戦の行方に、大きな期待が寄せられます。

 

企業情報
企業名: 株式会社マリ
所在地: 京都府京都市下京区中堂寺粟田町91 京都リサーチパーク9号館104号室
代表者: 代表取締役CEO 瀧 宏文
事業内容: 音波解析やミリ波レーダ等の独自技術を用いた、睡眠時無呼吸症候群SAS)向けの非接触型診断・治療機器の研究開発。

marisleep.co.jp

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