決算公告データ倉庫

決算公告を自分用に収集・コメントし保管する倉庫。あくまで自分用であり、引用する決算公告を除き内容の正確性/真実性を保証できない点はご容赦ください。

#625 決算分析 : 株式会社宇佐美鉱油 第45期決算 当期純利益7,132百万円

日本の物流インフラを支えるサービスステーション(SS)最大手、株式会社宇佐美鉱油の第45期(2024年9月期)の決算公告が2024年12月16日に掲載されました。今回の公告からは、売上高1兆円に迫る巨大企業の圧倒的な経営規模と、エネルギー業界の変革期に挑む力強い戦略が明らかになりました。

宇佐美鉱油決算

 

東日本宇佐美決算

 

西日本宇佐美決算

 

宇佐美決算

 

第45期 決算のポイント(単位:百万円)
貸借対照表の要旨
資産合計: 206,681百万円 (約2,067億円)
負債合計: 100,172百万円 (約1,002億円)
純資産合計: 106,508百万円 (約1,065億円)


損益計算書の要旨
売上高: 945,440百万円 (約9,454億円)
営業利益: 100百万円 (約1億円)
経常利益: 7,428百万円 (約74.3億円)
当期純利益: 7,132百万円 (約71.3億円)


特筆すべきは、約9,454億円という圧倒的な売上高と、約71.3億円の当期純利益です。営業利益は1億円ですが、営業外収益が約74.7億円計上されており、経常利益ベースでは高い収益力を確保しています。これは、同社がグループ全体の統括機能を担う持株会社的な性格を持ち、傘下の事業会社からの配当金などが営業外収益として計上されているためと推察されます。また、純資産が約1,065億円、自己資本比率も約51.5%と、盤石の財務基盤を誇ります。

 

事業内容と今後の展望(考察)

【事業内容の概要】
1950年に愛知県津島市で創業した宇佐美鉱油は、今や全国に約500店舗の直営サービスステーション(SS)ネットワークを築く、業界の巨人です。しかし、その強みは単なる店舗数ではありません。

日本の物流を支える「トラックステーション」:

宇佐美は1961年に日本初の本格的なトラックステーションを開設したパイオニアです。主要幹線道路沿いに、大型トラックが給油・休憩できる広大な敷地と専門設備を備えた拠点を多数展開。これは単なるガソリンスタンドではなく、日本の大動脈である物流を支える社会インフラそのものです。

積極的なM&Aによるネットワーク拡大:

全国各地の石油販売会社を次々とグループ傘下に収めることで、地域に根差したネットワークを構築。そのM&A戦略はとどまることを知らず、近年は事業領域そのものを大胆に拡大しています。

「カーライフ」全般への事業多角化:

近年のM&Aは、石油販売事業に限りません。自動車用ランプやワイパーブレードのトップメーカーである「PIAA株式会社」、東海地方を地盤とする中古車販売・買取・整備の大手「株式会社グッドスピード」といった、全く異なる業種の有力企業を相次いでグループ化。これは、「燃料を売る場所」から「車に関するあらゆるサービスを提供する場所」へと、SSの価値を再定義する明確な戦略の表れです。

グループ経営による多角化:

実際のSS運営を担う(株)東日本宇佐美・(株)西日本宇佐美を中心に、産業用燃料やバイオディーゼルを手掛ける三和エナジー(株)、建設事業の(株)大村技建、保険サービスの(株)宇佐美保険サービスなど、多岐にわたるグループ会社を擁し、総合力を高めています。


【財務状況と今後の展望・課題】
売上高1兆円に迫る規模と71億円を超える純利益は、同社の事業戦略が成功していることを明確に示しています。営業利益が薄く、営業外収益でグループ全体の利益を計上する損益構造は、持株会社としてグループ全体の舵取りに徹していることを示唆しており、合理的です。1,000億円を超える潤沢な利益剰余金は、これまでの安定経営と、今後のさらなるM&Aや新規事業への投資原資となります。

エネルギー業界がEVシフトや脱炭素化という大きな構造変化に直面する中、多くのSS運営会社が事業の縮小や統廃合を余儀なくされています。しかし、宇佐美はその逆境を好機と捉え、むしろM&Aを加速させ、事業領域を拡大するという、他社とは一線を画すダイナミックな戦略を採っています。

「総合カーライフ・プラットフォーム」への進化:

宇佐美が目指すのは、全国約500ヶ所のSSを顧客接点とした、巨大なプラットフォームの構築です。そこでは給油だけでなく、買収したグッドスピードによる車検・整備・板金、PIAA製品をはじめとするカー用品の販売・交換、さらには中古車の売買、自動車保険の相談まで、カーライフに関わるあらゆるニーズをワンストップで満たすことができます。この強力な顧客囲い込み戦略は、将来のガソリン需要減少を補って余りある、新たな収益の柱となるでしょう。

次世代エネルギー供給拠点への布石:

EV化の流れに対応し、SSの広大な敷地を活用した急速充電ステーションの設置を進めることは必然です。また、グループ会社の三和エナジーバイオディーゼル製造プラントを稼働させるなど、カーボンニュートラル燃料への取り組みも始まっています。将来的に水素ステーションなども含めた、次世代の総合エネルギー供給拠点へとSSを進化させていくことが期待されます。

宇佐美鉱油の最大の課題は、この巨大な船を、エネルギー転換という荒波の中でいかに巧みに操船していくかです。しかし、同社は「守り」に入るのではなく、むしろ果敢なM&Aによって「攻め」の姿勢を貫いています。その姿は、基本理念に掲げる「情熱と勇気と希望をもって邁進する」をまさに体現するものです。日本の物流インフラを支えながら、来るべき新しいモビリティ社会のプラットフォーマーを目指す宇佐美グループの動向から、今後も目が離せません。

 

企業情報
企業名: 株式会社宇佐美鉱油
所在地: 愛知県津島市埋田町1丁目8番地
代表者: 代表取締役社長 宇佐美 智也
事業内容: 全国の主要幹線道路沿いに約500店舗のサービスステーションを展開する宇佐美グループの統括本部機能。石油製品販売を中核としつつ、積極的なM&Aにより、車検・整備、自動車部品、保険など「カーライフ」全般に事業を多角化。日本の物流を支えるトラックステーション網に強みを持つ。

usami-net.com

©Copyright 2018- Kyosei Kiban Inc. All rights reserved.