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#725 決算分析 : 東京理科大学インベストメント・マネジメント株式会社 第11期決算 当期純利益 318百万円

学校法人東京理科大学のグループである、東京理科大学インベストメント・マネジメント株式会社の第11期(2024年12月期)の決算公告が、2025年3月25日付の官報に掲載されましたので、その概要をピックアップします。

20241231_11_東京理科大学インベストメント・マネジメント決算

第11期 決算のポイント(単位:百万円)
資産合計: 40,626 (約406.3億円)
負債合計: 35,343 (約353.4億円)
純資産合計: 5,283 (約52.8億円)
当期純利益: 318 (約3.2億円)


今回の決算では、当期純利益として318百万円(約3.2億円)という黒字が計上されています。資産合計は約406.3億円、負債合計は約353.4億円で、純資産合計は約52.8億円です。利益剰余金は1,192百万円(約11.9億円)あり、資本金100百万円(約1.0億円)および資本剰余金3,994百万円(約39.9億円)と合わせて、強固な財務基盤を維持しながら、着実な利益を上げています。

 

事業内容と今後の展望(考察)


【事業内容の概要】
東京理科大学インベストメント・マネジメント株式会社は、単なる投資会社ではなく、大学の研究成果を社会に還元するためのエコシステムの中核を担う、極めて戦略的な企業です。同社の公式ウェブサイトによると、主な事業として以下の点が挙げられます。

 

大学発スタートアップエコシステム「TUSIDE」の中核機能:

同社は、学校法人東京理科大学(研究シーズ創出・産学連携)、ベンチャーキャピタルである東京理科大学イノベーション・キャピタル株式会社(TUSIC)(資金供給)と三位一体となり、大学発スタートアップエコシステム「TUSIDE」を形成しています。その中で同社は、インキュベーション施設の運営、起業支援イベントの企画・実行を担い、アイデア段階から事業化までを支援するハブとしての役割を果たしています。


インキュベーション施設の運営:

東京都認定のインキュベーション施設「quantum cross point」を運営しています。ここは東京理科大学の関係者だけでなく、広く学外の起業家にも開かれたオープンな施設であり、物理的な拠点提供に加えて、専門家によるメンタリングやビジネスマッチングなど、多角的な支援を提供しています。


創業支援と事業化促進:

「“志”のある学生・OB/OG・研究者」を対象に、創業プランの策定から資金調達、プロトタイピングまで、事業化初期のあらゆるフェーズを支援する「全方位・ワンストップ型」のプログラムを提供。東京都の「大学発スタートアップ創出支援事業」にも採択されており、公的な支援も活用しながら活動を推進しています。


【財務状況と今後の展望・課題】
第11期決算で約3.2億円の当期純利益を計上したことは、同社の事業モデルが軌道に乗り、社会貢献と経済的自立を両立させるフェーズに入ったことを強く示唆しています。大学関連の事業体が、単なる先行投資に留まらず、これだけの規模の利益を確保している点は特筆に値します。この黒字の背景には、インキュベーション施設の利用料や各種支援プログラムからの収益に加え、エコシステム「TUSIDE」を通じて育成・投資したスタートアップの成長に伴うリターン(株式売却益など)が、収益に貢献し始めた可能性が考えられます。

 

貸借対照表に見られる固定資産が37,944百万円(約379.4億円)と大きい点は、インキュベーション施設等の有形資産に加え、投資専門会社である「東京理科大学イノベーション・キャピタル」への出資金などが含まれると推察され、エコシステム全体を支える財務的な体力を示しています。この強固な基盤の上で利益を創出できていることは、同社の運営手腕の高さを物語っています。

 

東京理科大学インベストメント・マネジメント株式会社が取り組む事業は、日本の国際競争力を左右する大学発イノベーションの創出という点で極めて社会的な意義が大きいです。特に、同社の以下の強みは、今後の成長において重要な推進力となるでしょう。

 

三位一体の強力なエコシステム「TUSIDE」:

大学が持つ研究シーズ、同社が提供するインキュベーション機能、そしてVCによる資金供給がシームレスに連携する体制は、スタートアップが直面する課題を網羅的に解決できる強力なプラットフォームです。


日本随一の理工系総合大学というバックボーン:

東京理科大学の広範な研究領域から生まれる質の高い技術シーズや、優秀な学生・研究者・OB/OGといった豊富な人材プールに直接アクセスできることは、他にない圧倒的なアドバンテージです。


「quantum cross point」というオープンな場:

支援対象を学内に限定せず、門戸を広く開くことで、多様な知見や人材、資金が交流する化学反応を促進し、イノベーションの可能性を最大化しています。


確立された収益基盤を持つ一方で、その成長を持続させていくためには、新たな挑戦も求められます。今後の課題としては、成功したスタートアップからの利益を、次世代の起業家育成や、より挑戦的な研究シーズの事業化支援へと再投資するサイクルを、さらに加速・拡大させていくことが挙げられます。また、成功事例(Exit実績は既に10社)を継続的に創出し、投資ポートフォリオの質を一層高めていくことが、長期的な収益安定化の鍵となります。

 

今後のマイルストーンとしては、この潤沢な利益と自己資本を原資として、支援プログラムのさらなる拡充、インキュベーション施設の機能強化や地方・海外への展開、あるいは新たなテーマに特化したファンドの設立など、事業のスケールアップを加速させていくことが大いに期待されます。日本の大学発スタートアップエコシステムのロールモデルとして、同社が今後どのような成長戦略を描くのか、その動向から目が離せません。

 

企業情報
企業名: 東京理科大学インベストメント・マネジメント株式会社
所在地: 東京都新宿区神楽坂一丁目3番地
代表者: 代表取締役 片寄 裕市
事業内容: 大学発スタートアップエコシステム「TUSIDE」の中核として、インキュベーション施設の運営、創業支援プログラムの提供、東京理科大学の研究成果の事業化支援などを行う。

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