「ReFa」や「SIXPAD」で知られる株式会社MTGのコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)である、株式会社MTG Venturesの第6期(2024年9月期)の決算公告が2025年1月31日に掲載されましたので、その概要と事業内容を分析します。
第6期 決算のポイント(単位:百万円)
資産合計: 434百万円 (約4.3億円)
負債合計: 93百万円 (約0.9億円)
純資産合計: 341百万円 (約3.4億円)
当期純利益: 23百万円 (約0.2億円)
今回の決算では、当期純利益として23百万円(約0.2億円)が計上されています。資産合計は約4.3億円、負債合計は約0.9億円と低く抑えられており、純資産合計は約3.4億円となっています。利益剰余金も241百万円(約2.4億円)を計上しており、安定した財務基盤を維持しながら着実に利益を積み上げていることが伺えます。
事業内容と今後の展望(考察)
【事業内容の概要】
株式会社MTG Venturesは、2018年に設立された、株式会社MTGグループのCVCです。「起業家と心を一つにし、新たな産業を創造し続ける」ことをミッションに掲げ、スタートアップへの投資・成長支援を行っています。その活動は単なる投資に留まらず、東海地方を中心としたスタートアップエコシステムの構築にも深く貢献しています。
公式ウェブサイトによると、同社の事業の柱は以下の2つです。
VITAL LIFE 投資ファンドの運用:
親会社であるMTGの事業ビジョン「VITAL LIFE(世界中の人々の健康で美しく生き生きとした人生の実現)」に貢献するスタートアップを投資対象としています。ヘルスケア、ビューティー、ウェルネス、スポーツ、フードテックからAI、WEB3まで、革新的な技術やサービスで人々の生活を豊かにする可能性を秘めた企業へ幅広く投資を実行しています。2024年9月時点で31社への投資実績があり、うち4社(QDレーザ、琉球アスティーダ等)がIPOを果たすなど、着実な成果を上げています。
スタートアップエコシステム構築支援:
名古屋を本拠地とするVCとして、地域のエコシステム発展に強くコミットしています。具体的には、他の事業会社に対するCVC設立支援、起業家育成プログラムの提供、ピッチコンテストの開催、愛知県の支援拠点「PRE-STATION Ai」でのコミュニティ運営などを通じて、イノベーションが生まれる土壌そのものを耕しています。また、地域課題解決に特化した「Central Japan Seed Fund」の設立は、その姿勢を象徴する取り組みです。
【財務状況と今後の展望・課題】
第6期決算で23百万円の当期純利益を確保し、健全な財務状態を維持している点は、VCとしての優れた運営能力を示しています。VCの収益は、投資先株式の売却益(キャピタルゲイン)やファンド管理手数料が主ですが、設立6年目にして安定的に利益を生み出す体制を構築していることは、同社の投資戦略と経営手腕の高さを物語っています。
MTG Venturesの最大の独自性は、「CVCの枠組みにありながら、独立系VCとしての魂を持つ」点にあると言えるでしょう。公式ウェブサイトでも明言されている通り、同社は親会社MTGとの短期的な事業シナジーを投資の必須条件とせず、スタートアップが単独で成長しEXITできるかという「純投資目線」での意思決定を貫いています。これにより、スタートアップにとっては非常に重要な「迅速な投資判断」が可能となり、多くの起業家から信頼を得ています。これは、親会社の戦略に縛られがちな一般的なCVCとは一線を画す、極めてユニークなスタンスです。
この独自の立ち位置を支えているのが、「VITAL LIFE」という明確かつ射程の広い投資哲学です。この軸があることで、一見すると関連性の薄い多様な分野のスタートアップ(例:半導体レーザー技術のQDレーザ、プロ卓球チームの琉球アスティーダ、日本酒ブランドのClear)への投資が、一本の太い線で繋がります。これは、MTGグループの持つアセットや知見を将来的に活用できる可能性を秘めつつも、各社の自主性を尊重する、という絶妙なバランスを可能にしています。
今後の展望として、MTG Venturesは日本のウェルネス市場を牽引するリーディングVCとしての地位をさらに強固にしていくでしょう。フェムテック、スリープテック、メンタルヘルスといった新しい「VITAL LIFE」領域は今後も拡大が見込まれ、同社の専門性が活きる場面は増え続けます。また、地域エコシステムのハブとしての役割もますます重要になります。名古屋・東海地方から世界に挑戦するスタートアップを継続的に輩出することで、東京一極集中ではない、日本の新たなイノベーションモデルを提示することが期待されます。
一方で、VCとしての宿命ではありますが、継続的に大型のEXIT(IPOやM&A)を創出し、ファンド出資者へ高いリターンを還元し続けることが最大のミッションです。これまでの実績は素晴らしいものですが、今後さらに大きな成功事例を生み出せるかが、トップティアVCとして飛躍するための鍵となります。また、「独立性」と「連携」という、CVCとしての理想的なバランスを保ちながら、MTGグループ全体のアセットをスタートアップの成長のために最大限活用していくという、高度な舵取りも引き続き求められます。
MTG Venturesは、CVCの新たな可能性を示す、先進的なモデルケースです。確固たる哲学と地域への貢献意識を持ち、起業家と真摯に向き合うその姿勢は、日本のスタートアップシーンにおいて唯一無二の価値を放っています。その投資先から、未来の日本、そして世界の「VITAL LIFE」を創造する次なるユニコーン企業が誕生する日も遠くないかもしれません。
企業情報
企業名: 株式会社MTG Ventures
所在地: 愛知県名古屋市中区錦2丁目8番24号 オフィスオオモリ8階
代表者: 代表取締役 藤田 豪
事業内容: 親会社である株式会社MTGの事業ビジョン「VITAL LIFE」に貢献するスタートアップへの投資を行うCVC。純投資目線での迅速な意思決定を特徴とし、ファンド運用に加え、東海地方を中心としたスタートアップエコシステムの構築支援も積極的に行っている。