九州地方の未来を担う人材育成を目指す、一般財団法人英進館奨学金財団の記念すべき第1期(2024年10月期)の決算公告が2025年1月27日に掲載されました。2024年8月に設立されたばかりの新しい財団の、第一歩となる財務状況を見ていきます。

第1期 決算のポイント(単位:百万円)
資産合計: 10百万円 (約0.1億円)
負債合計: 1百万円 (約0.0億円)
純資産(正味財産)合計: 9百万円 (約0.1億円)
今回は設立初年度の決算であり、事業活動の基盤となる財産状況が示されています。資産合計10百万円は、設立者からの拠出金が元になっており、その大部分(884.7万円)が使途を奨学金事業に限定された「指定正味財産」として計上されています。これは、財団の目的である奨学金事業を着実に遂行していくという強い意志の表れです。
事業内容と今後の展望(考察)
【事業内容の概要】
一般財団法人英進館奨学金財団は、九州を拠点に最大の学習塾グループを展開する英進館ホールディングス株式会社の筒井勝美会長、筒井俊英社長、そして同社自身が設立者となり、未来の日本社会に貢献できる人材の育成を目的に設立されました。
その事業の核は、極めて明確かつ戦略的です。
対象を九州の国立4大学、医学・理工系に特化:
奨学金の対象を、九州大学、熊本大学、長崎大学、鹿児島大学の医学部医学科および理工系学部に在籍する学生に限定。これは、設立者自身が九州大学工学部や医学部の出身であるという背景に加え、「高度な医学、理工系人材が、優れた医療技術、科学技術力、産業力の発展を促進する」という強い信念に基づいています。
返済義務のない「給付型」奨学金:
経済的な理由で学業の継続が困難な優秀な学生に対し、月額4万円を各学部の最短修業年限(医学科6年、理工系4年)にわたり給付します。返済義務がないため、学生は卒業後の負債を気にすることなく、学業や研究に専念することができます。
【設立の意義と今後の展望】
この財団の設立は、単なる社会貢献活動に留まらない、深い意義を持っています。
地方創生への強い意志:
東京一極集中が進み、地方大学からの人材流出が課題となる中、九州を代表する4大学の、地域の将来を担うべき医学・理工系人材に投資を集中させることは、九州地方の知の拠点(アカデミア)を支え、将来の地域産業や医療を担うリーダーを育成するという、明確な地方創生への貢献策です。
設立者の経験と情熱の結晶:
九州の地で長年にわたり小中高生の教育に心血を注いできた英進館が、その先の高等教育、特に専門分野の人材育成にまで踏み込んだことは、同社の教育にかける情熱と社会的責任感の表れです。設立者自らが教育現場の最前線に立ち続けてきたからこそ、経済的困難が若者の可能性を閉ざしてしまうことへの強い問題意識と、それを解決したいという純粋な想いが伝わってきます。
未来への投資:
医学と理工学は、国の競争力や人々の生活の質を左右する基幹分野です。この分野の優秀な人材を育成することは、短期的なリターンを求めるものではなく、数十年先を見据えた、社会全体への「未来への投資」と言えます。
財団はまだ設立されたばかりであり、これから第1期生の募集・選考が始まります。財務基盤は設立時の拠出金10百万円からスタートしますが、今後の活動を継続・拡大していくためには、財源の安定化が不可欠です。母体である英進館ホールディングスの継続的な支援はもちろん、この財団の理念に共感する他の企業や個人からの寄付を今後どのように集めていくかが、一つの課題となるでしょう。
また、事業内容に「奨学生の交流」が掲げられている点も注目されます。単なる金銭的支援に終わらせず、医学と理工学という異分野の優秀な学生同士が交流する場や、設立者である経営者や社会の第一線で活躍する大人たちと接する機会を設けることで、奨学生の視野を広げ、新たなイノベーションの種を育む「コミュニティ」へと発展していくことが期待されます。
英進館奨学金財団は、九州の教育界をリードする企業の強いリーダーシップのもと、地域の未来を創造するために産声を上げました。この財団からどのような才能が羽ばたき、九州、そして日本の未来に貢献していくのか。その尊い第一歩に、心からのエールを送りたいと思います。
企業情報
財団名: 一般財団法人英進館奨学金財団
所在地: 福岡県福岡市中央区今泉一丁目11番12号
代表者: 代表理事 筒井 勝美
事業内容: 九州大学、熊本大学、長崎大学、鹿児島大学の医学部医学科および理工系学部に在籍する、学業優秀かつ経済的支援を必要とする学生に対する、返済義務のない給付型奨学金事業。
設立者: 筒井勝美(英進館ホールディングス㈱取締役会長)、筒井俊英(同社代表取締役社長)、英進館ホールディングス株式会社